第4話 尼
マニュアルに載っている地図を見ながら、薄暗くなり掛けた山道を進んでいると、何やら明かりが見えてくる。
売店か......
そこにはいくつかの人影が見え隠れしていた。ここは観光地である訳だから、人が居るのは当たり前と言えよう。別に驚く程の事ではないが、人が居るイコールここからが本番という事になる。
よしっ! ボールは心の中で気合いを入れ直し、スタスタスタ......突撃を開始した。
とは言え......あまり自殺オーラを出し過ぎて、色々な人から何度も呼び止められるのも困るし、かと言って肝心の『お誘い者』の目に留まらないのも困る。
何だか難しいな......ポールは引き受けてしまった事に対し、幾分か後悔の念にかられはするが、今更後戻りも出来ない。突き進むしかなかったのである。
まぁ、行き当たりばったり。覚悟を決めるとしましょう......
ポールは明かりに群がる虫ではないが、取り敢えずおぼろ気な明かりを放つ売店を目指した。回りをキョロキョロ見渡し、いかにも怪しい人物を装う。
売店は間もなく閉店なのだろう。パートらしき中年女性が店頭に出ていたものをせっせと片付けている。
おやっ? ポールはその時、売店の横に立つ一人の女性に目が動いた。女性と言ったのは、何となく体型がそのように見えたというだけで、笠を深く被っている為、実際に顔が見えたという訳ではない。
全身白装束に身を固め、右手は拝むようにして前に突き出し、左手の平には小さな丸い器が乗せられていた。
尼さんか......
自殺の名所に尼さん......妙にマッチしているようにも思えるが、場所が場所だけに不気味に見えてならない。決して興味本意という訳ではないが、怖いもの見たさという本能も助長し、気付けばポールはその『尼さん』に向かって歩き始めていた。
タッ、タッ、タッ......靴底が磨り減った革靴を引き摺りながら、歩き進む。やがて直立不動のその者の前で足を止めると、ポールは財布から千円札を1枚取り出し、左手に乗せられた器の中に納めた。
一体どんな反応を示すのか?
職務から脱線した寄り道と言わざるを得ないような行動だった。勿論使った千円札は自腹だ。
すると尼は、ゆっくりと顔を上げる。自ずと二人の視線が合わさった。
「!!! なんと!」
ポールはその尼の顔を見た途端、それまで装っていた『自殺志願者』の顔が俄に緩み、ボールが本来持っている『女ったらし』の顔へと見る見るうちに変貌していった。
何じゃこの美人は!
ボールは思わず職務を忘れ、ただポカンと口を開けているだけだった。 頭の中が真っ白になる。




