第11話 開戦
やがて階段を上がる重い足音が近づいてくる。
ダッ、ダッ、ダッ......
ダッ、ダッ、ダッ......
そして......
バタンッ! 勢いよく扉が開くと、そこに現れたのは大きな『荷物』を抱えた2人のスーツ男だった。顔を真っ赤にしている。さぞかし重かったに違いない。
全員の視線が一斉にその『荷物』へと向けられた。
「なっ、なんと......」
大門の表情は俄に曇りを見せる。信じられない! そんな表情だ。それに対しインテリ上司はと言うと、鬼の首を捕ったかのように声高らかに笑い始めた。
「ハッ、ハッ、ハッ......こっ、これが......これが君の言う精鋭か? 実に素晴らしい。こっ、これを笑わずにいれるか? お前達も笑え。ハッ、ハッ、ハッ......」
インテリ上司は肩を震わせてなおも笑い転げた。
2人のスーツ男が抱えてきた『荷物』......それが正に今帰還したばかりの精鋭である事は言うまでもない。着ていた服は全て脱がされ、全身にガムテープを巻かれたその姿。イモムシのようにモゴモゴと動いている。『精鋭』と名付けた大門にとって、その者達のこの姿は屈辱的とも言ってよかった。メンツ丸潰れだ。
よくよく見れば、イモムシのおでこに宅急便の伝票が貼られているではないか。大門は血相を変えて伝票を剥ぎ取る。そして食い入るようにそれを見詰めた。すると大門の体は感電したかのように震え始め、一気に顔が紅潮を始める。
伝票に書かれていた内容とは......
送付先:大門君のおうち
荷物 :大門君のイモムシ
送付者:ラブリーエマちゃん
備考 :今度会ったら浣腸しちゃうよ~ん♪
それは見事、大門のプライドを切り裂いた瞬間だったといえよう。嘲笑う送付者の顔が浮かんでくるようだ。
「フッ、フッ、フッ......ハッ、ハッ、ハッ......ハッ、ハッ、ハッ! 面白い。面白いぞ!」
大門は上を見上げ、地響きが起こるほどの笑い声を上げた。
「ハッ、ハッ、ハッ! ハッ、ハッ、ハッ!」
笑うその顔は、正に常軌を逸している。一本切れた......そんな表情だ。
「なっ、何がそんなにおかしいんだ?!」
余りに意外な大門の反応に、インテリ上司を始め、スーツ男達も皆言葉を失い、ただ呆気に囚われている。
「ハッ、ハッ、ハッ! ハッ、ハッ、ハッ!」
大門は笑うことを止めず、全身を痙攣させながら、なおも、なおも笑い続けた。
「気でも狂ったか?!」
「......」
「......」
「......」
大門の笑いは居る者全てに恐怖を与えた。皆、言葉を発する事も出来ず、ただ推移を見守る事しか出来ない。やがてその声は、ビルを越え、東京の夜空を駆け抜け、そして次なる戦いの舞台とも言える富士の樹海へと伝わっていくのだった。




