第10話 大門
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「大門君......君にしては珍しい。ヒヨコちゃんを取り逃がしたそうじゃないか」
王族が使うようなソファにふんぞり返り、ニヤニヤと不適な笑いを浮かべるインテリ男が、目の前に立つ大男に問い掛けた。
「そんなのは大丈夫です。すぐに捕まえます」
インテリ男は、眉を潜めながら更に追及を始める。
「君は本当に悠長だねぇ。警察に垂れ込まれたらどうするつもりだ?」
「警察にも息を掛けてるって自慢してたのはあなたでしょう。違いますか? 今更怖じ気づかれても困ります。大体奴等もそれくらいの事は想定しています。ヒヨコを警察につき出すようなバカな事は絶対しません。当たり前です。どうですか? 少しは安心しましたか?」
このインテリ男と大門剛助......見たところ、上司と部下の関係と思われる。しかし大門の発する言葉は全てにとげがあり、一切着飾る事をしない。こんな部下を持った上司は不運としか言いようが無い。そんな大門の威嚇とも取れる言葉の数々に、インテリ男の表情は一変した。
「なっ、なんだその言い種は! 結局取り逃がして、何の手掛かりも無いんだろう。いい加減にしろ。この無能男が!」
そんな上司の癇癪に対し、部下の大門は嘲笑うかのように冷静沈着。何も変わらぬトーンで答えた。
「ヒヨコを守っていた連中は、いっぱしの組織です。あの場でヒヨコを捕まえる事なんぞは訳の無い事でした。それでは奴等の息の根を止める事は出来ません。あそこで敢えて逃がしたのは奴等のアジトを特定する為です。もうすぐ尾行させた精鋭が奴等のアジトの場所を突き止めて戻って来る頃でしょう。すぐに乗り込みますんで、そんなに怯えないで下さい。部下も大勢見てますよ」
大門のすぐ後ろには、『帝徳ホテル』における大捕物に駆り出された狩人達が、お行儀よく横一列に並んでいた。
「カ、カ、カ、カ......ヌゥオ! すっすみません」
「ビェー! キ、キ、キ、キ、......すみません」
狩人達の何人かは、ポールの吹き付けた催涙スプレーをまともに浴びて、今もなお涙をボロボロとこぼし続けている。
「お前達は鳥か! 下がってろ!」
大門がイラついた表情を浮かべ、鳥達に罵声を浴びせ掛けたその時だった。突然後方の扉が勢いよく開いた。
バタンッ! 視線が一斉に扉に集まる。
「尾行班が只今戻りました!」
階段を掛け上がって来たのだろう。そう叫んだスーツ男の額からは汗が流れ出ていた。
「よしっ、通せ!」
大門の顔は、とうだ!と言わんばかり。いわゆる『ドヤ顔』と言う奴だ。それに対し、スーツ男はと言うと......
「そっ、それが......その......」
なぜか途端に困り果てる。一体何をそんなに困惑しているのだろうか? 理由は不明だ。
「いいから、早く連れてこい!」
「はっ、はい!」
大門に一蹴されたスーツ男は、何も言い返す事が出来ず、慌てふためきながら階段を掛け降りていった。
「大丈夫なのかい? 君の言う精鋭とやらは。何だか慌ててたようだが......ハッ、ハッ、ハッ......」
インテリ男は、皮肉を含んだ笑い声を発した。
「今、奴等の居場所を報告させますから。黙って待ってて下さい」
「ああ、いくらでも待つとしよう。私もその連中には興味がある。是非教えて欲しいものだ。どうか期待を裏切らないでおくれ。頼むよ。ハッ、ハッ、ハッ」




