第3話 花束
一方、連れの二人の男女はと言うと......
「なんかこのおばさん、やけに政治色濃くねえか?」
「歌手と言うよりかは政治家ね。新党富士の秋葉秀樹みたい」
「レッ、レイコサン素晴らしい! アナタは子孫のコトまで考えていらっしゃるのデスネ! オー、ブラボー、ブラボー!」
「......」
「......」
怒涛の拍手と喝采の中、日本の国旗を掲げて、万歳三唱を唱える老人グループすら見受けられる。
そんな中、再び司会者が仕事を始めた。
「それでは最後に花束の贈呈を行わせて頂きます。プレゼンターに選ばれた幸運なファンの方、さぁ、どうぞ!」
すると、満を持していたかのように、スポットライトがその方向に向けられる。やがて舞台の袖から、一人のまだあどけなさが残る青年が現れた。皆の視線が突き刺さるようにその青年へと向けられる。
タキシード姿があまり似合っていない。普段こういった服に着慣れていないのだろう。
「クッ、クヤシイです。ジブンも応募したのに、ハズレちゃいました。花束ゾウテイ以外に、ナッ、ナント直筆サインにツーショットの記念写真つきデス......アイツまじでウラヤマシイ......」
同席の二人は顔を見合わせた。
「何が羨ましいのかしら......理解不能ね」
「自分にも分かりまシェ~ン」
ギブアップ......そんな表情だ。
「生誕六十周年おめでとう!」
「これからもがんばれー!」
「麗子ちゃん。愛してる!」
大きな拍手と激励の言葉が飛び交う中、大きな花束を持った青年は、ぎこちない足取りで舞台の袖から主役の待ち受ける舞台の中心へと一歩一歩近付いて行った。その足取りは妙にぎこちない。
酔っ払っているのか? 顔を見る限り、赤みは差していない。というよりか、むしろ青白い。
「なんかあの若造、妙に顔ひきつってねえか?」
連れの男が目を細めながら呟いた。
「ファンなら誰でもアタリマエデス」
そう答えたのは、未だ悔しさを隠しきれないイケメンハーフ。
「あの子......やっぱちょっと変かも」
連れの女性は鋭い視線を壇上の青年に向けている。
「変って......何が?」
「あんな大きな花束なんで片手で持ってるのかしら? 大ファンなんでしょ。片手で渡す気なの?」
「ほんとだ。しかも右手はポケットに突っ込んだままだ」
いち早く異変を察知した三人ではあるが、この時点で何かを起こす切っ掛けもない。推移を見守るしか無かった。
やがて青年は、今宵主役の前で立ち止まる。
「有り難う」
青島麗子は、複数のスポットライトの光に包まれ、大勢の祝福の中、満面の笑みを浮かべながら花束を受け取るべく、両の手を前に差し出した。
「お目出とう!」
「お目出とう!」
そんな光と言葉が乱舞する中......花束を抱える青年の手は、一向に前へ出る気配を見せない。
「あわわわわ......」