第7話 選択
しかし実際、この時未来は結果として男に声を掛けた。そして犯行現場たる『帝徳ホテル』のディナーショーに圭一、ポール、美緒の3人が来ていた......これは運がいい、悪いとかの話ではなく、未来の天命がまだ尽きて居なかったが故の、必然たるシナリオだったと言えよう。
神は人に偶然を与えない。起きたことには必ず意味があり、そして理由がある。人はそれを『運命』と読んでいた。
そしてこの後、エマ達が飛んでもない相手と戦争をおっ始める事も、偶然ではなく、最初から決まっていた逃れようの無い『運命』だったと言わざるを得なかった。
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BGMの音量を絞った店内は、思いの外ひっそりとしている。バーテンダーの振る心地よいシェイカーの音だけが、辺りを包み込んでいた。未来の話が一旦区切りのついたところで、圭一は顔を横に向けながら問い掛ける。
「それで言われるがまま、青島麗子殺害をを引き受けたって訳だな」
「その通りです......あと......ターゲットを殺害した後、その場で自殺しろ。とも言われました」
「そっ、その場で自殺? 全く無茶な要求ね。人の命を何だと思っているのかしら! 絶対許せない......」
美緒は眼鏡の縁に指を触れながら、独り言のように呟いた。秘めた怒りが目に現れている。
「デモ結局殺せなかった......そうイウ訳なんデスネ。クワッ、クワッ、クワッ、カカカカカ!」
ポールの目からは未だぼろぼろと涙が流れ続けている。
「気にしないで話を進めて」
「はい。樹海で男との交渉が成立した後、自分はワゴン車に乗せられ何かの施設に連れて行かれました。窓はフルスモークだったので、外の景色は全く見えませんでした。連れて行かれた場所はどこだか解りませんが、樹海の入口からそんなには離れていないと思います。
その日から犯行当日まではその施設内で拘束されていました。正に地獄の毎日でした......お前は存在価値の無い人間だ! お前は虫けらだ!って。そんな事を毎日毎日言われ続けたらたまんないですよ。でも不思議ですよね......言われ続けているうちに自分でも何だかそれが正しいように思っちゃうんです」
「一種の洗脳って訳ね......」
エマは腕組みをしながらそう呟くと、眉を潜めた。
「今回の相手はさすがにちょっと皆さんの手に余るのでは? まぁ、バーテンダーの私が口を挟むような事ではありませんが......」
バーテンダーの表情はいつもと何ら変わらない。済ました表情でシェイカーを振りながら、さりげ無く持論を述べた。シャカ、シャカ、シャカ......
「まさか、未来を見捨てたりしないわよね」
美緒の眼鏡にスポットライトの光が反射し、その光がエマの顔を照らし出した。
「青島麗子サンまたキット命ネラワレル......」
ポールはしわくちゃになったディナーショーのパンフレットを見詰めながら今の境遇を嘆く。
「エマさん......どうしやす? いきますか? それとも......退きますか?」
圭一はバーテンダーの作ったカクテルを片手に決断を迫った。
「......」
エマは目を瞑り静かに考える......バーテンダーの言う通り、今度の相手は今まで戦った事のない程の強敵と思われる。『皆さんの手に余るのでは?』......バーテンダーは今の状況を、実に冷静且つ客観的に見ている。勝てる戦いはしてもいいが、負ける戦いはしない方がいい......まぁ、当たり前な発想だ。
それでも自分一人という事であれば、まず退くという選択肢はない。負けん気が強い事に関しては折り紙付きだ。しかし『EMA探偵事務所』はチームであり、エマは3人の命を預かる立場。感情に流されるような事があってはならない。
エマは順に3人の姿を見詰めた......




