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傷だらけのGOD 樹海の怪 地獄のサバイバル!  作者: 吉田真一
第4章 オーラ
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第9話 拳

大雪の中、『帝徳ホテル』の資材搬入車用の駐車場で対峙する2人......息を飲むような攻防がなおも繰り広げられていた。


このまま、奴の攻撃を待っていたら、次こそ餌食になる......攻撃こそが、最大の防御!


エマにとって、もはや奇襲攻撃しか活路を見出だす方法は無かった。息を殺してその時を待ったのである。そんなエマの心内を知ってか知らずか、男は余裕の表情で語り始める。


「さぁ、そろそろお遊びも終わりにしよう。そっちから掛かってこないなら、こっちか......」


今だっ!


エマは大門が御託を並べている間に、一筋の勝機を見出だした。電光石火のごとく右足を前に出し、大門の右足に絡める。そして間髪入れず、右手を大門の喉元目掛けて突き出した。


この右手が大門の喉元を捕らえれば、そのまま後ろに突き倒せる! 頼む! 届いてくれ!......


基本、自分よりも力の強い相手と戦う場合、ヒット&アウェイが攻撃の中心となる。自分よりも力の強い男に押さえ込まれたら、成す術がない。


今エマが仕掛けた攻撃......それは正に相手の懐に飛び込む捨て身の戦術と言って良かった。この攻撃で大門を後ろに倒せなければ、エマの細い身体は2本の太い腕に包み込まれ、後はされるがままとなる。


「うわぁ、女が飛び込んだぞ!」


膨れ上がったギャラリーから歓声が沸き起こった。もはやこの場所は闘技場と化している。皆固唾を飲んで見守っていた。


そして、バシッ!......肌と肌がぶつかり合う鈍い音が雪夜に響き渡る。


ううう......やがて悶え苦しむ呻き声が漏れる。


呻き声を発したのはどちらなのか......


その答えは......


残念ながら......


エマだった。


「お嬢ちゃんアマアマだな。隙を見せてやれば、すぐに飛び込んで来る事くらい誰でも分かるわ」


エマの突き出した右手は難なくかわされ、逆に大門の大きな右手がエマの喉をとらえていたのである。そしてそのまま力ずくで地面に押し倒され、全く身動きが取れない状態となっていた。


地面に仰向けとなり、完全に両手で押さえつけられてしまったエマ......


そしてその上で余裕の表情を浮かべている大男......勝負は一瞬にして、ついてしまったと言わざるを得ない。


エマは身動きの取れないまま、静かに目を開けた。そこに飛び込んできた景色は、銀色に輝く東京の雪夜と、拳を大きく振り上げた大門の巨体だった。この後、きっと大門の固い拳がエマの眉間に直角に落ちてくるのであろう。


後頭部は固いコンクリートの上に固定され、その力を他に逃がす事が出来ない。良くて顔面陥没。悪くすれば、頭蓋骨骨折、脳挫傷......被害の可能性は果てしなく広がる。


やがて大門の全体重を乗せた渾身の鉛玉は、いよいよエマの顔面に落ちて来ようとしていた。


終わった......エマは覚悟を決め、大きく目を見開いた。


「おりゃあ!」


そして大門の大きな掛け声と共に、拳はエマの顔面目掛けて降り下ろされたのである!


............


............


............



大きく見開かれたエマの目は、未だ微動だにせず開かれたまま。目蓋の0・1ミリ上には大門の拳が停止し、長いまつ毛が風に揺られて、大門の指をくすぐる。



「フッ......」


大門は軽く鼻を鳴らすと、降り下ろした拳を収めて立ち上がった。 


「こんな大勢見てるとこで、人殺しが出来る訳ねえだろう。まぁ、俺の拳に目を閉じなかったあんたの勇気に免じて、今日のところはあのガキをあんた達に預けておくとする。でもすぐに取り返しにいくぞ。次会った時は今日のようにはいかんからな」


いつしか、辺りはパトカーのサイレンの音が鳴り響き、その音はみるみるうちに近付いてくる。間もなく大勢の警官が押し寄せて来るのであろう。大門はそう告げるとエマに背を向け、即座に立ち去ろうとした。長居は無用.....そんな意思表示だ。



「あれっ! 男が寸止めしたぞ!」


「当たり前じゃん。いくらなんでも男が女の子の顔殴ったら酷いっしょ」


無責任なギャラリー衆は、各々勝手な寸評を始めていた。呑気なもんだ。


一方エマは、身体を起こし必死の声を上げる。


「待てっ! お前は誰なんだ? それから......何で.......何で私を......」


大門はエマに背を向けたまま答える。


「だから言っただろう。大勢が見てるからだって。それと...... 次会う時もその綺麗な顔で居て欲しいからな。ハッ、ハッ、ハッ。目蓋の傷は触れてないから大丈夫。風圧で切れただけだ。あんたの顔に傷をつけるつもりは無かったけど、さすがの俺も風圧までは想定に無かった。傷は浅いから跡が残ることも無かろう。俺の名は大門剛助ごうすけ。覚えといてくれ」


そう言い残し、大門は鮮やかに走り去っていった。


「......」


自分の力で避けたと思ってたのに......


最初から当てるつもりはなかったってことか......


完敗じゃん......


ここまで完璧に負けると、逆に気持ちが清々しい......


エマはポカンと口を開けたまま、すでに消え去った大門剛助の残像を見詰めていた。エマは切れた目蓋に指を触れてみる。ピリッとした痛みは感じるが、すでに出血は止まっていた。


かすり傷か......あいつの言った通りだ......


降り続く雪は暴風に乗り、一向に衰えを見せない。それはこれから始まる大波乱を予言しているかのようだった。



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