第7話 無我の境地
「お前......私の可愛い部下達を随分可愛がってくれたみたいだな。この落とし前ここできっちり付けさせてもらう。覚悟しろ!」
大門なる男にそう言い放ったエマの顔は、怒りに顔が紅潮し、目は鬼のように吊り上がっている。全身から発せられる殺気は、無数のナイフのごとく、大門に突き刺さっていった。
「おう、おう。威勢がいい姉ちゃんだ。お前本当にそのちっこい体で俺とタイマン張るつもりなのか? まぁ、いいだろう。不意討ちで倒された貸しもあるからな。どっからでも掛かっておいで。指1本でも俺に触れる事が出来たら誉めてやるぞ。ハッ、ハッ、ハッ」
大門は声高らかに笑い始めた。そしてそれは大門の笑いが収まる前に起きたのである。
バキッ!
「のうわぁ!」
突如、左の中指に激痛が走る。瞬きする前には、目の前に立っていた女の姿が今はどこにも見えない。気付けば女は自分の左腕に全身でしがみ付き、左中指を180度折り曲げているではないか!
なっ、何だと!......
大門は激痛に耐えながら、素早く女の身体を掴み込もうとするが、脳がそれを身体に命令した時には、すでに女の身体はそこに無かった。
それは正に一瞬の出来事......この女と戦う時は、1回の瞬きが命取りになることを大門が自覚した瞬間だった。
「どう......触れたぞ。早く褒めろよ。自分で言ったんだからちゃんとやれ」
大門の指は皮膚だけでだらんとぶら下がっていた。骨折している事は明らかだ。大門は顔を歪ませ、肩で息をしながら口を開く。
「一つだけ聞いておく。お前達は一体何者なんだ? それから何であのガキを守ろうとする? 今ならこれ以上お前達を傷つけたりしない。あのガキをこっちに寄こせ......これは最後の警告だ」
「あたしはEMA探偵事務所の代表 柊恵摩。青年を守る理由はお前達が青年を捕まえようとするからだ。私達が青年をお前達に引き渡す事はない。以上だ」
「忠告しておく。もしここでお前達がガキを渡さなければ、とてつもなく大きな組織を敵にまわす事になる。そうなればお前達は必ず皆殺しに合うだろう。それでもいいんだな」
「別にいいよ。私達死なないから」
「そうか......残念だ。ではまずお前から死んで貰おう」
大門はそう言い放つと、両の足を大きく広げ、直ぐ様戦闘モードに切り替わった。
ヌォ......!
奇妙な声で雄叫びを上げると、全身に力が加わり、紅潮したその顔は国士無双呂布にも匹敵する程の迫力を見せる。
「フンッ」
それに対しエマは目を瞑り、無我の境地に入っていく。
「何だか面白くなってきたぞ! あのか細い女と大男のタイマンが始まるみたいだ!」
「ちょっと目がおかしいのかな? 何だか二人共、体の回りに雲みたいなのが掛かってないか?」
「えっ、お前も見える? あれってもしかしてオーラ?」
俄にざわめくギャラリー衆。いつしかその人数は30人を超えていた。




