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幽怪百物語  作者: 背戸山葵
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第八十五話 メッセージ

 七塚さんが高校二年生の時の話だ。選択科目の時間、美術を取っていた七塚さんが美術室に移動しいつもの席に着き、先生を待つ間暇だったので、机の中に手を入れて何かないかと探ってみた。美術室の机は空っぽで、積もったほこりで手が汚れただけ、かと思いきや、手の甲が何かに触れた。どうやら、収納部の天井にセロテープで紙が貼りつけてあるらしい。

 テープを剥すと四つ折りの紙だった。

「これを読んだ人へ。初めまして、何か書いてください」

 女の子っぽい丸みを帯びた文字でそんなことが書かれていた。授業中にやる伝言ゲームの延長線上にある遊びだろう。

 ちょっとしたことだが面白そうだと思って、七塚さんはその手紙に返事をし、ヨレたテープで再び同じ場所に紙を貼り付けておいた。

 その翌週、再び美術の授業前に確かめてみると、

「返事をしてくれてうれしい! ずっと誰も見つけてくれなかったから寂しかった」

 というようなことが書かれていた。

 それから、美術室の机の中で奇妙な交信が始まった。

 好きな食べ物や美術の先生の悪口なんかの他愛のないやりとりばかりだが、ラインが主流のご時世に伝言という秘密めいた遊びが加わるととても楽しく感じられた。

 名前も顔も性別もわからなかったが、七塚さんは相手が可愛い女の子だったらいいなと考えながらやり取りを重ねた。

 どこのクラスの誰なのか訊ねなかったのは、相手が明かすまではお互い秘密のままでいる方が面白いかなと考えたからだった。

 けれど、やりとりを続けるうちに、どんどん相手のことが気になってきた。四六時中ずっと考えている日もあったほどだった。そして、2か月ほどたったころ、七塚さんはある決心をした。手紙でのやりとりだけでなく、もっとたくさん話したいからと、ラインの番号を教えてもらおうとしたのである。

 そんな折、紙を開いてみると、

「今週金曜の放課後▽校舎のテラスに来てくれますか?」

 というメッセージが書かれていた。とりあえず連絡先から、と考えていた七塚さんにとって、願ってもないことだった。

 七塚さんは嬉しくなって、すぐに、「絶対行く、すごく楽しみ」とメッセージを送り返した。さらにその日の昼休み、友人にその手紙のやり取りのことを自慢げに話してしまった。

 舞い上がっている七塚さんと違って友人は冷静だった。

「もしかしたら、悪戯かもしれない。もしその日に行ってみて十組の陽キャ軍団いたらどうするよ?」

 その言葉に最初こそ腹を立てたものの、すぐに七塚さんは「一理あるよな」と思いなおした。結局、部活動を自分への言い訳にして、約束をすっぽかすことにしたのだった。

 そして一週間後の美術の授業の日、約束を破ったことと、もしかしたら悪戯かもしれない可能性とを考えると、手紙のやり取りをする気が無くなってきていた。

 けれど、習慣というのは恐ろしいもので、机についた瞬間、反射的に収納部に手を突っ込んで手紙を探ってしまっていた。

 いつものように、手紙は天井部に貼り付けてあった。

 どんなことが書かれているかわからなかったが、七塚さんは躊躇いつつも四つ折りの紙を拡げて見た。

「なんできてくれなかったのなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないコロスコロスコロスコロスコロスコロスしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪」

 真っ赤な字でびっしりと書き殴られていた。

 七塚さんは驚きのあまり声を上げていた。それで、同じ授業を受けていたやつらが何事かと集まってきた。

 七塚さんが洗いざらい事情を話すと、誰がそれを書いたのかという話題になった。

 やがて、美術の担当教諭がやってきた。美術の授業はすべてその先生が受け持っている。そのため、誰がその席を使っているかおおよそ把握しているのである。

 だが、美術の先生が言うには、その席を使っているのは七塚さんだけだそうだ。

「たぶん、悪戯だったとは思うんですけど、怖くなっちゃって。今でも時々考えるんですよね、▽校舎のテラスで放課後ナニが待っていたんだろうって」

 もしほんとに生きてる女の子でも、あんな文章書いてくる娘はごめんですけどね、と七塚さんは笑っていた。


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