第八十三話 図書室の女の子
五条さんが中学では、他にも不思議なことがあったそうだ。
五条さんは昔から本を読むのが好きで、昼休みや放課後などの時間はほとんど図書室に入り浸って本を読んでいた。図書室を利用する生徒は少なく、図書委員を除けば一人っきりという状況は少なくなかった。
三年のある日の放課後のことだ。図書室で本を読んでいると、ふいに背後から「ふふふっ」と笑う女の子の声がした。
「えっ」
振り向いたが誰もいない。本に視線を戻すと、背後に誰かがいる、そんな気配があった。息遣いを感じ、髪の毛が頬をくすぐるのを感じた。
怖くなって一分ほど身じろぎできずにいると、トントンと背中を叩かれた。
逃げ出そうかと思ったが、その時図書室にいたのは五条さんだけ。本の続きも気になった。いいところだったのである。五条さんは気のせいだと自分に言い聞かせ、本を読み終えるまで図書館にいた。
それから毎日、同じようなことが続いた。
ただ後ろに立っていて、時々突かれるだけで、何か害があるわけでもない。
しかしある時五条さんは、ふと、その意味に気が付いたそうだ。
ただ、後ろに立っているだけではない。
後ろに立って、一緒に本を読んでいるんだ。
そう考えるとしっくりきた。
後ろから突いてくるのは、決まってページを何度も読み返しているタイミングなのである。そのことに気が付いてから、五条さんは図書室の背後の存在に、親近感を覚えたそうだ。周りの友達はあまり本を読まない人ばかり。感想を言い合えないのは残念だが、一緒に読む相手がいるというのは嬉しいことだった。
怖くなくなると、それがどんな相手なのか気になってくる。
そこで、図書室を管理している先生に聞いてみると、
「ああ、それはNかもしれないなあ」
先生の話によれば、五年ほど前に病気で亡くなったNさんという二年生の女の子がいたそうだ。五条さんと同じようにいつも図書館に来ていて、放課後まで本を読んでいたそうだ。
その話をしてから、先生は香月日輪さんの「妖怪アパートの優雅な日常」を五条さんに勧めてきた。Nさんが生前好きだった本で、続巻が出るのを楽しみにしていたそうだ。
「妖怪アパート」を手に放課後いつもの場所に陣取ると、後ろの女の子の笑い声はいつもより嬉しそうだった。
五条さんは卒業するまでほとんど毎日図書館に通い続けたそうだ。




