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幽怪百物語  作者: 背戸山葵
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第七十九話 首が

 角さんが小学6年生の時の話だ。

 角さんの通っていた小学校にはいわゆる七不思議というのがあった。

 夜中、誰もいない音楽室からピアノの音が聞こえる。

 屋上へ通じる階段が、一段増え、十三段になっている。

 西校舎の三階にある女子トイレの三番目に花子さんが出る。

 理科室の前の棚に飾ってあるワニの模型が動く。

 そういった、どこの学校にもあるような他愛のない噂話ばかりだ。

 けれど、当時の角さんにとっては、恐ろしいと同時に魅惑的な話でもあった。

 ある日友人のYさんと二人で夜の学校に侵入し、七不思議が本当にあるのかどうか、確かめてみようということになった。

 親にバレないようにこっそり家を抜け出し、二十一時に近所の公園で待ち合わせ、人目を避けながら校門を乗り越え、あらかじめ開けておいた一階のトイレの窓から校舎内へと侵入した。

 夜の学校は真っ暗で、ひっそりと静まり返り、長く伸びた廊下の空気はひやりと冷たく、昼間とは全く違う異界のように思えた。

 二人はそれぞれ手にした懐中電灯の灯りを頼りに、誰もいない校舎の中を一階から順番に歩き回った。

 しかし、理科室のワニは動かず、音楽室も静まり返ったまま、トイレのドアを片っ端からノックしてみたが、何一つ怪異は起こらない。

 次第に、暗闇にも慣れてくる。恐怖よりも飽きと眠気が勝ってくる。

「なんもないな。もう帰ろうか」

 幽霊の子供が夜な夜なダンスの練習をしているという噂のある、3階の端にある多目的室まで到着した時、Yさんが欠伸交じりに言った。

 角さんにも異論はなかった。二人は入ってきた窓の所に戻るため、南校舎の階段を下りていた。

 二階に着いた途端、ふいに人の気配を感じた。

 廊下の方を覗くと、三年生の教室の前に誰かがいた。

 Tシャツに長ズボンだったから、男の子だろう。

 背中しか見えないが、がっくりと肩を落として俯いている。

 二人はギョッとして顔を見合わせたが、同じものを目にしている、ということでお互い却って安心感を覚えた。

「忘れ物かな」

 宿題か何かを取りに来たけど、教室が開いておらず途方に暮れている、そんな風に見えた。

 懐中電灯の光が当たっているのに、それさえも気づいていないようだ。

 角さんは可哀想になって男の子を手伝ってやろうと思った。

 というのも、廊下に面した教室の窓は外に通じる窓と違って、非常に簡単な造りで、上手いこと振動を与えてやれば、コツはいるものの簡単に外すことができるのである。

「ねえ……」

 と、声をかけようとした瞬間、少し前で男の子の様子を観察していたYさんが、

「やめろ、やめとけ……」

 静かに囁くように角さんを制した。

 その突然の行動に、角さんは面食らって、

「なんでだよ……あの子、忘れ物とかだろ」

「違うんだよ。あれ、下向いてるんじゃないぞ」

 Yさんの顔は青くなって、声色は切羽詰まっていた。

「首がないんだ」

「え?」

「あの子、首がないんだよ」

 そう言われて、角さんもようやく気が付いた。

 がっくりとうなだれているように見えたのは、首から上が存在しないからだ。

 二人は気づかれないように息を殺して一階まで下りると、そこからは入ってきたトイレを目指して廊下をダッシュで駆け抜けた。

 後から聞いた話によれば、何年も前、児童が二階の防火扉で遊んでいた際、過って首を切断してしまうという事故があったそうだ。

 二人がその話を広めたせいで、首のない男子児童の霊の噂は新たな学校の七不思議に数えられるようになったということである。


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