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幽怪百物語  作者: 背戸山葵
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第七十七話 してはいけないこと

 四方さんの周りには霊感を持つ人物が二人いるのだが、その二人共から止められていることが一つある。

 それは、怪談話をする、ということである。

 昔から怪を語ると怪を招くとされている。

 幽霊が自分をわかってくれる空間だと思って近づいてくるという人もいる。

 友人たちによれば四方さんはそういったものを呼び込みやすい体質、というか精神の質なのだそうだ。

 四方さん自身がそれを実感したのは、飲み会の席で怖い話をする流れになった時だった。テーブルについてる八人ほどが順番に話をし、四方さんもその場のノリで忠告を無視して怪談を披露したそうだ。

 しばらくすると、急に吐き気と頭痛がやってきた。

 四方さんは酒に強い方だったし、そもそもその日はまだビールをコップで一杯飲んだだけだった。睡眠不足とか体調を葛いていたということもない。

 不快感を押えられず居酒屋のトイレに駆け込み、軽く嘔吐して席に戻ろうとすると、霊感のある友人のKさんが声をかけてきた。

 心配そうにしていたのはほんの一瞬だった、四方さんの姿を見るなり、

「あんたさ、怖い話したんでしょ」

 呆れたように言う。その晩は大きな宴会場を貸し切っての飲み会で、Kさんは四方さんとは離れたテーブルで飲んでいた。会話の内容は聞こえていたかもしれないが、四方さんは指摘されてギョッとなった。

「まずい感じなの?」

 聞くと、Kさんは渋い顔をして、

「わかってないみたいだけど、ちょっとめんどくさいのついちゃってるよ。だから言ったじゃんあんたは怖い話とかしちゃダメって」

 チクチクと説教をしたあと、Tさんというこれまた霊感のある友人に声をかけた。

 Tさんも四方さんの顔を見るなり、

「お前、怖い話したんだろ」

 と、からかうような口調で言ってくる。やはり、よくないものがついているのだという。

「Tさ、これ祓ってやりなよ」

「Kがやれよ」

「あたしめんどくさいからイヤ」

 そんなやり取りの後、しぶしぶTさんがお祓いをしてくれることになった。

 まずTさんは四方さんの手を握って背中をぽんぽんと軽くたたいた。

「どうだ?」

「どうだって言われても、なんもないけど……」

 気分は少しもよくならない。

「これじゃダメか。めんどくさいな」

 次にTさんは店の外にふらりと出ていくと、500mlのペットボトルに入ったミネラルウォーターを手に戻ってきた。

 右手の人差し指と中指にそれで指を濡らし、その二本の指で首の付け根から腰のあたりまで背骨をすっと切るみたいな動作をした。

 それから、ミネラルウォーターを差し出し、少し口に含んでから出すように言ってきた。

 四方さんは言われるままペットボトルを煽り、トイレの洗面台に口に含んだ水を吐いた。

「これで、よくなったろ?」

 Tさんが聞いてくる。

「いいや。まだ怠いわ」

「これでもだめか……マジでやっかいなのつけたなお前、だから怪談やるなって言ったのに……」

 Tさんはぶつくさと言いながら指を忍者が術を使う時のような複雑な形に組んで、再び背中を向けるように指示してきた。

「これつかれるからあんまりやりたくないんだけどな」

 Tさんは組んだ形のまま手を背中に当て、口の中で小さく何かを唱え始めた。

 内容は聞き取れない。けれど背中の方がいやに熱くなってくる。

 三十秒ほどそうしたあと、Tさんは手を離した。

「どうだ?」

 そう聞いてきた。

 不思議なことに、頭痛や吐き気といった不快感が嘘のようになくなっている。

「え、楽になってる。なんで?」

「やっぱりこれだな」

 Tさんはニヤリと笑って満足げに言った。

 結局、最後の行為がどういうものだったのか何度も聞いてみたが、お祓いだよとはぐらかされるばかりでちゃんと答えてはくれなかったそうだ。

 それがTさんのオリジナルの方法なのかはわからない。

 ただ、背中に向かって何かをする、ということは共通なので、霊というのは背中に憑くものなのかもしれない、四方さんはそんな風に語っていた。


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