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幽怪百物語  作者: 背戸山葵
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第七十四話 黒いモヤ

 四方さんの友人には、いわゆる“見える人”というのが数人いるそうだ。

 四方さんが大学生の頃、その見える友人の一人Kという女性を交えた飲み会の帰りのことだ。まだ夜は長いと、六人ほどで連れ立って荒川の土手で座り込んで、缶ビールを手にあれこれとくだらない話をしていた。

 将来のこと、サークルのこと、バイトのこと、話題はいくらでもあった。居酒屋などと違い長居を気遣うこともない。皆家も遠くないから、そういう夜は日付が変わるくらいまで、話し続けるのがいつもの流れだった。

 ところが、夜の十一時を過ぎた辺りで、四方さんは急に嫌な気配を感じた。

 ゾクッと背筋に悪寒が走る。

 楽しく友人と会話をしているのに、なんとなく落ち着かなくなってきた。

 そんな折、Kさんが突然、

「もうそろそろ解散しない?」

 と言い出した。渡りに船と思い、四方さんはその言葉に同意した。

 他の四人のうち二人はどっちでもいいよ、という感じだったが、残りの二人がまだ残りたいと主張した。

 その二人HさんとAさんはカップルだった。付き合いたてで、グループでいる間もずっとベタベタとうっとうしいくらいだったそうだ。

 けれどKさんが頑として譲らず、結局、その二人を残して解散することになった。

 帰り道が一緒なので四方さんはKさんに、今日何か用事でもあるのかと訊ねてみた。

 というのも、Kさんは飲み会や二次会の時はいつも最後まで残っているタイプで、自分から解散しようと言い出すのが珍しかったからだ。

 するとKさんは、

「黒いのが来ててさ」

 と言う。Kさんの話をまとめると、みんなで盛り上がっている最中、Kさんがふと川の方を見ると、反対側の岸に墨汁を水に垂らしたような黒いモヤが見えた。

 黒いモヤはだんだんと大きくなっていって、自分たちの方へ近づいて来ていた。

 モヤからは強烈に嫌な感じがした。

 だから、それがこっちに来る前に、その場を離れたかったそうだ。

「後の方で四方くんも気づいてたでしょ。嫌な予感とかしたんじゃない?」

 Kさんが帰ろうという直前に感じた悪寒が、そうだったのかもしれない。

 黒いモヤはその後どうなったのか、残った二人は大丈夫なのか四方さんが訊ねると、

「うーん、さっき振り返ってみてみたんだけどさ、その時には黒いモヤが二人のところまで来てて、包み込まれちゃってた。何か障りがあるのかまではわからないけど」

 それから三日ほどして、HさんとAさんはそろってあばらを骨折したそうだ。場所も原因も違ったが同じ時刻に。

 偶然かもしれないが四方さんは黒いモヤの話と関連付けずにはいられなかった。

 ただ、怪我をした当の二人は、その怪我をさえ「運命的だ」と惚気の材料にしていたそうである。


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