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幽怪百物語  作者: 背戸山葵
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第七十二話 削除してください

 SNSでオリジナルの漫画やイラストを投稿している香月さんの体験だ。

 香月さんは今では日常系や百合系と言われるような可愛らしい作品を描く方なのだが、十年ほど前には別のアカウントでホラー系の漫画を投稿していたそうだ。読んでくれる人は少なくなく、香月さんも小さい頃からそういった漫画や映画が好きだったために描くのは楽しかったそうだ。

 しかし、ある日のことだ。見知らぬアカウントからDMが送られてきた。

「私のことを描くのをやめてほしい。非常に迷惑している。漫画を削除することを望む。私の目的の邪魔になる。絶対に言うことを聞け」

 丁寧な言葉で認められてはいたが、このような内容だった。

 描いたものが自分の作品に似ているとか、アイデアを盗んだ、とかいうようなメッセージが届くことは、創作活動などをしている場合には少なからずある。

 大抵はその人の妄想だ。同じような話を思いつくことはあるし、怪談などでもアレンジ元が同じ、という場合も多々あるからだ。

 香月さんも最初は、

「変なやつに絡まれたな」

 くらいにしか思っていなかった。

 初期アイコンで、フォロー0フォロワー0。このDMを送るためにアカウントを取得したとしか思われない。

 こういう手合いは何の反応もせず無視するのが一番だ。

 香月さんもそれはわかってはいたが、なんとなく、

「どの漫画のことを言っているのですか?」

 と返信してしまった。

 というのも、香月さんのアカウントに掲載しているのは創作のホラーなのだ。きっと、漫画の中に自分と似た人物、もしくは似た行動をとった人物が出てきたのだろう。詳しく話をきければ、新たな漫画のネタになるかもしれない。そんな風に考えたのである。

 女からの返信は早かった。

「決まっているでしょう。私のことを描いているものがあるじゃないですか」

 そんな文章の後に、一枚の画像が送られてきた。

 その画像を見た瞬間、香月さんはゾワッと悪寒を感じた。

 それは、鏡の前でスマホをかざして写真を撮る裸の女の写真だった。肉付きがよく男にウケそうなスタイルをしているのだが、お臍の辺りに異様な物があった。

 顔だ。脂ぎった中年の男の顔。

 眼は異様に黒目が大きく、墨で塗りつぶしたようだった。

 口は裂けんばかりにニヤニヤと吊り上がって、黄ばんだ汚い歯が丸出しになっていた。

 人面瘡のように皮膚と一体化しているのではなく、まるで着ぐるみの中から顔をだしているかのような具合だ。そして、女の身体の中心には手術跡のような線がくっきりと顔を挟んで上下に走っている。

 その異様な姿に香月さんは心あたりがあった。

 一週間ほど前、人間の皮を着て、その人に成りすますナニカ、という漫画を確かに投稿していたのだ。そこに描いたモノの特徴そのままだったのである。

 作りもの、という可能性はある。個人の特殊メイクで物凄いクオリティの異形を作り出す人もいる。それが頭ではわかっていても、恐ろしくて仕方がなかった。自分が、描いてはいけないものを描いてしまった。直感的にそう思った香月さんは即座にアカウントをブロックし、アカウントも削除した。そして、PCの中に保存されていたホラー漫画の画像データを全て削除してしまったそうだ。

 その化け物から連絡があったのはその一度きり。

 しかし、それがきっかけで、香月さんはホラー漫画を描くことはやめてしまった。 

 香月さんのところには、今でも年に何件か迷惑なメッセージが届く。しかし、この時の恐怖に比べたらどれも大したことないと適当に受け流しているそうだ。


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