第六十九話 家の中の異世界
栗栖さんは古くからの友人のUさんという方のことを話してくれた。
Uさんは大のオカルトマニアで、実家が地元の資産家なのをいいことに、働きもせずいわくつきの物件に住んでみたり、全国の心霊スポットを回ったり、怪しげな廃村を探して見たり、UMAを見に行ったり、怪しげな交霊術を試してみたりといった道楽に明け暮れており、栗栖さんも周りの友人も社会人になるまでは何度もそれに付き合わされたそうだ。
そのUさんは心霊スポット巡りと称した旅行中、京都の山の中で消息を経ったそうだ。
捜索隊も出て、大規模な山狩りをしたがついに見つからなかった。
栗栖さんは悲しくはあったが、なんとなくいつかそうなる気がしていたという。
Uさんがオカルトや心霊の世界に言い始めたのは、小さい頃に家の中で行方不明になった時からだった。
栗栖さんとUさんに加えKさんとEさんという二人の友人と、Uさんの家でかくれんぼをすることになった。Uさんの家は古めかしい旅館みたいに広い日本家屋で、部屋数も多く、隠れるスペースは無数にあった。
Kという男の子が鬼になり、UさんとEさんと栗栖さんは途中まで隠れ場所を相談した。栗栖さんは床の間の押し入れに。Eさんは机の下に。Uさんは庭にある古い倉に隠れることにした。
「もーいーかい?」
「もーいーよ」
鬼の呼びかけに、Uさんが答えた。栗栖さんはすぐに見つかり、続いてEさんが見つかった。だが、Uさんがなかなか見つからない。Eさんと栗栖さんは隠れている場所がわかっていたから見当違いの場所を探すKさんを見て、楽しんでいたそうだ。
三十分ほどして、そろそろ待っているのも飽きたから、Kさんにヒントを与えたという。
だがKさんは、
「いや、倉はもう調べたけど」
と言う。どうやら、Uさんを見つける前、いの一番に怪しんで倉の隅々まで見たというのである。
しかし、栗栖さんもEさんも、隠れたということは知っている。最初に調べたのなら、隠れ場所を変える時間もなかっただろう。
おかしいな。そう思って、三人で手分けして倉の中を調べてみた。古いとうみや農具、箪笥や箱など様々なものが雑然としまわれていたが、どこを探してもUさんの姿がない。
「おい、Uもう降参するから出てきてくれよ」
Kさんが呼び掛けても返事がない。それから、三人で家中を探したが、Uさんはどこにもいなかった。Uさんの家の人が帰ってきてそのことを報告すると、大事になった。夜になるまで手の空いている人を集めてUさんを探したが、結局見つからなかった。
誘拐事件とか神隠しとか騒がれたそうだが、Uさんは二日ほどしてひょっこり現れたという。それも、例の倉の中からだ。
どこに行っていたのか親から問い詰められたUさんは、
「よくわかんない」
と答えた。
だが、幼馴染の栗栖さんには本当のことを教えてくれたそうだ。
Uさんは、「よくわかんない家」にいたというのである。
何分経ってもKさんが探しに来ないため、外に出るとどこかの家の中だった。
夢の中のような場所で、電灯も無いのに明るい。
しばらくすると見知らぬ女の人に出くわした。
白いワンピースを着ていて、髪が真っ白で肌も白くて、透明感のある美しい人だったそうだ。Uさんが見惚れていると、女の人は困ったような顔をして、
「ここはあなたのような子は来てはいけないところだから、帰りなさい」
と、いうようなことを言う。
「帰り方がわからない」
と言うと、女の人はUさんの手を引いて、どこかの部屋へ連れていき、天袋の中へ押し上げてくれたのだという。
その中を奥まで進んでいくと、元の倉の中にいたのだそうだ。
Uさんはそれからオカルト関連の本を色々と読むようになった。自分が訪れた家のことを調べるためだったが、思いのほかその世界が面白く、UMAや心霊にも興味を持ち始めたそうだ。
Uさんが言うには、自分が訪れたのは、「マヨヒガ」のようなものではないかとのことだった。「マヨヒガ」は遠野物語などに登場する家の形をした異界で、山中などに突然あらわれ、その家の物を一つ持ち帰ると富を得られるという。
「あの女の人にもう一度会いたい」
Uさんは酔うと栗栖さんにそう漏らしていたそうだ。
不思議な家で見た、白い髪の女が忘れられなかったのだろう。
「あいつは、向こうに行きたがってたからなあ。しかたないっちゃしかたないわな」
栗栖さんは呆れたようにそう言った。
Uさんがいつかそういう風にいなくなってしまうと、哀しい予感があったそうだ。




