第六十三話 カエルの怪
高砂さんが全寮制の高校に通っていた頃に体験した話だ。
高砂さんが住んでいた学生寮の立っている土地は、以前は墓地であったらしい。
そのせいか比較的新しく綺麗な建物なのに、何かを見たとか音を聞いたという話は少なくなかった。
6月の終わりごろの蒸し暑い夜だった。
寝苦しさに目を覚ますと、誰かの気配を感じた。
えっ、と思って見ると、部屋の真ん中に女がいる。
それも、四つ這いになって、床を舐めるようにしてうろうろと何かを探すように動き回っているのである。
床まで垂れた長い髪に覆い隠され顔は確認できない。
その髪は窓から差し込む淡い光に照らされて、艶々と輝いて見えた。
風呂上がりのように濡れているのだった。
怖くなった高砂さんは頭から毛布を被った。
だが、その時に音がしたのかもしれない、女がこちらに気づいたように思えた。
やがて、女は静かにベッドに上がってきた。
ギィ、とスプリングが軋む。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
水気を帯びた女の息遣いが布団の向こうから伝わってくる。
見てはいなくとも、女は自分に覆いかぶさるような格好になっているのだと、はっきりとわかった。
女の濡れた長い髪が毛布の上に垂れている。
柔らかな重さを毛布越しに感じた瞬間、高砂さんはあまりの恐ろしさに気を失ってしまったそうだ。
朝になって目覚めると、毛布を被っていたせいか恐怖のせいか全身が汗でぐっしょりと濡れていた。
そして、不思議なことに毛布の上に一匹のカエルの死骸が腹を見せて転がっていた。
女がカエルを置いて行ったのか、それともカエルが化けて現れたのか、どちらにしても気味が悪く、しばらくは友人の部屋で寝かせてもらっていたという。
だが、今では高砂さんはその時のことを思い返す度に、怖かった、よりも、おしいことをしたかもなあ、という感情を抱くようになったそうだ。というのも、覆いかぶさってきた女の身体はとても柔らかく、服も着ていなかったからだという。
「こっちから抱き着いたり、胸触ったりしたらよかったのになあ」
高砂さんは大学時代の友人の影響で、今では魔物や妖怪を美少女化したコンテンツにハマっているそうだ。




