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幽怪百物語  作者: 背戸山葵
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第五十九話 こっくりさん

 私の母が高校生の頃の話だ。

 当時は「こっくりさん」のブームで、どのようにして広まったのかは不明だが――深夜ラジオが火付け役との説がある――全国的にこっくりさんが行われていたそうで、母も友人に誘われて何度もやったそうだ。

 その日も放課後の教室に六人ほどで集まってこっくりさんに興じていた。

 使う紙はかな文字と数字、それから「はい」と「いいえ」に簡略化した鳥居が描かれたスタンダードなものだったが、普通の十円玉よりではなくギザ十を使わないといけない、というローカルルールがあったそうだ。

 母と友人のTさんとHさんの三人で十円玉に指を置いてこっくりさんを呼び出した。

 最初に現れたのは三歳の狐だった。狐で三歳と言えば大人だが、母が言うには明らかに子供のようで、こちらの言っていることもよくわかっていないようなぎこちない受け答えが多かったという。

 やがて、その子狐は質問には答えず「あ・げ」「あ・げ」とだけ指すようになった。

「これはお揚げさんのことだろう」

 そう思った母たちは子狐を返してから学食できつねうどんを頼み、油揚げを一切れちぎって使うことにした。

 紙が汚れないようビールの王冠に油揚げの切れ端を置いたものを十円の代わりに使って、母たちは再びこっくりさんを始めた。

 次に呼びかけに応じたのは齢九十七の老狐だった。

 性別は聞いていないが、母はおばあさんだと感じたそうだ。

 油揚げを使ったためか王冠の動きは普段使っている十円のそれとは比較にならないほどスムーズで、老狐は失せモノや進学先についての占いなどかなり色々なことに具体的な答えを与えてくれたそうだ。

 だが、老狐はかなり気難しい性格らしく、ひとしきり質問することも無くなって、お帰り下さいと願ってもなかなか帰ってくれなかったという。

「おかえりください」

「い・や」

「おかえりください」

「い・や」

 そんな問答が繰り返される。

 そして、聞いてもいないのに、勝手に、

「こ・の・な・か・に・し・ん・じ・て・い・な・い・や・つ・が・い・る」

 この中に信じていないやつがいる。どうやら、それに腹を立てているらしかった。

 心あたりがあるのはTさんだった。

 いつも、誰かが動かしているんでしょ、と疑っていて、今回初めてこっくりさんに参加したのである。

 Tさんを見ると顔が真っ青になっていた。

「どうすればお帰り、いただけますか?」

 訊ねると、

「あ・お。あ・お」

 それを何度か繰り返す。

 イライラしている感じが伝わってくる。

 だが、あお、と言うのが何かわからない。

「あお、って何のことですか?」

 そう訊ねると、王冠は紙を離れて机のギリギリで止まった。

 その方角に何があるのか、辿っていくと窓の向こうに大きなケヤキが見えた。

 おそらくそれだろうということになって、友人の一人が急いでその葉っぱをちぎって持ってきてくれた。

 すると、満足したのか老狐は「お帰り下さい」に応じてくれたそうだ。

 それが、母がこっくりさんをやっていて一番怖かったことらしいのだが、この話には少し続きがある。

 こっくりさんを信じておらず、老狐の怒りを買ったTさんが次の日から数日学校を休んだそうだ。あんなことがあった後だから母たちは心配になった。

 週をまたいで登校してきたTさんに何かあったのか話を聞くと、こっくりさんをやった日の夜帰宅時におかしなものを見たのだそうだ。

 Tさんが家のあるマンションに着いたのは七時頃で、どっぷりと日は沈んでいた。

 エレベータを待つのが面倒だったので、マンションの外階段を自宅のある最上階の五階まで早足に上った。

 と、階段の最後の段に見慣れないものがある。

 ふりふりのドレスを着た、四十センチくらいの西洋人形だった。

 金髪の少女人形は廊下の明かりに照らされて、まるでTさんを待っていたかのように階段に腰かけているのである。

 しかも、顔がおかしい。

 人形というのは、普通は愛くるしい表情をしているものだ。

 けれど、Tさんの目の前にいる人形の眼は吊り上がった怖い顔をしていた。

 まるで狐が憑り付いているみたいだったそうだ。

 そんなものを見たせいか、Tさんはその夜急に体調を崩したのだという。

 Tさんはこっくりさんを信じるようになったが、二度とこっくりさんに参加したがらなかったそうだ。


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