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幽怪百物語  作者: 背戸山葵
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第五十八話 ついてきた家鳴り

 二宮さんからはこんな話も聞いた。

 二宮さんが大学時代に母と姉と共に住んでいた貸家はいわゆる“出る”物件だった。

 ちょうど引っ越しとゼミの合宿が重なってしまい、元居た家から合宿に出発し、新しい家に帰るという具合になった。

 無事合宿も終わり、荷物を整理する面倒さと部屋の広くなった嬉しさを抱えて、新しい家に帰りつくと、夕飯時、姉から相談があった。

 夜に家鳴りが凄いのだという。それも決まって夜寝る時間になってから同じ場所で起こるので、気になってなかなか寝付けずに困っているというのである。

 家鳴りはラップ音のような怪現象と言われているが、家の守り神である、とする向きもある。熱の関係で木材が膨張し、という理屈もわかってはいたが、姉を安心させるという目的もあって二宮さんは、姉の言う二階の収納棚のような場所に盃に注いだ日本酒を捧げ、

「家を守ってもらってありがとうございます」

 と心の中で一言念じた。

 それが功を奏したのか、家鳴りは止んだようだ。

 それからは何事もなく暮らしていたのだが、姉が結婚して出て行ってから困ったことが起きるようになった。

 奇妙な夢を見るようになったのである。

 その夢は一人称視点で家の庭からスタートし、玄関に向かい、ドアを開けて家の中に入り、真っ暗な廊下を抜け階段を上がり、自分の部屋の扉の前までくる……そこで終わる。そんな夢を頻繁に見るのである。

 夢は脳が記憶を整理する時に見るものだ。最初は二宮さんも、毎日やっていることが夢に出てきているだけだろう、と片付けていた。

 しかし、一か月ほど経った頃だ。

 その日は友人と散々遊んだ帰りで、相当疲れていた。そのせいか、玄関や廊下や部屋の電気を点けっぱなしで寝てしまった。

 夢はいつ思と同じように、庭から始まり、玄関、廊下、階段……と続いた。

 いつもと違うところは、その夢の中で家の中の電気が点いているというところだ。

 やがて、夢の中で自分の部屋の扉を開けた。

 そこには、電気の点いた部屋の中で寝ている自分の姿があった。

「えっ、じゃあこの夢は誰の視点なんだ?」

 疑問に思うと同時に、

 バン。

 大きな音が鳴って、二宮さんの意識は覚醒した。

 起きても、まだ音だけはなっていた。

 雨戸が、誰かの手でたたかれているように、

 バンバンバンバン……。

 と、鳴っている。

 音に驚き、つい雨戸のある窓を見たが何もいない。

 そこではっ、と夢のことを思いだし、部屋の入り口の方へ視線を向けた。

 ドアが開け放たれている。

 記憶をたどって見ると、後ろ手で締めたように思える。

 電気を点けっぱなしで寝ていたくらいだから、締め忘れた可能性もあるが、夢の内容が内容だ。

 何かに入られた。

 そんな気がした。

 入り口を見つめている間に、雨戸を叩く音は止んでいた。

 二宮さんは、家鳴りのことを思い出した。

「助けられたのかな」

 外から入ってきた何かと、家の中にいた家鳴りがぶつかった、そんな風に感じた。

 二宮さんは長らく変えていなかった盃を綺麗にし、心の中で感謝しながら、酒を捧げた。

 その日を境に、深夜に部屋の雨戸を叩く音が聞こえるようになった。しかし、代わりに庭から始まる夢を見ることはなくなったそうだ。

 二宮さんは今では社会人になり、犬と一緒に暮らしている。

 夢は相変わらず見ていないが、今でも深夜になると寝室の窓を誰かが叩くような音が聞こえるという。

 今住んでいる家だけではなく、前のマンションでも、その一つ前の所でも同じような現象が起こっていたそうだ。

「家鳴りのやつが、付いてきちゃったんでしょうか?」

 二宮さんは困ったような嬉しいような表情でそう語った。


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