第五十四話 採光窓から覗くもの
怪異と言うのは怪異を呼ぶという。関係があるかわからないが、本作を書いている時に一つ奇妙な経験をした。
夜中まで起きてパソコンに向かっていたところ、トイレに行きたくなった。
トイレは部屋を出てすぐだ。
便座に腰かけて用を足していると、ふいにじゅうたんを踏む足音と膝がパキッとなる音が聞こえたので鍵を閉めた。
私は最初、父かなと思った。父は年のせいもあってトイレの回数が多い。毎夜一度はトイレに起きてくる。父も歩くとき、膝が鳴るのだ。
だが、父なはずはない。
その日は家族が皆用事で出ていて、家には私一人だけだと思い出した。
足音は少しずつ近づいて来ていた。
コン、コン。
トイレのドアがノックされる。
誰かがドアの外にいる。
私はじっと息を殺していた。
ふぅー、ふぅー、荒い息遣いが聞こえる。
ふと上を見ると、トイレの明かりを確認するための採光窓に白いものが写っていた。
眼だ。
すりガラスで、はっきりとはわからないが、外のそいつはトイレの中を覗きこんでいた。
窓の位置から考えると、身長が2メートル近い。
なんなんだ。どうすればいいんだろう。
私はトイレの中でじっとしているしかなかった。
やがて、ドアの前のそいつは、バン、バン、とドアを叩き始めた。
「入ってるから、後にしてくれ!」
私は思い切ってそう口にしてみた。
すると、ふいに音が止み、足音が遠ざかっていった。
数分待ってから、私はドアを開けた。
どこにも気配はなかったが、私は朝が来るまで、家中の電気をつけっぱなしにして作業の続きに取り掛かった。
それが現れたのは、その一度きりだ。




