第五十二話 ビデオ鑑賞
諏訪さんは出る物件に住んでいたことがあるという。
その物件はなぜか長く人がいつかないらしいのだが、仕事場から近く、そこそこの広さがある割に家賃が格安だったために、金のない時期だったし、貧乏の方が怖いくらいだと借りることにした。
確かに、その部屋では奇妙なことが立て続けにあった。
ラップ音はしょっちゅうだし、なんだか人に見られているような気配もするし、仕事から帰ってくると、誰かが入った形跡は無いのに物の位置がずれている、他にも細々とした怪現象を何度か経験したそうだ。
泊まりに来た友達が、夜中にベランダに立つ女を見た、ということもあった。
とはいえ、気味が悪いだけで実害はないと、諏訪さんはそれらを無視することにした。
無視する、だけならよかったのかもしれない。
豪胆な諏訪さんは夏場、暇つぶしにとその部屋でホラービデオの鑑賞会をすることにしたそうだ。出る部屋ということは友人間で知れ渡っていたので、流石に来てくれたのは仲間内でも神経の太い友達一人だけだった。
鑑賞会は夜の八時ごろから開催したのだが、ビデオを見始めるとすぐにあちこちでラップ音が頻発した。
空気が異様に重たく、初めのうちは二人ともあれやこれやと話しながらだったのだが、一本目を見終わり、二本目に差し掛かったころには、お互いに口数が少なくなっていたという。
けれども、友人の手前ビビっていると思われたくなかったので、諏訪さんは淡々とビデオを見続けた。
心の中では「もうやめにしよう」と言って欲しかったそうだ。
やがて、二本目のビデオが終わり、画面が暗くなった。
「ふぅ」
と溜息とも安堵ともいうような息が漏れる。
と、ふいに、エアコンをつけていないのに、ゾクッとするほど寒気を感じた。
隣で座っていた友人が真っ暗な画面を見て「え……」と声を出した。
釣り込まれるように液晶の画面を見た。
暗い画面は鏡のように部屋の中の様子を――諏訪さんと友人の二人が座っているところを――映していた。
その周りぼんやりとした薄い人が、五人ほどがたむろしていた。
あたかも、一緒にビデオを見ているみたいに。
「うわあああっ」
友人が悲鳴を上げたのをきっかけに、諏訪さんも声を上げ、二人はスリッパをひっかけて部屋の外に飛び出した。
その夜だけは流石に家に帰れず、友人と二人で別の友人の家に転がり込んだという。
その時に見た2本目のビデオは清水崇監督の「呪怨」のビデオ版だったそうだ。




