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幽怪百物語  作者: 背戸山葵
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第四十七話 おしっこ陰陽師

 大林さんがゲイ向けの風俗で働いていた時に出くわしたお客さんの中で飛び切り変だった人について語ってくれた。

 大林さんが勤めていたお店は、デリバリーのマッサージに性的サービスをプラスしたようなところで、大抵は駅近くの安いホテルに呼び出される。

 その日もいつものホテルに足を運んだのだ。出てきたのは某ラッパーに似たおじさんだった。もうすでにシャワーを浴びていて、ホテルのガウンを羽織っていたそのおじさんは、大林さんが部屋に入って来るや、

「ちょっと、君、どこでそんなの拾ってきたの」

 と険しい顔で詰め寄ってくる。

 混乱した大林さんが理由を聞くと、おじさんは現役の陰陽師をしているそうで、大林さんの背後によくないもの、がついているらしいのである。

「これを飲みなさい」

 戸惑う大林さんに、おじさんは瓶に入った透明な液体を差し出してきた。

 なにやら神様からもらってきた水で、いつも持ち歩いているのだという。

 風俗を利用するお客さんの中には怪しい薬を飲ませようとしてくるような人もいるので、お店からは飲食物は受け取ってもいいが口にしないように言い含められていたのだが、おじさんの剣幕に負けて飲んでしまったのだという。

 中身は水で、温くて飲みにくかったが300ml全部を飲み干すと、今度は、

「おしっこをしなさい」

 と言う。まさか、と思って、

「この場でではないですよね」

 確認すると、

「私はそんな変態ではない」

 と怒られた。

 しかし、急におしっこをしろ、と言われても出るはずがない。

 そのことを伝えると、おじさんは、

「印を書いてあげるから手を出しなさい」

 と、求めてきた。

 うさんくさいおっさんだな、思いつつも手を出すと、手のひらに何かを書くように、サッ、サッ、と指を動かしていく。

 すると驚いたことに、本当に突然尿意がこみあげてきて、大林さんは慌ててトイレに駆け込んだそうだ。

 トイレが終わって出てくると、

「ちゃんと落ちてるね、よかったよかった」

 と、おじさんはニコニコしていた。

 その後は、普段通りあれこれと話をしながら施術をし、抜きのサービスを行っただけで、特に変わったことはなかったという。

 大林さん自身は、特に何かが変わったようには感じなかったし、ただのほら吹きのおじさんだろうと今でもおもっているが、印を書かれて急におしっこがしたくなったことだけは今でも謎だそうだ。


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