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幽怪百物語  作者: 背戸山葵
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第四十六話 ハムスター男

 風俗店で働く岸さんが幽霊とかの話じゃないけど、とこんな話を聞かせてくれた。

 岸さんが働く店はいわゆるマゾヒストの男性――中には女性もいるそうだが――向けの風俗店で、岸さんはそこで女王様としてそこそこ人気を博しているそうだ。Mの客、というのはこだわりが強い人が多いらしく、店には様々なオプションが存在しているのだが、それでも満たされない人は個別にこういうプレイがしたい、と嬢本人かフロントに申し付けるのだそうだ。

 お店の性質上客が何かをしてもらうものなので、嬢が嫌がりさえしなければ店側も黙認するのであるが、一つだけどれだけお金を積まれても絶対に断るように言いつけられているものがあるそうだ。

 それは、動物を使ったプレイだ。

 なぜそのルールが設けられるようになったのかというと、岸さんが勤め始める前、当時一番人気だったRという女王様の常連のBという男がある時、プレイルームに小さな段ボールの箱を持って入ってきたそうだ。

 その箱の中には一匹のオスのジャンガリアンハムスターがいる。

「マメ(そのハムスターの名前である)を、イくときに僕の目の前で踏みつぶして欲しいんです」

 引きつったような笑顔でそう言うBさんのモノは、その時にはあからさまなくらい大きくなっていたという。

 Bさんは結構な大客で、オプション代10万にRさんへの個人的なチップも5万払うとのことだったので、Rさんはしぶしぶながら承諾した。

 Rさんはかなり演技派の女王様で、プレイに入りスイッチが入ると客の要望通り、Bさんから乱暴にハムスターを取り上げ、彼が、

「マメには何もしないでください!」

 と叫ぶのを無視して、ハムスターを取り上げ、弄んでから罵倒の言葉と共に小さな命を踏み潰した。

 Bさんはハムスターに危機が迫るにつれて興奮し、「やめてください」「おねがいします」と言いながら、ハムスターが女王様のブーツの下で絶命すると同時に、最高潮を迎えるのだという。

 Bさんはプレイの後、今まで見たこともないくらい満足した顔をしていた。

 それから、Bさんは一月に一度くらいのペースで、ハムスターを連れてくるようになった。しかも、その全てに名前をつけて、愛情まで注いでいるのだという。

 愛情を注いだ大事な動物が目の前で無惨に殺されると、無力感が物凄く、また自分自身が女王様に踏みつぶされている気になって非常な興奮を覚えるのだそうだ。

 だが、Bさんはそのプレイで非常に喜んで、毎回高額のオプション代とチップをはずんでいてはくれたものの、Rさんの心的負担は相当なものだったようだ。

 Rさんは女王様としては人気ではあったが、あくまで演技であり、プライベートでは気遣いのこまやかな大人しい女性だった。

 とうとうRさんは心を病んで店を辞めてしまったという。Bさんがハムスターを持参するようになってから8か月後のことだった。

 店長がBさんにRさんが辞めたことを伝えると、

「ああー……またかぁ、今度のは長く保ってるって思ったのになぁ。また、新しい娘見つけないと、この店で誰かいい娘いない?」

 Rさんのことを少しも心配していない自分本位な言葉を聞いて、店長は二度と来るなとBさんを叩き出したという。

 それ以来、店では動物を使ったプレイは一切を禁止になったそうだ。

 幸い、岸さんのところにはそこまで迷惑な客はまだ来ていない。


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