第四十三話 死んでいるはず
相良さんが一年ほど前に北海道に出張に行った時のことだ。
社用の軽自動車で、釧路~帯広を走っていると、強烈な眠気に襲われた。
地平線がどこまでも広がっていて、何もない広い道。対向車もなく、前にも後ろにも車はほとんど見えない。アクセルをベタ踏みするだけでいい楽な道に緊張感が緩んでしまったのだろう。
だんだんと、車は対向車線へと寄って行っていた。
眠気に瞼が負け意識がふっと消えた。
と、次の瞬間物、バーン、という凄い音と衝撃で目が覚めた。
目の前でガラスが砕け、散弾みたいに降りかかってくるのが見えた。
相良さんはセンターラインから大きくはみ出して、対向車線を走っていた引っ越しトラックのサイドミラーがぶつかったのだった。
幸いなことにガラスで数か所を切った程度で、外傷はほとんどなかった。
だが、相良さんは事故の瞬間、
「あ、死んだんだ俺」
とはっきりと感じたそうだ。
それからというもの、常に自分が生きていることが不思議でならなくなったという。
今現実だと思っている目の前の出来事はすべて死ぬ前の妄想で、いつか、夢から覚めるみたいに事故の瞬間に戻っちゃうんじゃないか、とそんな想像を馬鹿げていると思いつつも、よくしてしまうそうだ。
「俺がいい加減だからまあ、ないことなんですけど、死んでるはずが、死んでなきゃいけないになっちゃったら、危ないんでしょうねえ」
相良さんは冗談めかしてそう言った。




