第三十九話 引っ張ってくる手
泉さんが中学生の頃、学校の行事でA山子供広場というキャンプ場に行った。
その中のレクリエーションの一つで目隠し迷路というものがあった。
それは、目隠しをした数人で手をつなぎ、リーダーの一人だけが持つロープを頼りにしてスタート地点からゴールまで進むというものだった。
泉さんも男女5人の班で互いに手を繋ぎ、ゴールを目指していた。
目の見えない状態で友達の声と手の感触を頼りに山道を歩く、というのは普段視覚に頼っている人間にはかなり難しく、コースにはさしたる危険はないと分かっていても、覚束ない足取りで、ゆっくり、ゆっくり進むしかなかった。
感覚を遮断されているからなのだろうか、泉さんはなんだか夢の中を歩いているような感じがしたという。
と、不意に泉さんは友人と握っていた手を離してしまった。
「あ、離しちゃった」
そう思ったが、焦りは感じない。友人もそれに気が付かなかったのか何も言わない。
「とりあえず追いつかないと」
泉さんは方向もわからないのに、勘を頼りにふらふらと闇雲に進み始めた。不思議なことに目隠しをズラして一度確認してみようという気にはならなかったそうだ。
だが、いくら歩いても友人たちは捕まらない。
「おかしいなあ、こっちの方のはずなんだけどなあ」
確証もないのに、こっちだろうというなんとなくの予感はあったそうだ。
と、その時不意に誰かに手首を掴まれた。
冷たくて指が長い手だったから、大人の女の人だろう。
その人は何も言わず、泉さんの手を引っ張っていく。
さっきまで行こうとしていた方とは逆の方向だ。
だが、不思議と怖くはなく、泉さんは引っ張られるがままに、女に続いて歩いて行った。
すると、手に誰かの手が触れた。少し汗ばんだ手だ。
「あ、ごめん泉。手離してたみたい」
声がした。それは、同じ班の手を繋いでいた男の子だった。
女の手はいつの間にかどこかへ行っていた。
やがて、泉さんの班もゴールに到達した。
目隠しを取って手首を見ると、掴まれたところにくっきりと手の跡がついていたそうだ。
泉さんを連れ戻したのは、班の友達でも引率の先生でもないらしかった。
「もしかしたら、凄く危険なことになりそうだったのを、山の神様か何かが助けてくれたんじゃないかって、勝手に思ってるよ」
今ではそのキャンプ場で目隠し迷路はやらなくなったそうだ。
何人かの子供が行方不明になっており、それが目隠し迷路の最中だった、そんな噂があるという。




