第三十四話 近所のプレハブ
子供の頃にはいつも遊ぶグループ、というのが誰しもあったと思う。
小学三年生のころの高橋さんは、いつも同学年のHくんやKくん、二年生Tくん、そして五年生の Aさんという五人でよく遊びに出かけていた。
学年は離れているが皆近所だったために、集団下校の際に仲良くなって遊ぶようになったのである。Aさんは一人っ子で、年下の男の子を連れて回るのは弟がたくさんできたみたいで面白いと言っていたそうだ。
ある日、高橋さんたちはAさんに連れられて近所の廃屋を探検しに行った。
廃屋と言っても何年も放置された建物ではなく、なんとか組系の建築会社が急ごしらえした現場事務所で、マンションを建てる計画が会社ごと潰れ、人の出入りがなくなったが、まだ取り壊しにはなっていない、そんな建物だった。
二階建てのプレハブの建物の前には、建材が積まれ、ブルーシートがかけられたままだ。誰も触っていないためか、シートの上には汚れがひどく溜まっていた。
一階のドアには鍵がかかっていたが、外に据え付けられた階段から上がれる2階はドアが開いていた。
Aさんに先導され、高橋さんたちは近所の人にバレないことを祈りながらコソコソと階段を上がって建物の二階に侵入した。
そこは事務所のようなところで、真ん中に大きな白いテーブルがあり、真っ白な壁際にはロッカーや作業机や積まれた段ボールがあった。
何の変哲もないところではあったが、大人の働く場所、というのは子供にとってはものめずらしいものだ。何か面白いものが見つかるかも、という期待と悪さをしているという興奮で、その探検は凄く楽しかったという。
だが、Aさんが、
「下も調べてみよう、こっちに階段がある」
そう言って奥に続くドアを開けてみんなに召集をかけた時だった、
カン、カン、カン、カン、カン!
外の階段を誰かが上る音が聞こえた。
それも、一人ではない。少なくとも5人はいそうな気配がある。
「誰か来た。隠れよ!」
Aさんの言葉にその場にいた全員が近くの物陰やロッカーの中にさっと隠れた。Aさんと高橋さんと一番年下のTくんは会議用の大きな机の下に滑り込んだ。
外からは鉄製の階段を靴で踏む軽快な音が鳴り続け、ガヤガヤと話し合うような声も聞こえてきた。内容話わからないが、大人の男の声だ。
高橋さんは建築現場の人が帰ってきた、そう思ったそうだ。それも、荷物を取りに来た、とかではなく仕事を終えたばかりの汗まみれの作業員たちが談笑しながら事務所に戻ってきている、そんな光景が脳裏に浮かんだという。
しかし、どうも奇妙だ。
いつまで経っても、足音が聞こえるばかりで誰も建物の中に入ってこない。
不思議に思って、机の下から階段に面した窓の方を覗いてみたが、影も見えない。
「なんなんこれ……」
Aさんが不安そうに漏らす。Tくんはわけがわからず、泣きそうな顔でAさんの服を掴んでいた。
やがて、三分経ったのか五分経ったのかわからないが、足音は不意にぴたりと止んだ。
人の気配はしない。誰かが入ってくることもない。
Aさんの合図で全員隠れていた場所から出た。
灯りのない部屋の中でも、みんな青い顔をしているのがわかった。
いつもは夕方過ぎまで遊んでいた高橋さんたちだったが、その日ばかりは日も高いうちから解散したという。
後になってどうして工事が中止になったのか、親や先生に聞いてみたが、単なる不況のあおりを受けた計画中止であったらしい。




