第二十七話 市民病院で見たもの三
翌日の夜のことだ。水を飲んだり食べたりしてもよくなったため、私は必要以上に水を飲み過ぎて、また夜中にトイレに行きたくなってしまった。
昨夜と同じトイレは利用したくなかったので、私は一つ上の階にあるトイレを使うことにした。階段は灯りが乏しかったからエレベータを使うことにした。
トイレの様子は同じだったが、黒い人が出てくることはなかった。
用を足し終えた私は来た時と同じようにエレベータで自分のいる病室に戻ろうとした。
ボタンを押す。
と、エレベータが上の階を目指し始めた。
押し間違えたのだろうか。エレベータはどんどん上の階へとあがっていく。
と、不思議なことに気が付いた。
上に移動している時の浮き上がるような感覚はあるのに、一向に止まらない。
長すぎる。
上部にある階を表示するパネルは最上階の5を示していたが、扉は開かなかった。
変だな。
そう思った数秒後に、エレベータが止まった。
ガコン。音を立てて扉が開いた。
その向こうには闇が広がっていた。
消灯時間を過ぎたとはいえ、病院の廊下には灯りが点いているはずなのに。
完全な暗闇だった。
そして、異臭が鼻をついた。
焦げ臭い。
思わず顔をしかめた。
奇妙だなと感じつつも、私はエレベータの外に一歩だけ足を踏み出した。
ギイ。
まるで、木の床を踏んだ時のような軋みがした。
病院は古いとはいえ床はリノリウムだ。木造ではない。
違和感にパッと足を離し、怖くなった私は急いで閉まるボタンをして、しっかりと確認してから、2のボタンを押した。
静かな駆動音と共にエレベータが動き出し、止まった。
ガコン、と音を立てて扉が開く。
また、真っ暗な階につくのではないかとハラハラしていたが、扉の向こうには不気味で見慣れない、けれど安心できる青白い灯りの点いた廊下が伸びていた。
私は逃げるように病室に戻って、ベッドにもぐりこんだ。
以上が市民病院で体験した話である。
これは後で母から聞いた話なのであるが、この病院は一度焼けているのだそうだ。
気になって市の記録を調べてみると、確かに病院が全焼したという記録があった。六階建てで木造であったらしい。
病室で苦しんでいた老人は、苦しい、痛い、の他に熱いとも言っていた。
トイレで見た黒い人物は、焼け焦げてしまった人なのではないだろうか。
エレベータが到着した五階よりも上の階は、もう存在しなくなった焼けた六階だったのかもしれない。




