第二十三話 峠
成田さんはバイクをイジるのも乗るのも好きで、若い頃には走り屋みたいなこともしたという。
その日も友人と二人で山の上にある展望台を目指して峠を走っていた。
地元の走り屋なら誰でも走ったことのある、カーブと坂の多い山岳の道路で、時々車やほかのバイクと行きかう時もある。
その日も、成田さんの後方から凄いスピードで一台の白いシルビアが迫ってきていた。
そんな時には勝負をするのだという。
といっても、F1レースや漫画のように抜きつ抜かれつ、ということはなく後ろから来た車に追い抜かれれば負け、引き離せれば勝ち、というような、学校への行き帰りで子供がやるような遊びである。
成田さんは最初その気になってスピードを出したのだが、シルビアの速度は危険なほど早く、あっという間に追い抜かれてしまった。
すれ違いざまに運転席を覗くと、若い兄ちゃんが得意げに笑っていたそうだ。
「無茶するなあ」
シルビアを見送った成田さんは、事故を起こしそうだと心配になったという。
しばらくして成田さんが展望台へ着くと、先に着いていた友人が待っていて、コーヒーを差し出してくれた。
「あのシルビアやばかったなあ」
そう話を振ると、友人は、
「え? シルビアってなに?」
どうも話が合わない。
あれこれと聞いてみると、友人は白いシルビアを見ていない、それどころか誰にも抜かれなかった、というのである。
友人は成田さんの前を走っていた。二人の間には車はない。横にそれる道もない。展望台に着いたのも、成田さんが一、二分ほど早いだけだ。あれだけの速度で走っていれば、成田さんが追い抜かれれば、自然と友人にも追いつくはずである。
どう考えてもおかしい。
結局、そのシルビアがどこに行ったのかはわからずじまいだ。




