表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽怪百物語  作者: 背戸山葵
2/100

第二話 リネンシュート

 若いころ色んなバイトを経験していたという佐々木さんが、ラブホテルで清掃をしていた時の話だ。

 勤務開始から一か月ほど経って、二十三時~六時までの夜勤を一人で任されるようになった夜のこと。

 ホテルの清掃の仕事は、客が出ていったばかりの部屋のゴミなどを一通り片付け、シーツや布団カバーを剥ぐという工程と、風呂を洗ったり室内を拭き掃除したりしてベッドメイクをする工程の二つにわけられる。深夜の清掃は部屋の数が必要でない時には、ほとんど前者の後片付けばかりだ。すぐに部屋作りに取り掛かれるようにしておいて、人手の多い朝の清掃に仕事を回すのである。

 そのために、ほとんどの時間は洗濯をしたり、補充をしたり、廊下や待機所の掃除をしたりといった雑用が多い。

 仕事の早かった佐々木さんはさっさと夜の作業を終え、業務員用のエレベータのある待機所の掃除をしているところだった。

 ふいに、リネンシュートの方から、ドン、と音が響いた。

 リネンシュートというのは、後片付けの時に剥いだベッドシーツや清掃に使ったタオルなどを捨てるためにある吹き抜けで、最上階の五階から一階の洗濯機やリネン回収用の袋のある部屋まで通じている。

 シーツや濡れたタオルを大量にまとめて落とせば音がする。

 だが、その時は深夜の二時だ。清掃員は佐々木さんだけで、フロントの従業員は事務所にいるはずだ。

 そもそも、音が大きすぎた。

 何か重たいものを叩きつけたような音がしたのである。

 誰かが落ちた。

 酔っぱらったお客さんが、過って落ちてしまったのではないか。

 そう思った佐々木さんは、慌ててリネンシュートを覗きこんだ。

 だが、何かが落ちた形跡はない。

 念のため、一階に降りて確認してみたが同じだった。

 音が鳴りそうなものは他にない。

 気のせいだったのかもしれない。

 そう思って佐々木さんは業務に戻った。

 だが、それから夜勤の時に、たびたびその何かが落ちる音を聞くようになった。

 それは、決まって水曜日の午前2時頃だった。

 ドン。

 リネンシュートの下の方から音がして、確認すると何もない。

 ある時は洗濯中に、すぐ横のリネンシュートの出口から――。

 ドン。

 はっきりと大きな音が聞こえたこともあった。

 さすがにおかしいと思った佐々木さんは、店長に音のことを訊ねてみることにした。

 すると、店長は、

「あー……佐々木くん言ってこないから聞こえない人かと思ってたけど」

 と、気まずそうに語り始めた。

 それによると、三年ほど前に夜勤をしていた清掃員の女性が大量のシーツをまとめて落とそうとしたときに、過って一緒に落下してしまうという事故があったそうだ。

 五階から一階まで落ち、即死だったそうだ。

 それから、時々夜勤をする人の中で感じやすい人が“何かが落ちる音”が聞こええると訴えるようになったのだと店長は語った。

「でも、音がするだけで別に何もないらしいから、気にしないで」

 佐々木さんもその時はわかりましたと返事をしたが、その話を聞いてから、音が聞こえないときでも、リネンシュートが怖くなってしまった。

 ベッドが二つある部屋の後片付けをする時には、大量のリネンをまとめて落とすことになる。タオルが水浸しだったりすると、かなり重い。

 ひとつひとつわけてやればいいのだが、手間なのでまとめて放ることも多かった。

 きっと、その落下した清掃員も、五階のベッドの二つある高い部屋の片づけをしている際に、重いリネンに身体を引っ張られて落ちたのだろう。水曜日の、午前二時ごろに。

 佐々木さんは三か月ほどでそのホテルのバイトを辞めてしまったという。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ