第十二話 窓辺に佇むお姉さん
羽生さんは小学生の頃に体験した奇妙な出来事の話をしてくれた。
三年生くらいのころに使っていた通学路には、塀に囲まれた3階建ての家があった。
壁はレンガ風で、かなり古い家のようだった。
その家の、北側に面した三階の窓からいつも覗いている女の人がいた。
長い金髪で色白な外国人みたいなドレスを着たお姉さんだった。
羽生さんがじっと見ていると、お姉さんはニコっと笑って手を振ってくれた。
羽生さんは嬉しくなって、お姉さんに手を振り返した。
それから、そこを通るたびにお姉さんに向かって手を振って挨拶するのが習慣になった。学校に行くときも学校から帰る時も、お姉さんはいつも同じように窓辺に腰かけてぼんやりと外を見、羽生さんに気が付くと愛想よく笑顔を見せてくれるのだった。
羽生さんはそのお姉さんのことが気になった。
表札を見ると、麻布と書いてある。インターフォンを鳴らしてみようかと何度か思ったこともあったが、勇気が出なかった。
ただそれでも、お姉さんのことが知りたくて、お母さんに訊ねてみたそうだ、すると
「え? 麻布さんのところにはそんな人いないと思うけど」
と驚いたように言う。麻布さんは五十代の男性で、ずっと独身だという。
「でも、いつも窓から見てる人いるけど」
羽生さんがそう言うと、お母さんはくすくすと笑って、
「何言ってるのよ、あそこにいるのはマネキンよ。見間違えたのね」
羽生さんはお母さんの言っていることが信じられず、絶対にそんなことはないと言い張ったが、翌日その窓を見るといつもお姉さんのいた場所にはマネキンが座っていた。
金色のカツラを付けてドレスを着ているが、ピクリとも動かない。
それからその家の横を通るたびに窓を見たが、マネキンのままだった。
「私がいつも挨拶してたのって、最初からマネキンだったんでしょうかねえ」
なんだか魔法が解けたみたいだと羽生さんは語っていた。




