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幽怪百物語  作者: 背戸山葵
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第十一話 廃墟の老人

 小学生時代の私は好奇心が旺盛で悪戯好きでよく喧嘩もする、言ってしまえば悪ガキと呼べるような種類の子供だった。

 友達と一緒にあれやこれやと悪さをしたのを覚えている。

 確か五年生のころだ。その日は同じクラスの海原くんと川向くん、それから川向くんの三つ下の弟の四人で、マンションの裏にある駐車場で遊んでいた。

 やがて遊びに飽きてきた頃、誰かが近所にある廃屋のことを口にした。

 表札のない家で、私が覚えている限りは人が住んでいない小さな瓦葺の二階建てだ。

 子供たちからは、お化け屋敷。などと噂されていたことを覚えている。

 退屈だった私たちはお化け退治しようぜ、とばかりにその廃屋に侵入することにした。

 冒険心から門ではなく塀をよじ登って庭に降り立った。

 誰も手入れする人のいない庭は荒れ放題で、草も植木も異様なまでに成長していた。

 縁側から家の中の様子が見える。柱はカビて白け、窓は破れ、引き戸の一つは倒れていて、家は今にも崩れ落ちそうなほどボロボロに見えた。

 時刻が夕方の六時前だったということもあり、まるで家自体が怪異であるようにさえ思えた。

 しかし、私は友達の手前、臆病と思われたくなく、尻込みする三人をよそにずかずかと縁側から廃屋へと上がっていった。

 歩くたびに、傷んだ床板が軋みを上げた。

 饐えたような、かび臭いようなにおいが鼻をついた。

 そこらへんに木のくずや葉っぱ、ゴミなどが散乱していた。

 居間の畳は腐ってボロボロで、その上に中身の飛び出した座布団や、ひっくり返ったちゃぶ台などが転がっていた。

 気味の悪い家だ。川向くんの弟などは、始終帰ろう帰ろうと泣き言を漏らしていた。

 だが、却ってそのことが私によくない種類の勇気を与えていた。

「なあ、上あがれるで。行ってみよ」

 私は階段を指さして呼び掛けた。

 一人で行く勇気がなかったのである。

 階段は八段目くらいまでは確認できるものの、その先は闇に飲まれ、どのくらいまで続いているのかさえわからなかった。

 私は他の三人が集まってきたのを確認すると、湿気た壁に手をついて、一段一段確認するようにそろそろと階段をのぼった。

 ぎぃ。ぎぃ。ぎぃ。ぎぃ。

 一歩踏むごとに、階段が立てる軋みは、どこか疲れた溜息じみていた。

 階段を登り切ると、細い廊下に出た。

 右手には黄ばんだ襖が見える。左手には、物置のような木の引き戸があった。廊下の奥は行き止まりで、扇風機と掃除機が転がっていた。

 空気は冷たく、一階よりもさらに気味が悪かった。

「開けるで」

 私は三人を待ってから、襖に手をかけ、

 さっ、と素早く開けた。

「え?」

 思わず私は固まっていた。他の三人も、部屋の様子を見て間の抜けた声を上げていた。

 部屋の中が明るい。外の光ではなく、蛍光灯が点っている。

 その明るい部屋の中は、今でも人が生活しているかのように綺麗だった。

 畳は少しも傷んでいないし、床にはシミ一つない白いカバーのかかった布団。

 その、布団の上に誰かが寝ていた。

 白髪頭の頭頂部付近まで禿げ上がったおじいさんだった。

 おじいさんは、むくっ、と起き上がると

「誰や! お前ら!」

 私たちの方を振り向いて大声で怒鳴りつけてきた。

 その顔があまりにも異様だった。

 おじいさんの顔の右側には、子供の頭ほどもありそうな、巨大なこぶがあった。

 その表面はまるでケロイドのようで、小さな穴から膿のような汁が噴き出していた。

 私たちはおじいさんの恐ろしい姿と迫力に、その場から逃げ出していた。

「こら、逃げるな!」

 一番後ろから階段を駆け下りる私は、背後でおじいさんが立ち上がる気配を感じた。

 転がるように縁側に下り、家の門から飛び出てから家を振り返った。

 家から誰かが出てくる気配はない。

 二階の件の部屋がある窓を見上げたが、灯りもついていなかった。

「いま、じいさんいたよな」

「うん。顔になんかでっかいキモイのついてたよね」

 皆、同じものを見たらしかった。

 後から父にその廃墟のことを訊ねてみた。

 その家には隅田さんというおばあさんが亡くなるまで一人で住んでいたという。

 では、私が見たおじいさんは何者なのだろうか?


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