王城バルコニーで。
初日という事で2話目を投稿。次は来週、かも?
体調不良、というか、俺のせいで体調を崩した姫が自室に下がったのち、魔王討伐の褒章とか、覇道将軍への叙勲とかの諸々の儀式があった。
因みにだが、覇道将軍なんて仰々しい名前の役職であるが、実のところ半分名誉職だったりするらしい。
この世界には、俺が倒した魔王の出現以前にも魔王が存在していた時期があり、もちろんそれを倒した勇者もいた。
……のだが、その勇者が各地の国の姫君を嫁にしたり、その甘言に惑わされて他国を侵略したり、好き勝手に残った魔物を討伐しまくって各地の冒険者が干上がったりとまあ、兎に角魔王が登場した時と同等ともいえる混乱が起こったらしい。
そのため、各国は相談し合い、勇者が力を使わなくても生活できるような賃金を与えられる役職を用意し、同時に信頼できる国家に紐づけすることで少しでも制御しやすくすることにしたらしい。
まあ、その先代の馬鹿のおかげで働かなくても食っちゃ寝生活が保障されているというならこれほど楽なことはないだろう。
名誉職と言っても、有事の際の出動と正義の象徴としての行動を心がけること、それと、常に活動状況を聖国に報告する義務は存在する。
とはいえ一夫多妻が認められる、というか強い兵士ならばむしろ称賛されるこの世界においてハーレムを阻むものではないので俺的には問題ない。
なぜ聖国が勇者のお目付け役になったかというと、先代の勇者を惑わした姫君を打ち倒したのがこの国の姫だったからであり、また、その時に一気に表舞台に台頭した宗教、誓文教をの聖地であるからだ。
そのため、この王城には巨大な教会が内包されていたりする。
俺は種々の儀式が終わり、最後の仕事をするための移動ついでに今後のことを考えながら歩いていた。
覇道将軍は聖国の将軍というふうに表向きにはなっているが、実際には聖国が手綱を握っているために少し有利という程度で、他国へと向かってもさほど問題ない。それどころか、他国から依頼を受けることもあるらしい。
さらには現地の女性を娶るのも、一度聖国に声をかければ可能だ、というか、妻を取るならなるべく他国から取ってほしいとアルファレス王に頼まれている。何でも聖国の女性を勇者が娶ると、パワーバランスを気にする国に難癖をつけられるらしい。
そのため、実は嫁探しも自分で行わなければならなかったりする。
もちろん各国の王城を訪れればきれいどころが待ちかねているのは間違いないのだが、あくまでも”勇者様がこの女性をえらばれたのです”としないと、いろいろと他国からうるさいようだ。
つまり、俺の目下の課題は、どの国に足を運ぼうという事だった。王からは他国からと言われているが、このリーンファレスにも美しい娘はたくさんいる。もちろん海外に目を向ければそれこそ星の数ほど美人はいるだろう。
白い肌が特徴的なリーンファレスと対照的な、褐色が美しい踊り子の国バネッサ、健康的に焼けた活力がある港湾国家ドーンドラ、あるいは牧歌的な農業国のフラットファー。
容姿も性格も全く異なる女性との交際を夢想し、半ばうわの空で王城を歩いていた俺は、急に寒気を感じて振り向いた。
そこは巨大な羊皮紙を模したモニュメントが掛かった部屋だった。
「誓文教の教導室、か」
誓文教、この国の国教である宗教であるが、実は俺はこの宗教にいい思い出があまりない。と、言うのも、この誓文教の教義に、少々、いや、俺にとってはかなりの問題があるからだ。
誓文教の教義は大まかに言えば3つだ。
1.誓文教徒は誓いを文に起し、必ず果たすこと。神はその誓いを果たそうとする限りあなたを見捨てない。
2.誓文教徒は、他者の書いた文に対し、敬意を持つこと、人が書いた文には必ず思いがあるのだから。
3・誓文教徒は、預言を信じること。神の文は偉大である。
となっている。因みに、先代勇者を倒したとされる姫によって預言が成されており、勇者は絶対の存在であるが、悪しき思いを持つものを触れさせるべきでないので誓文教を信ずるものと結ばれるように取り計らうようにとされているらしい。
と、話は脱線したが、誓文教についてはだいたいそれくらいだ。
さあ、お分かりいただけただろうか。誓文教は、勇者を神聖視している。まあ、それは良い。だが、これが過剰なのだ。どれくらい過剰かというと、姫の預言を曲解して、勇者と婚姻を結んだものが最も信心深いと信じられるくらい過剰であるのだ。
俺だって、女の人に好かれるのは悪い気はしない。さらに言えば積極的にあんなことやこんなことをしてくれようとするのは、人前では恥ずかしいものの、まんざらでもないのだ。
だが、それが40台のおばちゃんだったりするのだ。
10台未満の幼女が婚姻届けを持ってくるのだ。
更には、何をどうしたのか、魔王を倒せるほどの能力を持った俺が気付かないように横で寝ているのだ。
もう、好意を通り越して軽くホラーである。しかもその印象をさらに補強するように、教会に通い詰める熱心な信者たちの口からは恍惚のため息や、呑み込み損ねたよだれが漏れ出ているのが垣間見える。
うん。正直、前世通してDTの俺には対処できないので、ご遠慮願いたい。
俺は、彼女たちを見なかったことにして、最後の仕事へと取り掛かった。
王城バルコニー。そこから見下ろす広場には、幾重にもわたる人の波ができていた。それはこの国の民たちだ。覇道将軍としての最初の務め、それは魔王を倒した勇者が、この国、ひいては人間世界を守護することを誓う、という儀式である。
まあ、魔王が倒されたのは、今から数えて一週間も前の話だ、それに、一般的に魔王が倒されれば他の魔物たちも落ち着くとされている。こんな儀式なんて何の意味もない。ただの人気取りだ。
と、思っていたのだが、少し様子がおかしかった。
「さあ、此度の英雄、ソーヤ・スバル殿。新しき覇道将軍の登場じゃ!」
王の話が終わり、俺が前に出ると、あれだけにぎやかだった広場がシーンと静まった。どこかから、唾を飲み下す音が聞こえてきそうなほどの静寂だ。
「あー。この度、魔王を倒し、覇道将軍となった、ソーヤ・スバルだ。無い方がいいとは思うが、もしも魔王が復活したなら、俺が打ち倒すことを約束しよう」
そんな短い言葉を言い終えても、誰も何も発しようとはしなかった。
「皆の者!ソーヤ殿に盛大な拍手を!」
王に言われてハッとしたのか、今度は広場の全員が割れんばかりの拍手をこちらに送ってきた。
うん。なんというか、すごい必死そうだ。目が血走ってる人とかもいる。うん、別に拍手しなくても怒ったりしないよ。だから杖持ってたおばあちゃんも杖持っていいよ。うん。
俺は心で涙しつつ、集まっていた人々に手を振るのだった。
広場の人たちはアフリカゾウが高いところから自分たちをねめつけてるような感覚を……。
なお、先代勇者はNINJAの祝福持ちだったのでそんなことはなかったそう。