チェス・エイリアンと僕(2)
僕はその雑誌を手に取った。
日本の雑誌にチェスの記事が載ることなど、世界王者とスーパーコンピュータの対戦以来ではないだろうか。しかも「エイリアン」とは、一体どういうことだろう。
それは小さな記事ではあったが、僕にとっては、頭をガーンと殴られたような衝撃を受けるものだった。
日本がチェス後進国と言われて久しい。しかしその常識を打ち壊す、一人の天才チェス・プレイヤーが現れた。鳴神美鈴という日本人であり、年齢は18歳。あどけなさを残す顔立ちといい、まだ少女といってもいいほどだが、その強さは、世界王者のラルフ・ガーラント氏も舌を巻くほど。
そのような文章とともに、鳴神美鈴の写真が小さく載っていた。チェス盤に向かって真剣な表情をしていたが、ショートヘアに包まれた顔は、笑えば結構かわいいかもしれない。しかも18歳といえば僕より6つも年下だ。
さらに記事を読んでいくと……
鳴神は日本国籍だが、何歳からチェスを始めたのか、誰に教わったのか、などはまだ知られていない。その棋風は、外見に似合わず攻撃的であり、敵陣を異星人の侵略のように蹂躙するところから、「エイリアン」の異名をとる。現在のレーティングはおよそ2700。
2700だって!?
チェスにおけるレーティング、つまり勝率は、大きければ大きいほどそのプレイヤーは強いといえるだろう。1500から1800くらいなら、アマチュアの間ではほぼ無敵かもしれない。2000以上となると、一体どのくらい強いのか、見当もつかない。チェスを指すことで生活をしているプロでも、2400くらいが平均らしいが、この鳴神という女の子はそれすら超えていることになる。
ちなみに僕のレーティングは……あえて言わないでおこう。
なるほど、これはまさしくエイリアンと呼ぶにふさわしいかもしれない。
こんな人が存在していたとは。
僕のようなヘボにとっては雲の上のような話だったが、強烈に惹きつけられた。
僕はその雑誌を買い、帰宅した。アパートを出てから40分ほどが経過していた。どうやら、思いのほか夢中になって、記事を読みふけっていたらしい。