チェス・エイリアンと僕(1)
『あなたの負けです』
えっ?
でかでかとモニターに現れた表示に、思わず眼を疑った。
そんな馬鹿な。キングで取れたはずだぞ。
たった19手で、終わりだなんて。
やっと守りが固まって、攻めに転じようってときに……
画面をよく見る。
「あ……」
僕は思わず、一人で声を出していた。黒陣の端に、ちゃんとビショップが控えていて、クイーンを援護している。
なんてこった。こんな初歩的な罠というか罠というほどでもない手にやられるとは、つまり僕は下手くそなのだ。
棋譜を保存して、ソフトを閉じた。
日本にはチェスをする人は少ない。チェスに強くなりたい、と思う人はさらに少ない。そして、本を読んで練習したり、パソコン相手に試合をしたりする人は、さらに、さらに少ない。言うまでもないが、僕はそのうちの一人である。
チェスのルールは、意外と単純だ。将棋を知っている人なら、すぐ覚えられるかもしれない。キング、クイーン、ビショップ、ナイト、ルーク、ポーンの六種類のピースを動かし、相手のキングを動けない状態にすることが目的だ。つまり将棋でいうところの「詰み」、チェックメイトである。
動ける範囲にある相手のピースは取ることが出来るが、将棋と違って、取ったピースを味方として使うことは出来ない。その他、将棋にはない「引き分け」があったりする。物静かで知的なゲームというイメージだけど、その勝負の駆け引きは激しく、結構えげつない一面もある。
一体どうやったら、強くなれるんだろう。
僕は今のところレベル6のソフトに勝ったり負けたりという状況で、ヒヨッコもいいところだ。ソフトの強さはレベル100まで上げられる。つまり、勝たせてもらっているのだ。
いつものパソコン相手の対局が、あっという間に終わってしまったので、僕は気分を変えるため外へ出た。
時刻は夜の10時を回っていた。最近、深夜営業の近所の本屋が撤退してしまったので、こういう時間のヒマつぶしに困るようになった。
いつものコンビニに行った。店内には、雑誌の立ち読みをしている客が二、三人いるだけだった。
僕も雑誌コーナーで、面白そうなものを探した。
すると、こういうのを引き寄せの法則というのだろうか、眼を射貫くような見出しを見つけた。
『チェス界にエイリアン襲来!』
なんだ、これは?