恋とは
気付けば恋に落ちていた。
何かの本で、目にしたことがある。
恋とはするものでは無く、知らぬ間に落ちているものだと。
私も今し方、それを経験していた。
この間、木室くんは私をナンパから助けてくれた。
その後も様々な場面で手を差し伸べてくれた。
それが彼の優しさであり、魅力である。
その行為一つ一つが私だけに向けられているわけではないことを私は知っている。
だからって、勘違いしちゃうよ………。ここまでの域に達すると。
もしかしたら、木室くんなら、私の望みを叶えてくれるかもしれない、なんて。
木室くんと付き合えば、絶対楽しいって予想がつく。
………幸せになれると思う。
でも、私の望みのために好きになった人を利用するの?
そんな事が許されるの?私はそんなことして後悔しない?
ほら、私だって結局自分のことしか考えてない。
病気だから……それだから許されるなんて、所詮は甘えだ。私だって醜い人間だ。
でも、聞こえるの。悪魔の囁きが。
《誰だって醜いから。自分のために動いた方が楽になれる。》って。
だとしても、私は、悪魔の言うとおりになんかならない。
私の望みも叶えて、相手が傷付かない未来を探す。
………誰かに、傲慢だって嗤われたとしても。
私は今日も自問自答を繰り返しながら、学校へ向かった。
でも、告白ってどうやればいいんだろう?
流石に湊に聞くのは不謹慎だと思う。
私だってそのぐらいの常識は兼ね備えている。
湊だって告白して振られたのに、その相手から恋愛の相談をされるなんて思ってないだろう。
となると、私には相談できる人がいない。
どうしようか、と頭を抱えていると湊が近寄って来て言った。
「大丈夫?何か悩みがあるなら、なんでも相談のるけど。」
それを聞いても私は躊躇う。
なんでもの中に恋愛相談は含まれていないと思ったからだ。
「……恋愛相談でもいいよ。」
私はその言葉に驚愕の表情を浮かべる。
私の表情だけでそのことを察したの?とは流石に聞けなかったが、湊は静かに微笑んだ。
ここまで勘が鋭いとは思ってなかった。
病気のことをバレないように気をつけないと、と思いながら私は口を開く。
「実は、私、好きな人ができて……。」
「木室くん、なんだけど………。」
私がそう告げると、湊は大して驚かずに言った。
「やっぱりね。最近、栞の様子がおかしいって思ってたから。でも、僕に相談しないあたり、相談しにくいことなのかなって……。」
じゃあ……
「木室くんだってことも気付いてたの?」
私は疑問に思ったことを問いた。
すると湊は苦笑する。
「それはないよ。僕もエスパーじゃないんだから。」
そこまで鋭かったら、怖いでしょ?と言うように目で訴えると、湊は軽く笑った。
「告白するの?」
そうだった。
そのことを聞こうと思ってたのに忘れかけていた。
「しようかなって思ってる。でも、どうやればいいのか分からなくて……。」
今まで告白されたことはあるけどしたことはなかったから。とは流石に言わなかった。
大抵の人には自慢のように聞こえるだろうし、湊にそう誤解されたくなかったからだ。
別に自慢話ってわけじゃないのに……。
そんな思考を巡らせていると、湊から答えが返ってきた。
「多分、告白の仕方に答えなんてないと思うよ。自分の気持ちを伝えることが『告白』なんだから。」
私はそれを聞いて、自分の答えにたどり着いた気がした。
「やっぱり湊に相談して良かった。ありがとう。私、頑張る!」
自分への決心も込めてお礼を言うと、湊は優しく笑った。
私は心優しい友人に感謝しつつ、告白への意気込みを高めるのだった。