いざカラオケへ
翌日
無事にお母さんの許可を貰った私は誘うタイミングを図っていた。
いつ誘えばいいんだろう。昨日の木室君みたいに放課後誘えばいいのかな……?
でも、昨日も行ってたみたいだから、誘っても断られるかも。
うーんうーんと、頭を抱えながら悩み続けている間に時間は刻一刻と過ぎ、とうとう放課後になってしまった。
今日はもう諦めようかな……。と帰ろうとしていたところ、木室君が近寄って来た。
「有栖川さん、俺ら今日もカラオケ行くんだけど、来る?」
木室君の後ろに着いてきている男子が、どうせ断られるんだから誘うなって、と言っている。
でも、私は今日もまた誘ってくれたことが嬉しくてそんな事は聞いていなかった。
「えっ……いいの?今日は用事ないから、行きたい!」
私がそう言うと、こちらを見ていた周りのクラスメイトたちが声を揃えて言った。
「笑った!!」
私はへっ、と言う顔で皆の方を見る。
私が意味が分からずにいると木室君が教えてくれた。
「有栖川さん、あんま笑わないじゃん。なんだ、ちゃんと笑うんじゃん!」
ああ、そう言うことか………いつもは気を張っていてそれどころじゃないからかな。
無事に一緒に遊ぶことが出来た私はルンルン気分で家に帰ろうとしていた。
「あっ、もう帰るの?じゃ、送るよ。」
木室君がそう声をかける。
やっぱモテるだけあるな。女の子の扱いに慣れてる気がする。
私は呑気にそんな事を考えた。
「ありがとう。でも、私は迎えが来るから、大丈夫。」
私は渋々誘いを断る。
本当は一緒に帰りたいけど、流石に追い返すのは運転手さんに申し訳ない。
「そうなんだ。気をつけて!」
木室君は断った私に対して嫌そうな顔一つせず、友達の所に戻っていった。
「おかえりなさい。何も危険な目に遭わなかった?」
家に帰ると、お母さんが間髪入れずにそう声をかける。
「うん。大丈夫。楽しかったよ。許可してくれてありがとう。」
私は簡単に礼を言うと自室に入った。
幸せな気分でベットに寝転がると驚くほどすんなりと眠りについていた。
私が学校に行くと、なぜかクラスメイトの男子が駆け寄って来た。
「あのっ、有栖川さん。放課後、教室に残っていて貰えませんか?」
少しだけ強張ったような声でそんな事を言った。
「うん。わかった。」
何の用だろう?と考えながら、私は授業を受けた。
放課後
私が教室で待っていると、先ほどの男子が入ってきた。
見たところ、一人みたいだ。
「えっと、何の用?」
私はとりあえず一番聞きたかったことを聞いた。
「あのっ、この前笑顔を見た時に一目惚れしました。僕とっ、付き合ってください。」
思いも寄らぬ言葉に私は目を丸くする。
告白されるのは別に初めてってわけじゃない。
でも、私じゃ相手の好意に応えられない。
いつ死ぬしか分からないなんて知ったら、どんな顔されるだろう?
私から離れてくのかな………。
でも、私は恋がしたい。離れてくのを怖がってたら絶対出来ない。
今、目の前には私のことを好意に思ってくれている人がいる。
でも私はこの人のこと全然知らない。
私の目的だけのためにこの人を利用するのは駄目だから。
だから………
「ごめんなさい。付き合えないです。」
「でも、こんな私を好きになってくれてありがとうございます。嬉しかった。」
私の言葉を聞くと、その男子は落胆したように俯く。
「わかりました。………じゃあ、友達にはなってくれますか?」
振っちゃったのに友達になりたいって思ってくれるんだ。
“ありがとう”と私はボソッと呟く。
「えっ……なんて?」
男子は聞き取れなかったみたいで聞き返してきた。
「……ううん。なんでもない。友達としてよろしくお願いします。」
ここで友達となった彼、三枝 湊が今後の私の良き相談相手として長い付き合いになることを、この時の私はまだ知らない。