クラスメイト
次の日
いつものように車で学校に送ってもらった私は教室に向かう。
中に入るとクラスメイトが怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
そうか、最近は学校を休んでたからな………。
休んでた理由は言うまでもなく、病気のせいだ。
でも、クラスメイトにそのことは言っていない。このことを知っているのは私と祥さん、そして両親と学校の先生だけなのだ。
隅にいる生徒が何かひそひそ言っているのも、あらかた私が学校に来ているのを珍しく思ってのことだろう。
とは言え、あそこまであからさまにしなくてもいいのに……。
などと考えながら、私が教室から出ようとしたその時、
「おっ、有栖川さん。来てんじゃん。体調はもう大丈夫なの?」
とクラスメイトの一人の木室悠君が言った。
木室君は優しい。
確か、とてもモテた筈だ。
その明るい性格ゆえか男女共に好かれている。
そして、私なんかを気にかけてくれるどころか、結構なイケメンだ。
嫌われることなんて無さそうだと思った。
「うん。ありがとう。」
私は素っ気なくそれだけ返して、廊下に出た。
私は、ほとんどの人と繋がりを持たない。話そうとしない。
私みたいな人が他の人と話すと、後々迷惑にしかならない。
病気のことだって、親しくし始めたらいつまで隠し通せるか分からない。
でも、それじゃ駄目なんだよね。本当に恋をしたいなら、人との繋がりを大切にしないと……。
私は少し憂鬱な気分になったが、頭の中のモヤモヤは消えてくれなかった。
6時限目の授業が終わり、帰り支度をしていた私に木室君が話しかけてくる。
「有栖川さん、俺らカラオケ行くんだけど、来る?」
少し私を気遣うようなそんな声色をしていた。
「ううん。今日は用事があるの。でも、誘ってくれてありがとう。」
私は申し訳ないと思いつつも断る。
いきなり、一緒に遊ぶのはちょっとハードルが高過ぎる、と思ったからとかでは決してない。
急に遊ぶなんてお母さんは許してくれないだろうし………。
でも、いつもよりは頑張った(と思う。)。
誘ってくれてありがとうなんて、いつもだったら絶対に言わない。というか言えない。
分かってる。これはただの自己肯定心だ。でも、今はそれでいい。
少しでも前に進んでればそれで充分だ。
今度、お母さんに遊んで良いか聞いてみよう。
それで、今度は私から誘ってみよう。
私は心の中で決意した。
そして、いつも通り今日も昇降口で待っている車に乗って家に帰った。
「ただいまー。」
家に着いた私がそう言うと、お母さんが出てきた。
「おかえり。」
「ねぇ、お母さん。今度、遊びたいんだけどいい?」
私がそう言うとお母さんは血相を変えた。
「何言ってるの!?そんな時に発作が起きたらどうするの?」
「危険じゃない。やめなさい。」
予想していた通りの反応に私は溜め息をついた。
こんな反応が来るだろうって予想はしていたけど、こうまでして予想通りだと怖いね。
でも、私もそう簡単に諦められない。
後悔は…………したくない!
「お母さん、お願いします。私、遊びたいの。」
「なるべく、危険のないように細心の注意を払うし、薬も予備を持ってく。危険だと思ったら、すぐ帰ってくるから。」
だから、許してください。と私は必死になって頼んだ。
私の必死の懇願にお母さんは渋々頷いた。
早めに帰ってきなさい。とだけ言って書斎の方へと歩いていった。
私はその背中に向かって、ありがとう。と口を動かした。