領主代行もとい補佐
暑い、熱い、汗が止まらん。
シーマルさんの提案を聞いた私と父は、考えていた。
シーマルさんの提案は正直なところ落としどころとしては、いいといえる。
『父はどう思っているのだろう?』私は今、父がどのような顔がしているの確認するように見た。
だが、父は顔を伏せ深く考えているようで顔がよく見えない。
「シーマルの提案はなかなか面白い意見だと思う。しかし、領主代行とは領主と同じだけの権限を与えるのと同じだ。そうなると、私の答えはやはり駄目だと言うしかない」
父はどうしても私が領の運営をするのがイヤみたいだ。
これではまた平行線の話が続いてしまう。
「だが、代行ではなく。補佐という形でならソフィアの領の運営に携わる事を許可してもいい」
平行線の話し合いが、また続くかと思っていたら・・・父からまさかの発言が飛んできた。
「補佐ですか?お父様、補佐とは具体的にはどのような事をするものなのですか?」
「簡単に言ってしまえば、領主と共に領の運営について計画を立てる者のだ」
「それだと、代行と同じではないのですか?」
「残念だが、その二つは全然違うものだ。代行だと領主と同じだけの権限を持つが、補佐は権限を持たない。故に、補佐は領主に意見を言えるが運営の方向性を決める決定権がない。・・・これ以上の融通は出来ない、厳しい事を言うようではあるがな」
ここが妥協点かもしれない。
「分かりました、お父様。私に補佐をやらせてください」
そう言って私は、椅子から立ち上がり父に頭を下げた。
「ソフィアは本当に補佐でいいんだな?先ほどまであれだけ自分で領を運営する事を望んでいたのに」
「確かに、自分で運営したい気持ちはあります。しかし、お父様にはお父様の考えがあるように私にも私の考えがありますので」
「なるほどな。今、ソフィアの考えを聞きたいが・・・やめておこう。これからのソフィアの補佐としての働きを見て確認していくよ」
「分かりました。お父様、見ていたください」
「あぁ、分かった。ソフィア、明日から補佐をしてもらうからな」
「望むところです」
「明日の朝、またここに来なさい」
「はい」
こうして、長く続いた話し合いはシーマルさんの助けもあり終わった。
私は執務室を退室し、自室に戻った。
緊張感が残留している。
椅子に座って休んでいるのに、『休めてる気がしないわね』。
思った以上に緊張していたのね。
明日から補佐をする。その事が今ある緊張感を越えて嬉しく思ってしまう。
ある種の高揚感なのかもしれない。
◆◆◆◆◆◆
「話がまとまって良かったですね、旦那様」
シーマルは椅子にぐったり座りこんでいる、この家の主に話しかけていた。
「あぁ、一応はな」
「しかし、本日は珍しくお疲れのようですね」
「やっぱり分かるか?」
「えぇ、勿論分かりますよ。その姿を見れば」
「・・・なるほどな」
そう言って私は立ち上がり服装を正し、椅子に座り直した。
「助かったよ、シーマル。お前が来てくれなかったら、ソフィアとの話し合いは今だに終わっていなかっただろうからな」
「旦那様の助けになれたのなら良かったです。ですが、どうしてそこまで話し合いが長引いたのですか?」
「簡単な話さ、私もソフィアも譲らなかった事が原因さ」
さっきまでしていた、ソフィアとの話し合いを思い出して私は渇いた笑いが口から漏れ出していた。
「意外ですね、私が知るお嬢様ならすぐに折れて話が終わると思っていました」
「あぁ私もそう思っていたよ。でも、今回はそうじゃなかった。ソフィアには何か思うことがあるのだろう」
「そうですね。最近のお嬢様は大人びて見えますからね」
「私もそう思うよ」
「しかし、領主代行でなくて良かったのですか?」
「私もそれでもいいかもと最初は思っていた。だが、もし何かあった場合その責任は領主と等しく代行が取れねばならん。ソフィアにはその重荷を背負わせるわけにはいかんと思った。・・・親バカだと思うかシーマル?」
すると、シーマルは首をゆっくりと横に振り「思いません」と答えた。
それを見た私は軽く笑みを浮かべ、カップに残っていた紅茶を飲みほした。
◆◆◆◆◆◆
私は珍しく自室のベランダに出て、夜空を見ていた。
ここは私が元いた世界ではないけど、夜空はに輝く星は元いた世界のものと同じように感じた。
「お嬢様、夜風は体に障ります。お部屋にお戻りください」
先ほどまで部屋にいなかったエマが後ろに居た。
『星を見るのに夢中なっていたみたいね』、エマが部屋に入って来たことに気がつかないくらいに私は夢中だったようだ。
「えぇ、分かったわ」
私はそう言ってエマの待つ部屋に戻った。
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