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明日へ向けて

遅くなりました


 馬車の揺れでお尻が痛み始めた時、農業管理所に着きコズミさんと別れた。

 その後、父と二人で屋敷へ馬車を進めた。


 途中に休憩を何回か挟んで、ようやく屋敷に到着した。

 

 「ソフィア、今日は遅い。話は明日にしよう」


 馬車を降りるなり父は私にそう言ってきた。

 

 「はい」


 私は短い返事をした。

 返事を聞いた父は軽く頷き、屋敷の中に入って行った。

 私も父の後に続き屋敷の中に入り自室に向かった。


 自室の椅子に座った私は、今日の出来事を思い返していた。

 ドルトムン領にスラム街が有ったのは、正直驚いた。

 でも、それは領の運営が悪く出来たものではなく。父が彼等を領に入る事を許可した結果出来たものなので仕方ないと思う。

 しかし、スラム街の彼等に何の対策・対応もしていないは問題だ。そこに関しては領の運営が悪いとしか言えない。

 明日、父との話し合いで私の思いが何処まで通じるか・・・。

 

 「どうされました?お嬢様」


 後ろから声が聞こえた。

 振り向くと、紅茶を運んできたエマが立っていた。

 

 「何か考え事ですか?」

 「えぇ、そんなところ」

 「どうでした?領を見てきて」

 「エマはドルトムン領にスラム街が有るのは知っていた?」

 「はい」


 エマは知っていたのか・・・。

 

 「そう、エマはどう思う?」

 「そうですね・・・スラム街は他の領で問題になっていたので、そこに居た彼等をドルトムン領に入れるのはどうかと思いました。ですが、彼等には受け入れ先が必要であったのは確かでそこでドルトムン様が彼等を受け入れたのはドルトムン様の優しさが出てと思います」


 『なるほどね。お父様の優しさか・・・』しかし、現状はスラム街の事は放置されているように思える。それでは今後、領内から不満や不安が生まれる。だから、私は何とかしたい。

 

 ◆◆◆◆◆◆


 エイベル・ドルトムンは屋敷に戻るなり執務室にある椅子に深く腰掛けていた。

 『まさか、ソフィアがあんな事を思っているとは・・・』、まだまだ子供だと思っていたソフィアは確実に成長をしていると感じた。

 

 「嬉しそうですね。旦那様」


 自分でも気づかずに笑っていたようだ。


 「あぁ、子供の成長を感じてな嬉しく思ってしまった」

 「それは嬉しい事ですね」


 そう言って笑顔で話すシーマル。シーマルはドルトムン家の男性使用人に一人で、使用人としては長くドルトムン家で働いてくれている。


 「お前もそう思うか?シーマル」

 「はい。私にも子供がおりますので旦那様のお気持ちは分かります」

 「そうだったな。シーマルの子供はいくつになったんだ?」

 「はい。今年で10歳になります」

 「もうそんな歳になるか・・・時の流れは早いな」

 「はい。特に子供の成長は早く感じます」

 「そうだな」


 全くもってその通りだと思う。今日、改めて子供の成長を感じた一日だった。


 「とこで、どうでした本日のお嬢様との視察は?」

 「ソフィアはどうやら領の運営に興味があるらしくてな、領の運営をやらせてくれと言ってきた」

 「それはすごい発言ですね!?」

 

 驚くシーマルを見ると、ソフィアの発言はそれほどのモノだという事だろう。

 現に私もそう思う。


 「だよな」

 「やらせてみるのですか?」

 「いや、あの子はまだ子供だ。それは出来ないだろ」


 するとシーマルは少し考えた様子を見せた後、「ですが、お嬢様はかなり優秀だと先生方々言っておられますので一度体験させるのもいいのではないでしょうか?」と言ってきた。

 確かにシーマルの言う通り、ソフィアが真面目に勉強をするようになってからソフィアに対する先生方々が口をそろえて言われる「娘さんは優秀だ、我々が教える事が難しい程に」と何度も聞いた話だ。

 だけど、ソフィアに領の運営をやらせるの事は出来ない。

 何故ならまだあの子は6歳の子供。

 まだ世界を全然知らないのだから・・・そんな者に領の運営をやらせるわけにはいかない。

 

 「明日、その事についてソフィアと話す事になっているんだ」

 「なるほど、明日は大変な一日になりそうですね」

 「あぁ、全くもってその通りだ。帰りの馬車の中でも少しその話をしたのだが、ソフィアを説得するのは大変そうだ」

 

 明日の事を思うと少し怖く思う自分がいる。


 ◆◆◆◆◆◆


 朝の日差しが目に入り、私の意識が覚醒し始める。

 目を開けるといつも見る景色が広がる。

 今日は、父と大切な話の日だ。

 いつにもなく、朝から緊張してきた。

 

 「失礼します、お嬢様」

 

 エマの声が扉の向こうから聞こえてきた。どうやら、私を起こしにきたようだ。

 部屋の扉が開き、メイド服を完璧に着こなしたエマが入ってくる。

 

 「おはよう、エマ」

 「!?おはようございます。お嬢様」

 「どうしたの、エマ?驚いた顔をして」

 「いえ、お嬢様が私に起こされずに起きているのに驚きまして」

 「なかなか言うわね」

 「失礼いたしました。本日のドルトムン様との話し合いに緊張しているのですか?」

 

 流石はエマ、よく分かっている。

 私は素直に「そうよ」と答えた。するとエマは手を口元に当て軽く笑っていた。


 「すいません、お嬢様。なら今日は勝負服で気合いを入れましょう」

 「えぇ」

 

 私は少しふくれながら返事をした。

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