農業管理所にて・・・
誤字報告、ありがとうございます。
「ソフィアには、難しい話だっただろう?」
「いえ、パパ。私も貴族として生まれた者として、この話を聞けて良かったと思っております」
「ソフィア・・・」
私の名前を呼んだ父は、目に涙を溜めていた。
「パパ、どうしたの?」
「パパは嬉しいよ。ソフィアがこんなにも責任感を持っているなんて・・・」
溜めていた涙がとうとう流れはじめた。
流れはじめた涙は止まる事がなく、むしろ勢いを増しているように見えた。
私は何と言えばいいのか分からず、ただ見ている事しか出来なかった。
馬車が目的地に着くまで、父の涙が止まる事は無かった。
「旦那様、到着いたしました」
馬車の外から使用人が目的地に着いた事を教えてくれた。
「あぁ分かった」
短い返事をした父は、持っていたハンカチで涙を拭き馬車から降りた。
私も父に続いて馬車から降りようとした時、先に降りていた父がエスコートしてくれた。
エスコートしてくれた父は、いつもと同じ優しい顔をしていた。
そして、涙を流していない父を見て私はホッとした。
馬車を降りた私は、着いた場所を確認する。
目の前には、立派な建物が建っていた。
「パパ、この建物は?」
「あぁ、この建物は農業区画を管理している所だよ。ドルトムン領内の農業の情報は、すべてここに集まる事になっているんだよソフィア」
「なるほど・・・この建物はドルトムン家が管理してるんですか?」
「勿論だよ」
なるほど、だからここに来たのか。
私と父との会話が終わった後、建物から勢いよく人が出てきた。
「お出迎え出来ず、申し訳ございませんドルトムン様」
出てくるや否や、頭を深く下げ謝罪をしてきた。
「気にする。それに仕事中に来たのは私だ、そういった気遣いは無用だ」
「ありがとうございます、ドルトムン様」
「早速で悪いが、状況を教えてくれ」
「はい、かしこまりました。では、ドルトムン様ご案内いたします」
そう言って父は建物から出てきた人に案内されるかたちで、建物の中に入っていった。
私も父の後を追うように、中に入った。
私達は、応接室に案内された。
「ドルトムン様、少しここでお持ちください。今、資料をお持ちしますので」
「分かった」
私は案内してくれた人が部屋から出るのを確認し、父に質問をした。
「パパ、今の方は?」
「彼はここの農業管理所の所長を務めている者で、名前はコズミという。非常に優秀な奴だよ」
コンコン。
応接室の扉がノックされた。
「入りたまえ」
父の言葉を聞いた者が、部屋に入ってくる。
「失礼します」
入って来たのは女性で、手にはティーセットを持っていた。
「コズミからお茶を淹れるように言われ参りました」
「そうか、有難くいただくよ」
「では、淹れさせていただきます」
女性はお茶を淹れた後、部屋から退室した。
それと入れ違いに、コズミさんが部屋に入って来た。
コズミさんは大量の資料を机に置き、父に資料を渡した。
父とコズミさんは資料について色々と話し合っていて、私が入る隙間がない。
しかも二人が話している内容が断片的にしか聞こえない為、少しでもいいから話を理解しようとしていた私は、早々に諦めた。
「ところで、ドルトムン様。先ほどから気になっていたのですが・・・そちらの方は?」
コズミさんが私を見ながら尋ねてきた。
「すまない、すまない。紹介がまだだったな。この子は私の娘で名前はソフィアだ。今日、ここに連れてきたのこの子が領の運営に興味があるらしくてね。可愛い子だろ?」
「おぉ、この子がいつもドルトムン様が話されていた方だったのですね。自慢したくなる理由が分かりますね、とても可愛らしい子ですね」
「流石はコズミだ、いい目を持っているな」
「お褒めにいただきありがとうございます」
何が可笑しかったのか、二人は笑い合っていた。
「申し訳ございません、ソフィア様。恐れながら私はここの所長を務めさせていただいております、コズミ・アーリーと申します。ソフィア様の事はドルトムン様から聞いておりましたが、お話以上に可愛らしい方だ」
「いえ、そんな事はないですよ」
「どうだ、可愛いだろ」と言って、また父とコズミさんがにこやかに談笑し始めた。
『不味い、また会話に入りづらくなった』、私はいつまで二人の談笑を聞けばいいのだろう。
あまり良くない事だとは思うけど、私は机の上に置いてある資料を一枚手に取り見る事にした。
資料に書いてあったのは、簡単に書かれた年間の生産数とドルトムン領での必要需要量だった。
『何この資料、計算が間違っている』、私がパッと見ただけで分かる計算ミスにコズミさんは気付かなかったのかな?それとも資料が多すぎてそこまで手が回らなかったとか・・・。
失礼だと思ったが私は、二人の会話に割り込む事にした。
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