夢、届けます!?
こんな絵本を描いてみたいなと思ってつくった物語。過去作品です。
わたし、夢工房のミルです。
夢工房とはその名の通り、夢を創り出している所です。わたしはここで見習いをしています。
わたしたちがお仕事を始めるのはみなさんが寝静まった頃なので、みなさんにお会いする事はまずありません。
いつもお師匠様はせっせと夢を創り出しては、みなさんの頭の中へと届に行きます。わたしは日々勉強している訳なのですが、一人前になるまではまだまだかかりそうです。
でもでもっ!!
そんなわたしも、今回は修業の一環として自分が創り出した夢を誰かに提供して良い事になったんですっ!!嬉しさのあまり、昨日からテンション上がりまくりです↑↑
そして今、どなたにしようかと屋根の上から辺りを見渡しているのです。
ホントはお昼に動きまわっちゃダメなんですよ。わたしたちは普通の人とはちょっと違う人種なので見られては困るのですが、じっとなんてしていられません!
あ、この事はお師匠様には内緒ですよ?
…おやおや~?
公園のブランコに一人ぼっちの女の子を発見、です!
あの子は、この近所に住んでいるるみちゃんではありませんか。るみちゃんは4歳になる可愛らしい女の子です。お師匠様が夢を届けに行く時について行った事があるので、わたしも知っています。
ママの事が大好きで、ママの夢を見ている時の笑顔が最高に素敵なんです♪
でも、今わたしの目に映るるみちゃんは何だかとっても悲しい顔をしています。気になりますね。…ちょっとのぞいてみる事にしましょう。
あ、わたしたち“夢職人”(わたしはまだ見習いですが。)は、みなさんの夢を創り出す際、参考としてみなさんの心や頭の中をのぞかせて頂く事があるんです。そういうちょっと変わった能力を持っているんですよ。
目を閉じてるみちゃんの方に気を集中させます。そうすると、わたしはるみちゃんの方に引き寄せられ、るみちゃんの頭の中に入れる、という訳です♪
わたしたちの外見は、みなさんの世界でいう“小人”のようなものです。でも、こうやって割と自由に行き来ができるので、実体はあってないようなものなんですが。
さて、るみちゃんですが…
やっぱり、とても悲しんでいるようです。
『けんかしちゃった…』
『ママに“きらい”っていちゃった。』
『ほんとうはだいすきなのに…』
『ごめんねっていっても、ママがゆるしてくれなかったらどうしよう…』
『どうやっていえばいいのかなぁ…?』
るみちゃんの悲しみや不安がわたしにシンクロして、わたしまで悲しくなってきました~↓↓
るみちゃん、大丈夫!!どんな事があっても、ママはるみちゃんの事が大切で大好きなんだよ。そう伝えてあげたいのですが…
わたしたちはみなさんと接触しないようにしている訳ですので、るみちゃんの前に現れる事も勿論できません。困りました。…っと??
るみちゃんはお家に帰りにくいようで、今度は滑り台の下にあるトンネル(でしょうか?)の中に入ってしまいました。考え疲れたのかウトウトしています。
!!!!
そうだ!!るみちゃんにしましょう!わたしの創った夢を提供する初めての相手は、るみちゃんに決まりですっ!
そうと決まれば工房に戻って大急ぎで創らなくてはです!!るみちゃん、もうしばらく眠っていてくださいね。
工房に戻ったわたしは、これからるみちゃんに見せる夢を創る訳ですが、さて、どんなものがいいでしょうか?
るみちゃんが、ママとただ仲良く遊んでいるだけの夢ではダメな気がします。現実世界ではケンカをしてしまい、仲直りできないままお家をとびだしてしまったようですし…
るみちゃんは、悩んでいました。本当はママが大好きなのに、嫌いだなんて言ってしまった事。ごめんねと謝った時にママが許してくれるかという事。
るみちゃんはママに、何をどうのように伝えれば自分の思いが伝わるのかを一生懸命に考えていました。
わたしはさっき、“そのままでいいんだよ。自分の思ってる事、そのまま言葉にすればいいんだよ”と伝えてあげたかったんです。でも、それが叶いませんでした。
…なるほど♪ひらめきました!るみちゃんの夢の中に、そういうメッセージを含ませるのが良さそうです。そうしたら、わたしの伝えたかった事が伝わるし、るみちゃんがママと仲直りをするきっかけになるかもしれません。
【仲直り大作戦】です!
あたたかくて優しい気持ちになるような夢になりますように…そんな願いをこめながら、わたしは夢を創りました。
さてさて、それでは先程創った夢をるみちゃんの頭の中に運びましょう。るみちゃんは…よし、まだ眠っていますね。
さっきみたいに目を閉じて意識を集中させ、るみちゃんの頭の中に入ります。
みなさんやるみちゃんの頭の中には“ゆめの箱”というものがあって、そこに夢職人が夢を詰め込むんです。こういう、綿菓子みたいにふわふわしたものが“ゆめの塊”なんです。
ゆめの塊を詰め込むと、ゆめの箱はこんな風に勢いよく夢を吸い込むので…
わわっ!!!?きゃ~っ!!!!
ドスンッ!!
ぃ…ったぁ~い
吸い込まれないように急いでフタを閉じなければならないんですけど、なんと吸い込まれてしまいました。お師匠様に知られたら、こてんぱんに叱られるにちがいありません。とほほ…
ゆめの塊と一緒にゆめの箱に吸い込まれるという事はすなわち、自分が創った夢に入り込むという事でして…キケンといか、何というか…
「あなた、だぁれ?」
後ろから声をかけられ、ドキリとしました。振り向くと、るみちゃんが立っています。
そう、夢に入り込むという事は、眠って夢を見ている本人に会ってしまう確率が非常に高くなるという事なのです。(本人が出てくるような夢であれば、ですが。)
わたしが創った【仲直り大作戦】には、もちろんるみちゃんが登場する訳で、後にはるみちゃんのママも出てくるハズだったのです。
ハズ…というのは、もう多分出てこないのではないか、という事です。わたしがゆめの箱に吸い込まれてしまったせいで、夢そのものに歪みが生じてしまったんです。夢が壊れてしまった場合、夢職人本人が何とか収拾をつける以外に方法はありません。
最も、職人がこんな初歩的なミスを犯す事はないですが。
そしてそして、とても大切な事がひとつ!
それは、自分がその夢に関係している者だとバレてしまってはダメなんです!バレてしまったら、あの不思議な能力がなくなってしまい、職人としての道が絶たれてしまいます。それだけは絶対に避けたいところですっ!!
しかしながら、過去にこのような経験をした(当時見習い職人さんで、現在は立派な)職人さんは、“変な夢に出てきた変なおじさん”で最後までやり通したそうなので、そんな感じでいけばなんとかなるかもしれません。
色々な事をウダウダ考えていたら、また声をかけられました。
「ねぇ、あなたはだぁれ?」
「わ…わたしですか?」
「ほかにはだれもいないでしょ?あなた、もしかして…」
えぇ!?そんなのってありですか!?もう正体がバレてしまうのでしょうか!?
「…う~ちゃん?」
「…へ?」
「だって、うさぎのおみみみたいなぼうしかぶってるもん。」
「これは、わたしがお仕事の時にかぶる帽子で…」
「おしごと?」
わぁ!!自分でお仕事とか言っちゃいました!!余計な事は口走らないように気をつけなくては、です。
「う~ちゃん、うさぎなのにおしごとしてるの!?おうちにいるときはるぅちゃんとあそんでるのにぃ。あ、るぅちゃんとあそぶのがおしごと??」
るみちゃん=るぅちゃんは、どうやらわたしの事を、お家で飼っているウサギのう~ちゃんだと思っているようです。ちょっとホッとしました。
これはチャンスです。う~ちゃんになりきらせていただきましょう。
「お仕事っていうのはちょっと違ったね。るみちゃんと遊ぶのはとっても楽しいから好きだよ♪」
「るぅも、るぅもねっ、う~ちゃんとあそぶのすきだよ☆」
「ホント?嬉しいなぁ。」
「うん!!…う~ちゃん、いつもはるぅちゃんよりちいさいのに、きょうはおおきいね。しょうがっこうのおねぇちゃんみたい。」
「(ギクリ)…ぇ?うん。そだね。夢の中だからかな?」
(普段は小人サイズですが、確かに夢の中ではるみちゃんより大きいです。)
「そっかぁ!!ほんとうのう~ちゃんはおねぇちゃんなんだね。」
「そうなのかな?うん、そうかも。おねぇちゃんなんだよ。」
「おねぇ…ちゃん。」
るみちゃんはそう呟くと、突然うつむいてしまいました。
「るみちゃん?どうしたの?」
「う~ちゃんもさっき見てたでしょ?るぅちゃん、ママとけんかしちゃったの。」
「そう…だったね。」
「ママ、さいきんあかちゃんるぅくんとばっかりいっしょにいて、るぅちゃんとあそんでくれないの。だからね、ママにきらいっていっちゃった。」
あかちゃんるぅくんというのは、最近生まれたるみちゃんの弟、るかくんのことです。
「るみちゃんは、ホントにママの事嫌いになっちゃたの?」
「そんなわけないよ!だいすきだもん。」
「るかくんのことは?」
「…あかちゃんるぅくんもすきだよ。るぅちゃんはおねぇちゃんになったから、がまんしなくちゃいけないけど、でもほんとうは、るぅちゃんもママといっしょにいたいもん。」
「るみちゃんは、ママの事もるかくんの事も大好きなんだね。いつもるかくんの為に我慢してたんだね。るみちゃんは優しいおねぇちゃんだよ。」
「ほんとう?」
「うん!でも、我慢ばっかりしてず~っと黙ってたら疲れちゃうよね?」
「うん、しんどくなっちゃたの。」
「だからね、お姉ちゃんだってたまには甘えていいんだよ。自分の気持ちを言えばいいの。」
「どうやって??」
「簡単だよ♪るみちゃんの心の中の声を、そのまま言葉にすればいいんだよ。それで、ごめんねって言ったら必ずママに伝わるよ☆」
「…そう?」
「うん!だって、ママもるみちゃんの事が大好きなんだよ。見ていたら分かるもん。」
その言葉を聞いて、るみちゃんの目がキラキラ輝きだしました。
「そっかあっ!!ありがとう、う~ちゃん!!」
「いえ~♪」
と、その時、わたしとるみちゃんの間を何かがサッと通りました。わたしたちの目線の先には白くふわふわした何かがいます。
「あれっ!?う~ちゃんっ!!」
そう、それは紛れもなく、るみちゃんがお家で可愛がっているウサギのう~ちゃん(ホンモノ)だったのです。
るみちゃんがわたしとう~ちゃんを交互に見ながら不思議そうにしています。背中がひやりとしてきました。どうしましょう!?
「う~ちゃん…? おねぇちゃんは…」
るみちゃんは何かを言いかけて口をつぐみました。そして、う~ちゃんをそっと抱きあげ、わたしに向かってニッコリ笑いました。
「わたし、かえらなきゃ。ありがとう!おねぇちゃん☆」
瞬間、わたしはるみちゃんのゆめの箱からはじき出されました。るみちゃんが目覚めたみたいです。
目覚めたるみちゃんは、トンネルではなく公園のベンチで横になっていました。ママの膝枕で。
「ママっ!?」
るみちゃんはビックリして飛び起きます。
「お家に帰ってこないから、ママ心配で捜しに来たの。」
「あかちゃんるぅくんは?ひとりなの?」
るみちゃんは、るかくんが一人置いて来られたのではないかと不安そうにしています。
るみちゃんのママは、弟想いの優しいおねぇちゃんの頭を撫で、微笑みました。
「るかは今、パパといるから大丈夫よ。」
「よかったぁ。」
「ところで、るみは何か良い夢を見てたのかな?」
「ん?」
「とても良いお顔をしてたから。」
るみちゃんはハッとして、慌てて話しだしました。
「ママ!ごめんね!あのね、だいすき!えっとね、あかちゃんるぅくんもすきだよ!わたし、がまんしてたんだけど、ゆめでおねぇちゃん…えっと、う~ちゃんがね…んっと…」
「るみったら、そんなに慌てなくていいのよ。今はママとるみ2人だけの時間だから、ゆっくり聞かせてくれればいいの。」
るみちゃんの表情がより一層輝きます。
「ママ、あのね…」
見ていると何とも和む光景です。
仲直り大作戦は大成功(?)というところでしょうか。
…今はお師匠様の事は忘れておきましょう。
ー 封 ー
お読みいただき、ありがとうございました。