懐中時計
雲一つない真っ青な空から照らしていた太陽が、今にも沈みそうになっていた。
-あの昼間の出来事はなんだったのだろうか。
ありすは仕事が終わり、家に帰るため坂道を下っていた。
昼間の川岡さんの豹変、夏目先生から放たれた光、…、手にしている懐中時計をみながら思う。思い返せば思い返すほど気になって仕方がない。夏目先生の懐中時計を返そうにも、あの後は病院で姿をみかけることはなかった。
(先生の懐中時計そのまま持ち帰ってきちゃった。…明日返すのでも大丈夫だよね。)
ありすは夏目先生のファンでも追っかけでもなく、私物を下心があって持ち帰ってきたわけではないと自分に言い聞かせていた。
(こんなの皐月が知ったら友達関係終了しちゃう。)
「ありすってば、先生のこと興味ないって言っていたじゃん。うーらーぎーりーもーのー。」って突っかかってくるに違いない。ついでに懐中時計頂戴って言ってきそうだ。
そう思いながら、家の近くの小さな公園までやってきた。公園の中を通り抜ければアパートまで近道なのだ。てなわけで公園の中を通らせていただく。
太陽はすっかり沈み、代わりに半分欠けた月が公園を照らしていた。砂場には子供が日中に作ったのか、山が一つポツンと残っていた。
ありすは砂場を眺めていると、すぐ横のベンチに座っている黒髪ロングのおしとやかそうな女子高生が視界に入った。女子高生はうつむいていた。スクールバックが大きく開いており教科書が見えていた。教科書は一部破れており、なにやら落書きがされているようにも見えた。また、女子高生が履いているスニーカーが濡れているようだった。
(ドラマの中だけじゃないの、あんな古典的な。いじめのフルコース状態じゃない。それにあの子…。)
泣いているような気がする。大人として、看護師として何か声をかけるべきなのか…。だがありすの性格上、仕事ではなければそんなおせっかいは通常はかけない。だが何かしなければならないと思うのは、なぜだろうか。自分でもわからない。そう脳内で思っていた。
すると。女子高生の周りに黒いもやがかかる。いきなり気温が下がり、ありすの身体がぶるっと震えた。
(この感じ今日もあった…逃げたほうがいいやつだ。)
そう思うのに、金縛りにあったかのように身体が重く動かない。
「ぐううううううううううううう。わぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」
女子高生からは絶対発しないような、獣の叫びが公園中に響き渡る。そして女子高生の姿から想像もできないような変化が起きていた。
唇がまるで口裂け女のように広がり、眼も吊り上がり眼球は真っ赤になっていた。腰が曲がり四つん這いとなり、綺麗な黒髪は白くなっていた。そしてなんともいえないような腐敗臭がしていた。
(な、、、、、。ぐぅ、、、臭いが…気持ち悪い…。)
胃液が逆流してきている。
…シャラン
鈴の音が聞こえた。
上着のポケットから光がもれていた。
(夏目先生の懐中時計が光っている。)
そう思った瞬間、ありすの全身は光に包まれた。
ー空気が浄化された気がした。臭いが消え、光の空間の中では身体が動かすことができた。
懐中時計をポケットから取り出し、秒針をみると揺れていた。
(なにがどうなっているわけ。あの女の子…どうなっちゃうの。助けることはできないの。なんとかならないの。でも私はただの看護師でしかない。医療行為の補助、患者さんのケアくらいしかできない。この光のように空気を浄化するなんて、魔法みたいなことはできない。そもそも現実的にそんなことはできない。)
…現実的。。。
(まって、、、。この状況すでに現実的じゃなーーーい。)
脳内絶賛パニック中だ。でも、でもだ、この状況を打破しなければ
「なんでもいいから、誰か助けてーーーーーーーーーーーーーーっ。」
ありすは普段ださない、絶対にでないような大きな声で力いっぱい叫んだ。すがるように。
すると脳内に鈴の音とともに一つの言葉が浮かび上がった。
// アリス チェンジ //
ありすは言葉に出すと同時に、海中時計から7色の光があふれた。目を閉じる。
全身あたたかな光に包まれたとおもったら
(えーーーーー。某女児アニメの変身シーンのようになっている。てか体が勝手に動いているーーーー。てかてか何このメルヘンチックなメロディ、、。BGMついている。)
両手をたたくと白い手袋がはめられ、両足ジャンプすると、足先からキラキラし始はじめ、膝下までレモン色のブーツが履かされる。くるっと一回転すると、白いレースがたくさん付いた、膝上5センチのワンピースに着替えさせられ、胸・腰と手でポンポンたたくと、水色のエプロンがつく。
もう一回転して、後ろで両手を組んで決めポーズ
// アリス //
不思議の国のアリスのような姿
…25歳、社会人の魔法少女がここに登場したのだ。