第七話
翌日放課後。
僕こと青島和秀は今この妖鳴高校の本校舎屋上に向けて階段を登っていた。
目指している屋上までは目前、扉はもう見えている。
トコットコットコットコットコッ。
ガチャ。
いつものように屋上の扉を開けるとビューッと強い風が僕の顔を撫でた。
「やっぱりここに居ましたか。」
例によってこの人はいつもここにいる。
「和秀か。」
この見目麗しい美しき女性こそがこの妖鳴高校三年召喚士専攻クラスA組に所属する生徒会長様。
槐碧生徒会長である。
まぁこの人に関して説明するなら、胸襟秀麗、雄健蒼頸、何事にも物怖じしない凛々しさ、どんな苦難にも真正面から立ち向かう雄祐とした器の大きさ、そして何より持って生まれたカリスマ性、これこそが彼女が生徒会長たりえる所以である。
いわゆるみつるくんや姫奈さんのようなエリートとは一線を画してる頂点に立つ人物。
聡明で果敢で勇猛で絶対の漫画の主人公に出てくるようなタイプ。
流石の僕もこの人には下手に出るしかないし、頭なんか上がらない。
そしてこの人も僕とみつるくんと同じ憑依召喚士。
その闘う姿も美しく、圧倒的で今まで敗走を期したことなどただの一度もない。
「相変わらず高い所がお好きですね。」
僕は普段通り尊敬の意を込めながら言う。
「ここなら生徒の頑張っている姿がたくさん見られるからな。」
碧生徒会長は悠然と答える。
「して、どうだった?。」
校庭で部活に勤しむ生徒を見下ろしながら碧生徒会長は僕に質問してきた。
「予想通りですよ、彼は学校に来る気なんかさらさらないそうです。」
僕も普段通りに答える。
「フンッやはりか、そうでなくてはな。」
碧生徒会長はその報告に口角を上げ笑った。
まぁ長い付き合いだからだいたいこの人が何を企んでいるのかはおおよそ見当もつくが今回のコレに関してはまた随分と大胆なやり口だなぁ。
流石のみつるくんもおそらく感づいているだろう。
そして彼なら間違いなく不本意ながらも碧生徒会長の期待に応えるだろう。
そうしてまたこの生徒会長様はみつるくんのことにゾッコンになるんだろうな。
多分だけど、事件解決後にはみつるくんがスッパリと断るようなありがた迷惑なことを言うに決まってる。
おおよそ今後起こる事態を頭の中で想像していると碧生徒会長は言った。
「さて、行くか。」
そう言い碧生徒会長は出口の扉に向けて歩みだした。
「どちらへ?。」
僕はだいたい予想はついているが聞いてみる。
「なぁ~に、みつる二年生が私の誘いを断ったのだ、せめてアドバイスでもしに行っておくのさ。」
やっぱりか。
「和秀も次期生徒会長候補だ、一応ついてきなさい。」
変わらぬ口角を上げた表情のまま碧生徒会長は言う。
「わかりました。」
僕も危うくニヤけてしまいそうになったがなんとか抑えた。
碧生徒会長についていき校内を歩いていると僕のクラスの担任であるロリ教師で有名なくるみ先生に出くわした。
二つ名に恥じない見た目と声でくるみ先生は話かけてきた。
まぁこの人はこっちサイドだから別に何の問題もないけど。
「おやおや、お偉いさん二人でどこへ?。」
とぼけたようにくるみ先生は言う。
「ちょっと困った生徒がいるみたいなのでアドバイスをしにいくところですよ。」
碧生徒会長は答える。
「あぁ~なるほど、確かにそのくらいはしておかないと可哀そうな事になった時あなた達が割って入る義務はなくなりますからね。」
くるみ先生は可愛らしいロリ笑顔でえげつない返しをしてきた。
「そういうことです、ではお先に失礼します。」
碧生徒会長が言うとくるみ先生は。
「やりすぎないように見張りだけはしといてねぇ~。」
と手を振って見送ってくれた。
そのまま真っ直ぐ目的の部屋の前までやってきて碧生徒会長がノックをした。
「どうぞ~。」
と中から言葉が返ってきたので碧生徒会長は遠慮なく「失礼する」と言って中に入った。
二人で中に入るとイスに座って窓の方を見てイスの背をこちらに向けている人物が一人しか部屋の中にはいなかった。
その人物はイスをくるりと回転させこちらに向き直った。
「おやおや、生徒会の二人組さんじゃないですか。」
この偉そうにしている人が妖魔遊撃委員会委員長一年召喚士専攻クラスB組に所属する御法川慶委員長。
この人は一年生ながら校内でもトップクラスの召喚能力と適合力を持ち対異形の者退治のスペシャリストとして中学の頃からその名をはせていたまさに天才児でこの学校の中でも図抜けたセンスを持つ我が校が誇る戦闘力。
しかしながらこの委員会の委員長を務めることになり自分が闘う幕などほとんど失ってしまっている。
それでもこの人がこうして実質の委員長になっているのはやはりこの人もそれなりのカリスマを持っているという他ない。
そして件の契約者抜きを考案したのもこの彼であり、全校からの嫌われ者扱いを受けているのも事実。
しかしこの人は自身の腕によほど自信があるのかそんな他の生徒からの声など意にも介さず淡々と委員会を執行し続ける。
そして何よりこの人も僕らと同じ憑依召喚士。
この妖鳴高校は召喚士専攻クラスが学年ごとに2クラス、A組とB組があり憑依召喚士はこの学校には7人いる。
僕、みつるくん、碧生徒会長、慶委員長、妖魔遊撃委員会副委員長、そして今回の件に関わっていないあと二人。
たいていの召喚士専攻クラスを持つ学校には憑依召喚士は3人か多くて4人くらいなんだけどこの妖鳴高校はその倍はいる。
理由は簡単、学園長がプロの召喚士で他の学校よりも比較的カリキュラムがプロの召喚士に近いことをやったり接触できたり妖魔遊撃委員会などというものがあるため。
まぁこの学校の詳しいシステムなどは後にしておくとして目の前にいるスカした態度の委員長一年坊が見ているだけで腹立たしくなってきたので話に戻ろう。
「して?生徒会長様がわざわざこんなところに来たからには何か理由があるんでしょう?。」
相変わらずデカイ態度とムカつく顔をしながら喋る。
「いやぁ~何、私の愛する友人が貴公の委員会のお世話になると聞いたのでね。」
碧生徒会長は変わらずニヤけながら余裕の態度を崩さず返す。
僕もポーカーフェイスには自信があるから今もこうやって平然とした態度をしているが碧生徒会長のはそういうモノではない。
そもそも碧生徒会長にポーカーフェイスなどというものはない。
いつだって自信に満ち溢れながら自分と仲間と正義を信じてどんな相手であろうと絶対に折れない心を持って向かう。
故に僕のしているちゃちなポーカーフェイスなどとはそもそも話が違う。
この人は本気で笑っているのだ。
「あぁ~なんだっけ、みつる先輩とか言ったかな?なんでも闘いにおいてマジになったことがないとか生意気にも校内では僕より実力が上だとか噂されてる。」
慶委員長も余裕の態度を崩さない。
「そうそう、その貴公よりも実力が上な私の愛する友人であるみつる二年生についてなんだがな。」
「何も知らない一年の貴公には先輩として一応アドバイスくらいはしておいてやろうと思って来させてもらったんだよ。」
碧生徒会長が不気味に微笑ながらも慶委員長を見下ろし言う。
その碧生徒会長の姿に流石の慶委員長も顔を少し歪ませた。
「これはこれは、そんなくだらないことのためにわざわざご足労かけてしまって僕も勉強不足だなぁ。」
慶委員長は顔をゆがませながらも精いっぱいの皮肉を言い碧生徒会長に対抗した。
「ああ、そんな勉強熱心な貴公に私からとっておきのアドバイスだ。」
もはや見下していると言っても過言ではないような態度と表情、口ぶりで碧生徒会長は慶委員長を指さした。
瞬間凍てつくような雰囲気を放ち斬りつけるような鋭い口調で真顔というよりも絶望を押し付けるような表情になった碧生徒会長は言った。
「私の愛するあの男を絶対に『本気』で怒らせないほうがいい。」
そう碧生徒会長は言うと完全に固まってしまった慶委員長を一瞥して。
「まぁ今日はそれを伝えに来ただけだ、せいぜい仲良く私の愛するみつる二年生に遊んでもらうといい。」
そう言うと碧生徒会長はそそくさと足を動かし部屋を出ようとしたので僕も素直についていった。
ま、妥当なアドバイスだな。
ああなってしまったみつるくんを相手にするとか自殺行為だし。
僕と碧生徒会長はそのあと生徒会室でお茶をしたあと一緒に下校した。
碧生徒会長が出て行った後の妖魔遊撃委員会の部屋
「プルルルル、プルルルル。」
「もしもし辻ですが。」
「僕だよ。」
「委員長?どうされました?。」
「今どこにいる?。」
「今ターゲットの家の前で張り込んでますが?。」
「そうか。」
「どうかされました?。」
「いいか、お前ら双子で絶対になにがなんでも鬼のガキを攫ってこい。」
「わかりました。」
「プツッ。」
「この僕に向かって怒らせるなだと?あのアマ舐めたこと言いやがって、マジでムカついたぜ。」
「ぜってぇーサシでぶっ殺す!。」
一方みつる家
「あのー・・・ヒメちゃん?今日は随分とご立腹のようだけど・・・?。」
牡丹はとぼけて言ってみる。
「・・・。」
「ま、まぁとにかく上がりなよ。」
俺は額に汗をかきながらヒメを玄関からリビングに上げた。
まさかここまでヒメが怒るとは思わなかった。
今日は久々にガチ説教コースかなぁ・・・。
ヒメをリビングに上げお茶を出し俺もソファに座り怒られる覚悟を決めた。
牡丹もヤバイと察しあわあわしてる。
「・・・。」
「・・・。」
なんとか言い訳しないと・・・。
「え、えーとヒメ!足のほうはもうすっかり治ったのか?。」
とりあえず話題を逸らしてみるか。
「・・・。」
「そ、そういえばヒメちゃん!おいしいお菓子あるんだけど食べる!?。」
牡丹はこれ以上ないくらい狼狽している。
「・・・。」
「・・・。」
どうする、完全に怒り心頭で聞き入れてもらえない。
「・・ざ。」
「え?。」
俺と牡丹は同時に聞きなおす。
「二人ともそこに正座!!!。」