第六話
「ああ、先日のゴブリン騒動で君の契約した鬼の女の子、百合ちゃんていうのかな?がとてつもない力を持った妖怪であることも学校中で話題になってね。」
「そこに妖魔遊撃委員会が目をつけたんだ。」
カズは飄々とした様子で語る。
「あの委員会が!?。」
一方俺は驚いて声を荒げてしまった。
「おそらくその力を知った委員会は力づくでも君から百合ちゃんを奪おうとするだろう。」
ここで説明しておくと俺やヒメやカズが通っている高校は召喚士専攻クラスがあるということ以外普通の高校である。
しかし召喚士を教育する環境が整っているということは当然ながらその教育の一環として妖や妖怪UMAなどの脅威に対抗できるための組織を校内で立ち上げるというのも当然の話で。
そこで校内では様々な委員会があるのだがその中に妖や妖怪UMAなどの脅威を積極的に取り締まる委員会を学校側と召喚士協会が設置したということである。
その委員会に所属する召喚士達は召喚士協会から選出された選りすぐりのエリート達で一人一人が強力な異形の者達と契約を結んでいて退治経験も多く優秀な人材で構成されている。
実際俺も在学中はどこの委員会や部活にも入る気はなかったので召喚士協会から妖魔遊撃委員会に入らないかと声をかけられえている。
まぁそれだけならなんの問題もない話でむしろ悪い異形の者達を積極的に退治してくれるというのだから一般市民からしたらありがたい話なのである。
問題はその妖魔遊撃委員会は成功のためなら手段を択ばないという点にある。
委員会自体のバックに召喚士協会がいるということもあって多少なりともの行き過ぎた退治やその際に生じた周りへの被害などには全く目を合わせない。
そしてなにより彼らのやり口の一つの中に他人の契約者を委員会強化のためと大義名分をうって無理やり奪うという召喚士からしたら身も蓋もないことをやってくることが稀にある。
もちろんその背景には召喚士協会がいるため拒否権などは認められない。
更にはその契約者の奪い方が倫理的に疑われるようなやり方なのである。
やり方は簡単、まず対象の召喚士を連れてきて目的の異形の者を召喚させ目の前でその契約は破棄させる。
もちろん抵抗する召喚士もいる。
そういった召喚士は昏睡状態にさせ異形の者の力を使って催眠術をかけ無理やり契約を破棄させる。
後から気が付いた召喚士は自分の大切な契約者を召喚できないことに気づき泣き寝入りというわけだ。
あとは抵抗や本位ではない契約を拒否する異形の者を監禁し徹底的に痛めつけ契約するという気持ちにさせて無理やり契約をさせるだけ。
この国、日本じゃ人を守る法律はあっても異形の者までをかばう法律はない。
それをいいことにこの組織はやりたい放題やれているというわけである。
故にこの委員会は召喚士じゃない普通の生徒にまでも嫌われている。
全くもって迷惑極まりない、不愉快極まりない委員会なのである。
「お前のコネであの生徒会長に言ってなんとかしてもらうことはできないのか?。」
「もちろん言ってみたよ。」
「けど無しのつぶて、みつるくんのことをひどく気に入ってる生徒会長様は『この程度の困難は自分で乗り越えてもらわなければ私の惚れた男だとは思わない』だってさ。」
カズは肩をすくめながら言う。
「生徒会長様は相変わらずだな。」
俺はやれやれと肩を落とす。
「ああ、相変わらずみつるくんにご執心のようだよ。」
「ま、あの生徒会長様のことだ、みつるくんに関する案件で動かないってことは何か企んでる証拠なのは言うまでもないか。」
「だろうな。」
「大丈夫だよみつる、私がそんなことさせないから!。」
ここまで聞くに徹していた牡丹が俺の手を取り口を開いた。
「ああ、お前には少し頑張ってもらうことになりそうだ。」
そう言いながら俺はその手を強く握り返す。
「んで?どう?学校に来て麗しの姫奈さんの案件の弁解と奴らが動く前に先手を打って釘を刺してもらえる気にはなったかな?。」
カズは相変わらず余裕な態度を崩さず聞いてきた。
「ふむ、いや、いかない。」
俺はキッパリと断った。
「そういうと思ったよ。」
カズは不気味にニヤけながら返してきた。
だいたいこうやってカズがニヤけている時は俺に何かを期待している時である。
もしくは何か企んでいることがうまく運んだ時。
そもそも基本的にカズはバカだ。
勉強はしないし運動も得意じゃない、むしろ苦手。
人からは嫌われることはあれ好かれることはないし何を考えているのか分からなくミステリアスな奴でそのくせ周囲にはベタベタと歩み寄っていく。
態度も偉そうだし発言もキザ。
まるでヒメを逆さにして鏡に映したような奴。
だがそんなカズと何故俺とヒメは打ち解けているかと言われれば答えは簡単、お互い敵に回したくないからだ。
さっきも言ったがこいつはバカだ。
しかしバカだからといって頭が回らないワケじゃない。
むしろ逆こいつは敵に回したらとんでもなく厄介な上にどんな状況でも絶対に勝てるという保証がついてこない。
それくらいこいつは策士でとんでもないキレものなのだ。
頭を使わせればこいつを上回るヤツはいないし頭脳に自信のある俺でもこいつとだけは駆け引きしたくない。
実際異形な者との闘い方もそうだ。
相手どころか俺やヒメまでも考えられないような手を打ってきて、絶対的ピンチでもその上を行く絶対差で余裕を崩さず勝利を収める。
俺がスピードやパワーならこいつは俺の真逆、遅さや非力差で勝負を決めるトラッパー絶対的な勝負師。
だから俺とヒメはこいつと親しくしている。
生徒会長様もこいつのそういうところを見込んでこいつを副生徒会長なんて立場に立たせている。
右腕を務めさせれば文字通り右に出る者はいないからだ。
ま、カズのことに関してはこの辺にしといて話の続きだが。
「だいたいヒメの件で学校がそんな状態になっているなら俺が今まで頑張ってヒメに隠しながら動いてたことがまるで無駄になってる。」
「近いうちにヒメが怒って俺の家にやってくるだろう。」
「それにこれは俺個人の問題でもあるしな、あえて学校行って釘刺すとかすると返ってお前やヒメに迷惑をかけるだろう。」
「それに自分に降りかかった火の粉くらい逆にこっちが燃やしつくしてやるさ、文字通りな。」
「迷惑だなんて、やだなぁみつるくん僕らはいつもそうやってお互いに迷惑をかけあいながら、助け合いながらやってきたじゃないか。」
変わらずカズはニヤけている。
「ハッ迷惑をかけた覚えはあってもお前らに迷惑をかけられた覚えなんかねぇよ。」
俺も負けず劣らずニヤけながら返した。
牡丹はそんなみつるとカズのやりとりをこの子達は変わらないなぁーなどと思いながら微笑んでいた。
「オッケーみつるくんが学校に来る気がないのはわかった。」
「納得していただけて何より。」
「まぁそれはそれでいいとして、我が麗しの姫奈さんから聞いたんだが・・・。」
「なんだ?。」
あー・・・嫌な予感がする。
「二日間共に同じ屋根の下で寝泊まりをしたというのは本当なのかい!?!?。」
「なんだよお前まで他の奴らと同じかよ。」
「僕を外の下卑たやつらと一緒にしないでくれ!僕は我が麗しの姫奈さんのことを現代が生み出した芸術だと思っている!。」
「だから僕が例えば姫奈さんのことを見つめていたとしてそれは美しい絵画を見ているのとなんら変わらない!。」
「あーはいはいそうですかぁー。」
俺はいつも通り棒読みで返す。
流石の牡丹もカズのこの発言には身の毛もよだつ怪談より恐ろしいという顔をしている。
「その言い草、本当のことなんだね・・・。」
カズは俯きながら言う。
「そうだよ。」
俺はどーででもいいーと言った顔で答える。
「なんて・・・なんて・・・。」
今度は震えながら言葉を発しようとしている。
「なんて羨ましい!!!!!!。」
「みつるくんはそんな桃源郷のような環境で生活していて何か感じるものはなかったのかい!?!?。」
やっぱこいつはこうなんだよなぁ・・・。
「あいにく俺はあの状況を桃源郷と呼べるような甘い思考を持ち合わせていねーよ。」
俺はサッパリと切り返す。
「な・・・な・・・なんだってえええぇぇぇ!?!?。」
狂ったようにカズは発言を続ける。
「君はやはり間違えている!!その思考が罪だ!!!やはりみつるくんは皆の前に晒して吊るそう!!!。」
「やだよ、外に出ることすら億劫な俺がそんな煩わしい真似させるか。」
俺と牡丹は呆れた目でカズを見る。
相変わらずカズは喚いた時の牡丹より狂ったようにうるさい。
そんなやりとりをしているとあまりのうるささに目を覚ましてしまったらしく百合が眠そうな目をこすりながら扉をすり抜けて入ってきた。
「んー。」と言いながら百合は寝ぼけた頭で状況を飲み込もうとしている。
ここで俺はしまった!!!と思いすぐに「牡丹!!!」と声を上げた。
すると牡丹はその声に物凄い速さで反応し、キランと怪しい目つきと手つきで百合に飛びかかるカズに「天狗キーック!!!」と言いながらカズの横っ腹に跳び蹴りを入れた。
カズは「グホォッ」と言いながら吹っ飛ばされた。
「さ、流石牡丹ちゃん、なんという速度だ・・・。」
カズはテレビの悪役のようなことを言いながらヨロヨロと立ち上がった。
「天狗は疾風のように舞い迅雷のごとく討つからねっ!。」
ムフーッ!と牡丹は誇らしげにしている。
「さて、カズ、今日一発目の痛いヤツももらったことだしそろそろ帰ったらどうだ?。」
俺は呆れ顔でカズに言う。
「まぁそうだね、こんな夜更けに来てしまって悪かった。」
カズはいつも通り何事もなかったかのように飄々とした態度に戻った。
「いや、こちらこそ貴重な情報をわざわざありがとう。」
「どうせ明日学校に行ったらまた生徒会長様に余計な事をと怒られるんだろう?。」
俺はいつものことだろうと聞いてみる。
「んーどうかなぁ、多分だけど今回に関して生徒会長様は僕らがどう動こうと何も言ってこないと思うよ?。」
珍しくカズが俺の意見と反対の事を言ってきた。
「ほう、その心は?。」
流石に疑問に思い聞いてみる。
「それは自分の眼で確かめられると思うから時間の問題だよ。」
うまくはぐらかされたな、いやコイツのこういうのは的を射ていることが多い。
まぁどういうつもりなのかわからんが俺は俺のやることをやるだけだな。
「そうか、わかった。」
ここは素直に頷いておこう。
「流石は僕の親友みつるくん物分かりが速くて助かる。」
相変わらず見透かしたようなことを言う。
「ま、それはそれとして帰る前に百合ちゃんの頭を撫でるくらいはさせてもらえるかな?。」
変わらぬ口調で俺が許したことを言われたので仕方がない。
「いいよ。」
俺はその言葉を飲み込んだ。
「あー。」
百合はヨダレを垂らしながら頭をカクンカクンさせているが見知らぬ人に頭を撫でられ不思議そうな顔をした。
「君が百合ちゃんかぁーよしよし。」
カズは変わらぬ笑顔で百合の頭を撫でる。
「なるほどねぇ・・・これが紅王の・・・どうりで強いはずだ・・・。」
カズは一瞬真顔になり俺に聞こえるか聞こえないかの声でボソリとつぶやいた。
俺は疑問に思ったがあえて何も言わなかった。
カズの真顔に触れて良かった思い出がないからだ。
だがしかし俺はこの時点で聞いておくべきだったのだ。
後に見ることになる地獄絵図を未然に防ぐことがもしかしたら出来たかもしれないから。
いや、多分出来なかっただろう。
それでも俺は百合の契約者として、何より育て親として聞くべきだったのだ。
「僕はカズだよ、これから会うこともあるだろうからよろしくね。」
カズはいつも通りの掴みどころのない笑顔に戻り自分を指さし自己紹介をした。
「あー・・・かず?。」
百合は確かめるように聞く。
「そうそうカズ、よくできたね。」
カズははにかみ百合の頭を撫で終えると立ち上がった。
「んじゃ、みつるくんまたなんかあったら電話でもしてよ。」
「わかった。」
それから俺はカズを玄関まで見送りお互い「バイバイ」と言ってカズが出て行った後玄関で立ちながら寝てる百合を再びベッドに入れた。
それから俺はリビングを片付け電気を消して自室に戻った。
体重をイスの背もたれに乗せ天井を仰ぎ思わず考えてしまった。
妖魔遊撃委員会か・・・。
その様子を百合と一緒にベッドに入っていた牡丹が見つめ牡丹は決意した。
これまでに無い大きな事が起こるかもしれない、私がみつるの支えになるんだ、と。
ひとしきり考えまぁ考えても仕方ないと思った俺は我に返りとりあえず今日の事を日記に書こうと日記帳を開き今日の事を事細かに記入した。