第五話
俺は完全に挑発し、向こう側から攻撃させて正当防衛という形で攻撃するつもりでいた。
というか毎回そうしている。
自分から攻めてうっかり相手に重傷を負わせたら寝覚めが悪いからである。
アホ三人組はかなりビビっているがここまで来たら引き下がれないと判断したのか取り巻きの二人も召喚をした。
出てきたのは普通のゴーレム一体と大蛇の妖怪一匹。
「ギャッハッハ!これならお前でも流石に厳しいだろう!」
三人組は流石に三対一なら勝てるだろうとタカをくくり高笑いをしている。
俺はあからさまな死亡フラグだなぁと思いながら適当に聞き流す。
「おーっと卑怯なんて言うなよ~!誰も一対一でやるなんて書いても言ってもいないんだからなぁ~!。」
願ってもいない言葉を飛ばしてきたので俺も言葉を返した。
「あーそりゃありがたい申し出だね。」
「一人ずつじゃなくまとめて三体やれるんだから時間短縮になってちょうどいいよ。」
「ハッ!そんな余裕も今だけだぜ!」
真ん中のヤツがそう言うと三体の異形の者が一斉に襲いかかってきた。
ゴーレムとビッグフットが左右から挟み撃ちで拳を振り上げ、大蛇は真っ直ぐ俺に向かって近づいてきた。
俺はゴーレムとビッグフットの拳がヒットする直前で後ろに跳び回避した。
しかし大蛇の妖怪がその長く太い体を素早く俺に巻き付け俺の身動きを取れなくした。
大蛇は俺を締め上げるが同時に俺の体から出る炎の熱さに耐えているようだった。
するとゴーレムとビッグフットが再び拳を振り上げ近づいてきた。
幸い両腕の自由は取れたのでビッグフットとゴーレムの振り下ろされるその拳を片手ずつで受け止めその手を絶対逃がさないようにグッと力を入れ三体とも俺の体に触れている状態にさせた。
ビッグフットとゴーレムはなんとか自分の腕を引きはがそうとしているが絶対に逃がさない。
真ん中のリーダーぽいやつは「何をやってる!さっさと倒せ!」などと言っている。
俺はそのままの状態で俺の意識の中にいる百合に「火を強く」と言った。
瞬間俺の体からは今までとは比べものにならないほど大きな炎が燃え上がり始めゴオオオオッと音を立てながら燃え立っている。
俺に巻き付いている大蛇は「シャアアー!」と声を上げあまりの熱さに身体のあちこちを火傷しすぐに俺から離れた。
ゴーレムとビッグフットは同じように自身の手に物凄い熱を感じて苦しみながら自分の腕を引っ張っているが俺が絶対離すまいと力を入れているため熱さから逃れることができないでいた。
その様子を見ていた真ん中のリーダーっぽいやつはこのままでは自身の契約した異形の者が焼き殺されると判断したのか許しを乞うてきた。
「やめてくれ!それ以上はやめてくれ!俺達が悪かった!二度とこんなことしないからもう離してやってくれ!。」
「あ?人をこんなとこまで呼び出しておいて三人がかりで襲い掛かってきといて何ほざいてんだ?。」
俺は更に「火を強く」と百合に言い俺の体からはビルの三階までは届きそうなくらいのとんでもない量の炎が立ち上る。
ゴーレムとビッグフットはあまりの熱に更に苦しみもがき肩まで到達している炎を消そうと必死にもう片方の手で払っている。
「やめてくれ!それ以上やったら存在自体消えちまう!本当に悪かった!この通りだ!許してくれ!。」
三人はかなり焦りながら土下座をして謝ってきた。
「なんで謝るんだお前ら?お前らは俺をこんな風に痛めつけようとして呼び出したんだろう?だから俺は持てうる力でそれを阻止している。」
「痛めつけられそうになったから不可抗力でそれを妨害しているんだ。」
「ほら、お前たちが謝る必要なんかないだろう?。」
俺がそう言うと三人組はダメだ、話が通じない、許してもらえない、契約した異形の者を消されると思い呆然として一瞬放心状態になったが今度は涙と鼻水でグチャグチャになった顔を再び土下座で下げ額を地面にこすりつけながら謝ってきた。
「本当に悪かった!そいつらは俺達の大切な相棒なんだ!なんでもいう事聞くからその手を放してくれ!頼む!。」
「・・・。」
俺は百合に「火を弱く」と伝えその手を放した。
三人組は駆け足で自分の相棒達に駆け寄り火傷した部分を見てそこまでひどく火傷しているわけでもないことを確認し召喚陣の紙を破り結晶に姿を変えさせ空に解き放った。
俺はその様子を見てから「大切な相棒ならこんなしょうもないことやらせんじゃねー、それから今の事は誰にも言うなよ。」と言い残し憑依を解いてその場を後にした。
帰りの電車の中で俺は全く、やれやれと思いながらあの三人組が「大切な相棒なんだ!」と言っていたことを思い出していた。
そんなことを考えていると牡丹が話しかけてきた。
「相変わらず甘いねぇみつるは!。」
「百みたいなこと言うな。」
「私だったら両手両足切り落としちゃうよ!。」
「契約者を失うってのは召喚士からしたらメチャクチャ辛いんだ。」
「家族を失うのと同義なんだよ。」
「まぁそれは私も同じだけどさ、みつるがいなくなったらって思うと私自分が自分でいられるか自身ないもん。」
「お、おうそうか。」
「何照れてんのよ。」
「別に照れてねーよ!つかお前こそそんな恥ずかしいセリフよく言えるな。」
「恥ずかしくなんかないよ。」
「私はみつるのこと好きだから。」
「リアクションに困るからそういうギャグは無しにしてくれ。」
「はぁ~・・・みつるってばホントそういうとこ残念よね~。」
「残念言うな、つーかそんな憐みの眼で見るな。」
そんなやりとりをしている俺の隣の百合は眠気が襲ってきたのかウトウトし始め体重を完全に俺に預けていた。
「子供はとっくに寝てる時間だもんね~。」
牡丹が穏やかな表情で言う。
「一仕事してもらった後だ、静かにしていよう。」
俺も言葉を返す。
「24時間ニートしてる誰かとは大違いね。」
「やかましい。」
電車を降りてからは百合をおぶっていつも通りノロノロと家路に着いていた。
家の門が見え始めると牡丹が「ゲッ!」と言って俺の後ろに隠れた。
暗がりの中よく見てみるとそこには俺のよく知る人物が門にもたれかかっていた。
全くやれやれ最近は待ち伏せされることが多いな、流行ってんのか?。
「こんな夜更けに人の家の前で何やってんだカズ。」
俺はその人物に近づきながら声をかけた。
「やぁやぁ我が愛しき親友みつるくん、その様子だとまたいつものかな?。」
こいつは青島和秀、自称俺の親友を名乗る数少ない俺の一応友達で俺と同じ憑依召喚士。
更に捕捉するなら俺の高校の副生徒会長で家は国内で有名な青島グループの一家の長男。
いわゆるいいとこのボンボンってやつだ。
「まぁな。」
「んで?用はなんだ?。」
「つれないことを言うなよみつるくん用が無きゃ来ちゃダメなのかい?。」
「お前は色んな意味で危ないからな。」
「危ないとは失敬な、僕は常に僕の道を行くだけさ。」
「その行く道に咲く花達がお前と接触するのが嫌だと言うんだよ。」
「綺麗な花を愛でることの何がいけないと言うのだい?。」
「実質こうやって牡丹が引っ込んでるじゃないか。」
「やれやれ、僕も嫌われたものだなぁそんな風に隠れることないじゃないか、さぁ牡丹ちゃんその麗しいお顔を見せておくれ。」
カズは不気味に笑いながら牡丹へ歩み寄る。
「いやあああぁぁぁーーー!!!。」
牡丹が絶叫に近い悲鳴で逃げ回る。
とまぁこんな風にこいつはとにかく女たらしなのである。
それが人であれ大人であれ子供であれ妖であれ妖怪であれUMAであれ可愛らしく綺麗な女性であれば見境などなく話しかけボディタッチをしようとする。
実質あの図太い牡丹がこんな有様だ。
「まぁ遊びはそこまでにしてカズ、お前がわざわざ來るなんて珍しい、実際なんか大事な用があるんだろう?。」
「ああ、その事なんだが先日学校で我が麗しの姫奈さんとバッタリ会ってしまってね。」
「でついつい話し込んでしまい聞いたんだがみつるくん新しい契約者を見つけたそうじゃないか。」
まずいなこいつに百合はあんまり見せたくなかったんだが。
「察するにその背負っている可愛らしい鬼の子なのかな?。」
「まぁそうだな。」
「うらやましいいいいいぃぃぃーーーー!!!!。」
「何故だ!?何故みつるくんの周りには身眼麗しい魅了的な子が集まるんだ!?!?。」
ほらな、やっぱり。
「知らねぇよ、百合が勝手にやってきたんだ。」
「まぁいい、とりあえずその可愛らしい鬼の子を触らせてくれ愛でさせてくれ舐めさせてくれ!!!!!!。」
「ダメに決まってんだろ、まだ子供だぞ。」
「それに今は一仕事してもらって疲れて寝てるんだ。」
「頭を撫でるだけなら起きてる時にさせてやる。」
「ちっ流石はみつるくん僕を言いくるめる説得力は健在のようだね。」
「昔牡丹がお前にひどい目に遭わされてるからな。」
「それよりカズお前のことだどうせ他にも用があって来たんだろう?。」
「まぁね、今日は伝えとかなきゃいけないことがあったからね。」
「こんなところで立ち話もなんだ、上がってけよ。」
「これはこれはみつるくん気遣いをありがとう、お言葉に甘えさせてもらうよ。」
そう言い俺達四人は家に上がりカズをリビングのソファに座らせた。
百合は二階でベッドに寝かせた。
お茶を出し俺も牡丹も座り話せる状態を作った。
「うん、今日もみつるくんの淹れてくれるお茶はおいしい。」
「んで?話ってのは?。」
「ああ、みつるくん唐突で迷惑な話かもしれないんだが学校に来てほしい。」
「本当に唐突だな。」
「なんかあったのか?。」
「いきなり拒否をしないとは、流石みつるくん僕がわざわざ来たという事実にただ事じゃないことは察してくれたか。」
「流石にそれくらいはな。」
「みつるくんが先日捜査されていたゴブリンを倒してくれたことはまぁ学校でも話題になったんだ。」
「話はそれで一件落着となればよかったんだがその際に姫奈さんをひどく巻き込んでしまったということが学校中に触れ回ってしまってね。」
なるほど、今日のあれはやはり氷山の一角だったか。
「僕が事態を治めようと動いたんだが姫奈さんがみつるくんの家で療養していたということまで情報が流出してしまって学校内はもう火が出そうな勢いなんだ。」
「なるほどね、そこでヒメと二人でしっかりヒメ支持派の前に出て弁解をしろと。」
「それもあるんだがそれだけじゃなくてね。」
「鬼の女の子のこともあるんだ。」
「百合に関して?。」