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第三話

ズンッズンッズンッ。

と徐々にゴブリンが近づいてきて俺の気持ちが完全に諦めかけそうになった時だった。


あの小さな鬼の女の子が俺と牡丹の前に現れ手を広げてゴブリンから守ろうとしてくれた。


後ろ姿からでもわかる。

鬼の女の子はガタガタと震えその眼には涙を浮かべ今にも逃げ出したいという思いを押し込め恐怖している。


それでも鬼の女の子は頑としてそこを譲ろうとはしなかった。


「あ?なんだいこのちびっこい鬼は。」

「邪魔をするってんならあんたも食ってやろうか!!!。」


ゴブリンは鬼の女の子に鋭い圧力をかけ脅している。


しかし鬼の女の子は「あー!あー!」と声を上げながら首を横に振る。


するとゴブリンはその鬼の女の子の反応が気に入らなかったらしく。


「そうかい!だったらあんたは後にしてやるから寝てな!。」

と言うとゴブリンは鬼の女の子をバキャッ!と殴り飛ばした。


その瞬間を目にした俺は完全にぶちギレ「てめえええぇぇぇーーー!!。」

と怒号を上げながらボロボロの体でなんとか立ち上がりゴブリンを睨みつけた。


「へぇ~よくその体で立ち上がれたじゃないか。」

「威勢だけはいいようだね、まずはあんたから食ってやるよ!。」

そう言うとゴブリンはその大きな左腕を伸ばしてきた。


「ツッキー!。」


いきなりヒメが公園の外から叫びだしヒメは自身の契約している二体目の異形の者。


ツッキーと名付けられたキツツキの妖怪である寺ツツキを召喚しゴブリンが俺に触れられないように邪魔をする指示を出した。


「なんだこいつ!五月蠅いんだよ!。」


ゴブリンはツッキーを振り払おうと左腕を振り回しているがツッキーはそれをうまく避けながら邪魔をしている。


その隙に俺は殴り飛ばされた鬼の女の子にヨロヨロと歩きながら近づいた。


鬼の女の子もこちらに気づき腕で体を引き寄せ這いずって俺に近づいてきた。


俺はしゃがみ鬼の女の子の様子を見た。


鬼の女の子は顔の左側をひどく腫らしている。


だが鬼の女の子は腫らした顔に反して「ヘヘッ」と笑顔を見せた。


俺が安堵したのと同時にゴブリンは振り回していた拳が偶然ツッキーにヒットしツッキーは生い茂る草むらに落ちていった。


ゴブリンはやりたいこと成したいことをとことん邪魔され完全に怒り狂っていた。


「気が変わった!やっぱ最初に見つけたそこの女の召喚士から食う!。」


ゴブリンはそう言うと先ほど強く握られたおかげで足を負傷して動けないヒメに再びターゲットを定めた。


「まずい!またヒメに!。」


俺が声を上げると服の袖を引っ張られる感覚がした。


見ると鬼の女の子があのクシャクシャの契約書を出して俺に笑いかけていた。


「え・・・えーやく・・・。」


と弱弱しく言葉を発して鬼の女の子は自分の親指を少し噛みその傷から流れる血で異形の者が名前を記入する欄に鬼達が使っているんであろう文字で名前を書いた。


俺は先ほどの鬼の女の子が勇気を出して俺たちの前に出てゴブリンに対して立ち塞がってくれた姿を思い出した。


その姿が幼い頃俺を守ろうとしてくれたヒメの姿と俺の脳内で一致した。


鬼の女の子に強く頷いて俺も親指を噛み流れる血で召喚士の名前を記入する欄に大きく『みつる』と乱雑に書いた。


すると契約書は鬼の女の子の手から離れフワッと浮かび上がりメラメラと燃え出し消えた。


俺はすぐに地面に指で憑依の陣を描きその上に手を置いた。


すると鬼の女の子は先ほどの笑いかけてくれた笑顔とは別の笑顔で涙を流し俺の手の上に手を重ねた。


憑依陣は俺が今まで見たことがないほどの強い光を放ち真っ赤に光り輝きながら鬼の女の子は吸い込まれるようにシューッと俺の中に入った。


瞬間俺の体からは烈火の如き炎がゴオオオオッ!!と音を立てながら立ち上り俺はその激しく燃える炎に包まれた。


その変化に驚きゴブリンとヒメは燃え上がる俺を目を丸くして見つめた。


俺の肌は見る見る赤く染まっていき骨格が変容して元々身長が170センチぐらいだった俺の背丈は身長約2メートル以上になり、体つきも筋肉が猛烈に発達し元の面影が分からなくなるほどに変化し、額からは鋭く大きい角が二本生え、衣服は腰に巻かれた絢爛豪華に飾られた虎の皮でできた厚い布が巻かれているだけになった。


「す・・・すごい・・・なんて妖力・・・これがあの小さな鬼の女の子の本来の力なの・・・?。」

ヒメはあまりのみつるの変化とみつるから放たれる凄まじい妖気に呆気に取られていた。


完全に妖化した俺は最初におかしなことに気づいた。


意識が俺のままだ。


というより厳密に言うと妖化した俺の意識は俺と鬼の女の子の半分半分の意識で成立し表面上に存在している。


そんなことを感じながら俺は完全に治った傷と自分の手に鋭く生えた爪や真っ赤に染まったゴツゴツとした手つきを眺めた。


しかしまぁ今はそんなことはどうでもいいかと思い。


身体から激しく燃え立つ炎を纏いながら立ち上がりギラリとゴブリンを睨んだ。


刀のように鋭く獄炎のように燃え上がる殺意を向けられゴブリンは慌てふためいた。


「じょ、冗談じゃないよ!あんなの相手にしてたら命がいくつあっても足らないよ!。」

ゴブリンはそう言い逃走するために高く飛び上がった。


「ここまで派手にやらかしておきながら逃亡なんて許すわけないだろう。」

と俺は言いゴブリンに向かってジャンプした。


身体能力もやはりとんでもなく強化されており俺は一瞬で跳んでいるゴブリンの足首を掴み地面に向かってたたき投げた。


「ガッハ!!!!。」

ゴブリンはドゴオッと音を立て激しく地面に身体を叩きつけられ公園内の地面はクレーターのようにポッカリと大きく凹んだ。


俺が着地するとゴブリンは口角から体液をこぼしながら「ヒィッ!」と悲鳴を上げ後ずさりしたが、もう後がないと悟ったのか立ち上がるとヤケクソになり「チクショーーー!!」と言いながら走って俺に接近し左拳を振り下ろしてきた。


俺はその拳をモロに食らったが蚊が止まったのか?と思うくらい痛くもなんともなかった。


「ふむ、鬼ってのはここまで強いものなのか。」


と俺は冷静に喋り「今度は俺の番だな。」


と言うとゴブリンは今までの威勢はどこへやらという感じで「すいませんでした!命だけは取らないでください!」と命乞いをし始めた。


「お前は今までそうやってお前に対して命乞いをしてきた者達を無情にも殺し食べたんだろう?。」

と俺が言うと「いやだあああぁぁぁ!!死にたくないいいぃぃぃ!!!。」と喚き始めたので俺は心を無にして「うるさい。」

と言いながら拳を握りしめその拳をゴブリンの腹部めがけ放った。


放った拳はあまりに強力で容易くゴブリンの腹に大きな穴を開けゴブリンの腹部にポッカリと空いた穴からはその身に纏っていた炎が貫通し拳を振りぬいた瞬間にボアッと大きく燃えゴブリンはそのまま仰向けに倒れた。


拳で空いたゴブリンの腹部周辺はチリチリとまだ炎が燃えていた。


ゴブリンはそのまま小さな粒の結晶の塊になりその結晶は粉々になって地面に落ち消えた。


事が終わると俺の体は元に戻り始め体からは鬼の女の子が出てきた。


鬼の女の子は俺に向き直るとその可愛らしい顔でニコッと笑い「あいあとー!。」

とお礼の言葉を言った。


俺も素直に「ありがとう」と言い鬼の女の子の頭を撫でた。

鬼の女の子は嬉しそうに撫でられていた。



その様子をずっと見ていたヒメは片足で立ち上がりケンケンでこちらに近づいてきた。


「すごかったよみつる!あんなのを一瞬で倒しちゃうなんて!。」

とヒメは喜び勇んでいた。


「凄いのは俺じゃなくてこの子だよ。」

と言うと鬼の女の子は俺の足に抱き着いてきた。

その顔は子供らしい無邪気な喜んだ顔で愛らしかった。


「あらあらだいぶなつかれた様ね~パパ~。」

とヒメはイタズラな顔でからかってきた。


「誰がパパだ!。」

と俺がツッコむと鬼の女の子は「パパ~」とヒメの真似をした。


ダメだこりゃ、と俺は諦め肩から力を抜きヒメと鬼の女の子はケラケラ笑っていた。


「そんなことより牡丹と百とツッキーだよ。」

と俺が言うとヒメは慌てだしたので俺がおんぶしてヒメを乗せ百の元まで近づいて降ろした。


ヒメが容態を見るとそこまで大きな怪我を負っているわけではないようで百はヒメに話しかけた。


「悪かったなぁヒメ、俺が力不足なばっかりに。」


「ううん、百は頑張ってくれたよ。」


ヒメがそう言うと百は力なく笑い今度は俺に話しかけてきた。


「坊主、今回の借りはいつか返すぜ。」


「借りとかいいよ、いつもお世話になってるし。」


「相変わらず甘い男だぜ。」

と百は言った。


「今はゆっくり休んで百。」

と言うとヒメは百を召喚するために描いたであろう召喚陣の紙を破り百は召喚前に戻り姿を小さな結晶体

の粒に変え空に散っていった。


同様にツッキーも発見し大した怪我はなかったがヒメは紙を破りツッキーも姿を結晶の粒に変え空に飛んで行った。


最後に牡丹のところに俺が行くと牡丹は「くかー」と再びいびきをかいて寝ておりやれやれと思いながら牡丹を起こすと。


「んあ?あれ、さっきのデブゴブリンは?」と寝ぼけた頭で聞いてきたので「もう倒したよ」と俺が答えると「どうやって?」と目をこすりながら聞いてきたので「この子の力だよ」と足に抱き着いている鬼の女の子の頭に手を乗せると「契約したの!?」と牡丹は驚きながら喜んでいた。


その後俺はさきほど地面に描いた憑依陣を足で消し、ノートに召喚陣を描いて鬼の女の子を正式に召喚した。


そんな後始末をしているとようやく警察と召喚士協会が駆け付けヒメがその対応をしてくれた。


召喚士協会の人は一瞬鬼の女の子を見つけた瞬間かなり驚いたような表情をしたが誤魔化すようにすぐに態度を直した。


怪しいと思ったが同時に面倒ごとっぽそうだなと俺は思い何も言わなかった。


それから俺達は詳しい話を警察と召喚士協会の人に話した。


どうやら警察と召喚士協会が言うには今回俺と鬼の女の子が倒したゴブリンはかなりの被害を出していたようでずっと捜査されていた凶悪な異形の者だったらしい。


しかしただのゴブリンがあそこまで凶暴化し人を襲って力を持っていたことに関してはやはり異常な事だったらしく今後詳しく捜査されるそうだ。


そして俺が最も納得のいかない事もこの時言われた。

なんと今回の異形の者退治の報酬は出せないと言うのだ。


召喚士達は悪い異形な者を倒すとそれに見合った働きをしたか召喚士協会が査定し報酬が国から支払われるのだが今回の件に関しては俺が公園をメチャクチャにしたこともあってその修繕費に俺の報酬は回されるそうだ。


クソッあのゴブリンめ、最期の最後にとんでもない置き土産をしていきやがった。


それから俺達はその場から解放され、足を痛めて尚且つ風邪を引いているヒメは治るまで俺の家で面倒を見ることになり今ようやく家路についているところである。


ヒメを背負いながら歩きあれやこれやと牡丹を交えて三人でおしゃべりをしながら歩いている間鬼の女の子は俺のジーパンを掴みトコトコとついてきた。


俺としては若干だがこれが父親の気持ちなのか?とか考えて自分の子供でも連れているような気分になった。


そんなこんなで家路についていると日が昇り始めようやくこの街に朝が訪れた。


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