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第二話

あれは俺が幼稚園に入ったばかりの頃だったか。


初めて自分が集団の中の一部になる。

ということに馴染めていなかった俺は友達を作ることができなかった。


仕方がないので異形な者達を生まれつき視ることができた俺は自由時間を日の当たる遊具から離れた日陰になっている場所で異形の者達とおしゃべりをしたり地面に木の棒で絵を描いたりして過ごしていた。


そんな日々を送っていると当然クラスで威張っているイジメっ子達から目をつけられ変人呼ばわりされ俺はイジメの対象になった。


この時俺は幼いながらも悟った。


社会というモノは普通でない物事に対しては排除という行動を取るのか、と。


そんな様子を見た幼稚園の先生はクラス全員に「みつる君には皆には視えない特別なモノが視えているんだよ」とフォローになっていないフォローをした。


おかげでクラスのイジメっ子達からは余計に珍妙なヤツという認識を取られイジメは悪化した。


両親は俺がイジメられているということには気づいていたが父は「俺の子だ、イジメなんかに屈したりしない」と言い母は「みっくんの眼はね、困っている人や傷ついている人たちを助けるためにあるんだよ」と言った。


おかげで実際俺はイジメなんかに屈したりはしなかった。


そんな感じで俺は最悪の幼稚園デビューを果たし、日々を送っていた。


当然のように毎日そんな目にあっていればもはや俺にとってはイジメられるということは日常の中では当たり前の出来事という認識になった。


俺に話しかけてくれる異形の者達は「仕返しとかすればいいじゃないか」と言っていたがそんなことをすれば事態が悪化することは目に見えて明らかだったので俺は抵抗も防御もせず毎日小石を投げられたり水をかけられたりしながらいつもの場所で一人おしゃべりや地面に絵を描いて自由時間を過ごしていた。


それから三か月くらい経ったある日俺はいつものようにいつもの場所で地面に向かってブツブツ呟きながら異形な者の似顔絵を描いていた。


するとイジメっ子達がいつものようにやってきてその手にはどこか適当な場所で作ってきたんであろう泥団子を持って俺の前に現れた。


イジメっ子のリーダーっぽいやつが「変人だー!投げろー!」と言うと5,6人いたイジメっ子達が一斉に俺に泥団子を投げつけてきた。


俺の体に当たり弾けた泥団子は俺を泥まみれにしたが俺はいつものことだと思い無視を貫き地面に似顔絵を描き続けた。


するとその様子が気に入らなかったのかイジメっ子のリーダーらしきヤツが俺の眼の前まで来て俺の描いている絵を見て「うえ~なんだこれきもちわりぃ~」と言い描いていた絵を踏み散らかした。


流石に憤りを覚えた俺はなにか言い返そうとした瞬間だった。


「やめなよ!。」


響き渡る大きな声で俺達に注意をしてきた人物が現れた。


声の方を見ると知らない女の子が怯えながらも勇気を振り絞ってこちらを見ていた。


イジメっ子達は最初「誰だあいつ」などと言っていたがイジメの執行を邪魔されたことに苛立ちを感じたのかイジメっ子のリーダーが「邪魔すんじゃねーよ!」と負けず劣らず大きな声で反抗した。


女の子は「ヒッ」と怯えたがそれでも引き下がらなかった。


「そんなことしてると神様から罰を受けるよ!。」


と女の子が言うとイジメっ子達はゲラゲラと笑い始め「神様なんかいるわけねーだろバーカ!」とイジメっ子のリーダーが言いながらポケットから石を取り出しそれを女の子に向け投げつけた。


石は女の子の額に当たり女の子はその場でうずくまってしまった。


その光景を見た瞬間俺の中に溜め込まれていたストレスと怒り痛みがイジメっ子のリーダーらしきヤツが取ったか弱い女の子に向かって石をぶつける、という男として最低な行為を働いたことによりトリガーを引いてしまい自分の中の憤怒の感情が大爆発した。


俺は「おまえらあああぁぁぁぁーーー!!!」と怒鳴りながらイジメっ子達に殴りかかった。


俺は我を忘れて大暴れしたが流石に多勢に無勢では不利で結果的に俺は普通に負けた。


ようやく事態を知った幼稚園の先生に止められ俺と女の子は保健室に連れていかれイジメっ子達は職員室に連れて行かれた。


幸い女の子は少し大きなコブを作った程度で済み、俺もこれといった怪我はしなかったが、俺は先生に「どんな理由があっても暴力を振るってはいけません」と怒られた。


この時も俺は幼いながらに思った。


確かに暴力を振るうのは良くないことだと思う。

しかし例えば相手が手を挙げてでもしない限り自分に危害を加えてくる場合はどうなんだ?、と。

戦争や宗教紛争なんかもそうじゃないか、と。

互いの正義を貫いた結果喧嘩をしてでも優劣をつけないといけない時は?、と

解決するために話し合いに行って暴力を振るわれた場合は?、と。


あれこれ疑問に思ったがおそらくこれらの質問はただ大人を困らせうまいことはぐらかされるだけだろうと思い俺は口に出すことはしなかった。


処置が終わると俺と女の子は保健室から出た。


自由時間が終わるまでにはまだ時間があったので俺はいつもの場所に戻り引き続き絵を描こうと思いさっきの場所まで戻ろうと歩き出した。


すると女の子も一定の距離を置きながら俺の後についてきた。


俺はいつもの場所に着くとまた座り込み踏み散らかされた絵をまた描き始めた。


俺が絵を描き始めると女の子は俺に近づいてきて「隣座ってもいい?」と聞いてきた。


俺は邪魔にはならないだろうと思い「いいよ」と答えた。


一応さっきのお礼もあるし俺から切り出そうと思い俺が最初に言葉を発した。

「さっきはありがとう。」


俺は目線を地面に落としたままお礼の言葉を放った。


「どういたしまして!。」

女の子は額に氷水の入った袋を当てたままこちらに向き笑顔でそう答えた。


「・・・。」


「えっと、みつる君だよね?。」

「うん。」


「私、サクラ組の黒島姫奈!みんなヒメって呼んでるよ!。」

「そっか。」


「・・・。」


「えーっと!みつる君は絵が好きなの?。」

「別に。」


「じゃあなんでこのタヌキさんの絵描いてるの?。」

とヒメと名乗る女の子は俺の眼の前を指さして質問してきた。


「!?。」


俺は今目の前にフワフワ飛んでいる瓢箪を担いだタヌキの異形の者の似顔絵を描いていたためメチャクチャ驚いた。


「この人視えるの!?。」


俺は驚きながら聞いてみた。


「うん!視えるよ!君と同じ!。」


これが俺とヒメとの出会いだった。


それから俺は自由時間をずっとヒメと過ごし、俺へのイジメは無くなった。


それからなんやかんやありながらも俺とヒメは小中高と一緒に過ごしてきた。


召喚士になったのは俺もヒメも同時に中学に上がってからだった。


異形の者の事や召喚や憑依のことも一緒に勉強し、時には共闘しながら悪い異形の者を退治していた。


俺は鬼の女の子に導かれている間そんなことを思い出していた。


しかし今はそんなことを考えている場合ではないと頭を左右に振り余計な考えを頭の隅に追いやった。


鬼の女の子に導かれて走ってついていくと鬼の女の子が緑丘公園にさしかかったところでピタッと止まった。


鬼の女の子が怯えた様子で震える指先で公園の中を指指した。


薄暗くて少し見えづらかったが状況はハッキリ飲み込めた。


公園の中では身長5メートルはあるであろうゴブリンがヒメの華奢な体を握りその両腕を空に挙げていた。


傍にはヒメが召喚したであろう水虎の妖怪名前は百、がグッタリと倒れていた。


ゴブリンは両腕を空に挙げながら「グアッハッハッハやはりあやつの言っていた通り人間は美味だな!」。

「ただの人間であれだけ美味かったんだ、召喚士はきっともっと美味いに決まっている!。」


などと言っている。


おかしい、ただのゴブリンがあんなに大きいはずがない。

それに群れて行動するはずのゴブリンが単体とはどういうことだ。

だいたい、ヒメの召喚した百は強い!あんなゴブリンにやられるはずがない。


俺は咄嗟に公園に入り大声で「ヒメ!!」と呼んだ。


「みつる!来ちゃダメ!こいつなんかおかしい!。」

ヒメは苦しそうに言葉を返してきた。


「そんなわけにいくか!。」

と俺は声を上げながら普段から持ち歩いているノートに召喚陣を描き召喚術を唱えた。


すると空中に大きく召喚陣が浮かびあがり光を放ちながら中から寝起きの牡丹が出てきた。


「ふぁ~、どうしたのみつるいきなり呼び出して~私まだ眠いんだけど~。」


「そんなこと言ってる場合じゃない!あれを見ろ!。」


「うげ!なにあれデカ!クイーンゴブリン!?。」


「よくわからんがヒメが食われそうになってんだ!。」


「百までやられてるじゃん!これはちょっと久々に本気出さないとヤバイかもねぇ。」


「とにかく憑依使うぞ!。」

「あいあいさー!。」


俺はノートに手早く憑依の陣を描き手を陣の上に乗せた。


牡丹もすぐに手を乗せ陣がまばゆい光を放つと牡丹がシューっと俺の中に入り俺を中心に周囲につむじ風が発生し俺の妖化が始まった。


俺の着ている衣服がみるみる天狗の履いている袴や装束に変わり靴は下駄になり頭には天狗のお面が付きその手には大きな団扇が握られ意識は牡丹に切り替わり完全に妖化した。


妖化するとすぐに牡丹が「韋駄天!」と声を上げた。


すると牡丹の体は風で覆われ風を纏った牡丹はゴブリンの周囲を飛び回り人間の眼では追えないほどのスピードでゴブリンに突きや蹴りを放ち始めた。


ヒメを握っている腕を牡丹が執拗に攻撃するとゴブリンはようやくヒメを放しすかさず牡丹は落ちるヒメをキャッチし公園の外まで運んだ。


「ありがとう牡丹ちゃん、危うく食べられるとこだったよ。」


「お礼は今度パフェでもおごってくれればいいよ!。」


そう言うと牡丹は公園に再び飛び入り真正面からゴブリンと対峙した。


「よくも私の食事を邪魔したわね!。」

とゴブリンは怒りを露わにしている。


「あんたみたいな薄汚い異形の者は残飯でも漁ってな!。」

牡丹はそう言うとゴブリンの顔に拳を入れようと飛びかかる。


しかしゴブリンはその巨体とは裏腹に恐ろしいほど鋭い動きを見せ飛びかかる牡丹にカウンターで拳を叩きつけてきた。


その勢いで牡丹は公園のベンチまで吹っ飛んだ。


「いっててててて、なんだよあのデタラメな動き、一瞬意識飛ぶかと思ったよ。」

「(大丈夫か?。)」

牡丹の意識の中で俺は心配をこぼす。


「なんとかね、でも次もらったらヤバイかも。」

そう言いながら牡丹は立ち上がりゴブリンを睨みつける。


「クッハッハッハッハッハ、憑依召喚士ってのはこんなもんなのかい?。」

「噂に聞いてたほど大したことないねぇ!。」


「まぐれで一撃当たっただけで喜んでんじゃないわよ!。」


そう言うと牡丹は今度は手足に風を纏わせ構える姿勢を取った。


「かまいたち!!!。」


牡丹はそう言うとその場で思いっきり足を振り上げた。


すると振り上げた空間から風が発生しその風はズバッ!!と音を上げながら公園ごとゴブリンの右腕を斬り落とした。


「ぐああああああ!!。」

とゴブリンは切り落とされた右腕を押さえながら悲痛な声を上げる。


牡丹はすかさずその場から消えゴブリンの背後を取りその頭を斬り飛ばそうと足を引き付けた。


しかしここでもゴブリンは信じられない動きを見せた。


ゴブリンは先ほどの物凄いスピードで反応し牡丹の引き付けた足を掴み地面に何度も牡丹を叩きつけた。

そのままゴブリンは牡丹を投げ飛ばし牡丹は公園に生えている木に身体を打ち付けた。


「グハッ。」

と牡丹はその場で崩れ落ち意識がなくなり憑依が解けてしまった。


体を戻された俺は妖化のおかげで致命傷ほどにはならなかったがかなりのダメージを受け動くことすら辛い。


牡丹は隣で完全に気を失っている。


ゴブリンは「ギャッハッハッハッハ獲物が増えたー!」と喜んでいる。


こいつ、ホントにでたらめに強い。

クッソ、このままでは全員食われる。

もうダメなのか?

何かいい作戦はないのか?




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