5,ミスターの正体とは。
あっ、投稿予定の日忘れてた!と思い急いで投稿しました
サクサクと軽い音を立てて、私は腹ごしらえにおやつのクッキーを咀嚼する。
「…嬢?流石に食いすぎじゃあ…。」
「腹が減っては戦はできないものよミスター。」
「…はぁ。」
私が食事室でおやつを食べている間にいつの間にかやってきて、いつの間にか男前に動きやすそうでそんなに質素でもない服を身に着けたミスターが私に声をかける、が、そんなことを言っても無駄なのだ。ここのクッキーは美味しすぎる。そしてそれは私の空腹を律儀にも満たしてゆく。
私、シャルロッテ。悪役令嬢に生まれ変わりました。ちなみに勝手に逃げ出したことに侍女さん達からはかなり叱られたけれど、声をかけられてびっくりしたとの旨を教えると何かに諦めたのか、次からは気をつけてくださいと念を押された。きっとお父様がまた何か脅したのかしら、いい加減にしてほしい。侍女さん達が減ったら困るのだから。
ということで、あれからあまり経たないうちに私はミスターと話せる環境を作った。お父様は庭の奥でまだお母様とお茶をしながら話をしているらしい。私はクロエと話をしてるわと言いながらも、実際は空きっ腹を埋めようとしていたのだが。
『ふふっ、たくさん食べるのねシャロ。可愛いわ〜。』
くるくると私の周りを飛び回りながらクスクス笑いそう言うクロエ。クロエはお母様の魔力に合い一緒にいたのだが、私のことを気に入ってすっかり私のそばを文字通りついて回るようになった。
「…まぁ、元気なのは良い事だけどね?ただ、僕と話をしたいんだろう?…シャルロッテ嬢。」
何かしら勘付いていたミスターが、呆れながらも私にそう言いじっと私の方を見る。私はこくんと首を縦に振りさっきまで咀嚼していたクッキーを飲み込んで、早速本題に入る。
「まずはなんて言ったら良いのかしら…。」
「…その口調、慣れてないんだろう?まずは普段の口調で話すことから始めたらどうかな?」
「それもそうですね、そうします。」
どうやら向こうの方も私の正体に察しがついているらしい。ならば気にする必要はないかと、私はお言葉に甘えてお嬢様口調ではない、いつも使っていた口調で話す。本当はクロエと話したときにはこの口調だったのだが、それは別に今はどうでもいいか。ただ単にその口調が出てしまっただけだし、クロエも気にしていなかったし。
さて、と私が咳払いをすると、ミスターの方に椅子を向け、私は口を開く。
「私はシャルロッテ・フィルフィテッシャオに変わりありませんが、残念ながら悪役令嬢シャルロッテ本人ではありません…そう言ったら、通じますか?」
「十分だよ。そこまで言ってくれば、僕にとっては信用するに足りる人物だってことだ。」
私がバッサリと傍から見たら意味不明なことを言うと、それに対してミスターは何も追求することはしなかった。むしろこれ以上追求することはないみたいにそう言ってのけた。
「…それじゃあ、あなたも?やっぱり?」
「…そう。僕、グレッグ・ダーシェイは…君とおんなじ、転生者だよ。」
真剣な眼差しに、私は息を呑む。やっぱりそうだった、そう思うのと同時に、グレッグ・ダーシェイ、その名前に思考を巡らせる。
「ダーシェイ…じゃあ、乙女ゲームの攻略対象のファルフォンド・ダーシェイの…」
「そう、僕は彼の父になるはずだったんだけど…少し思うところがあってね、今は何故か叔父になってるよ。」
ファルフォンド・ダーシェイ…乙女ゲームの方のキャラクターで、ヤンデレ用員の彼はストーリーでシャルロッテを目の敵にしている。というのもこれまでの流れでわかるように、自身の父をシャルロッテの父に理不尽にも殺されてしまったことで、そのことに気が付きシャルロッテを思いっきり罵倒し…自分が好きな人をもう誰にも取らせまいと、どんどんヤンデレになっていく。
ファルフォンドのルートは、ヤンデレ感が凄くやばいらしい。私はファルフォンドルートをしたことはないが、ゲームレビューみたいなのでそういった話がよく出ていたので私の中ではファルフォンドは『こいつヤバイ奴』な認知である。
「ごめんなさい、ファルフォンドはあまり得意じゃないんです…。」
そう私が言うと、ミスターことダーシェイさんはハハハと面白可笑しそうに笑う。それもそうだと言わんばかりに笑い続けるさまに、私はつい苦笑してしまいそうになる。
「それで、あの…前世はどのような人物であったか聞いても?」
「ふふっ、あー笑った。うん、自己紹介ね。」
ダーシェイさんはひとしきり笑い深呼吸をして落ち着いてみせると、すぐに真剣そうな顔になって、言う。
「僕は、前世ではこのゲームの制作を務めていました。生まれの育ちも日本です。今はもうダーシェイとして生きてるから、好きに呼んでね。」
ニコニコと笑うダーシェイさんに、私はマジか、と顔が引きつる。なんとなく、私が何もせずともゲームのストーリーが変わっていることからこの人がゲームを知っている転生者なのではという名推理はできていたのだけれど…。
まさかの、制作者…?
フリーズしてしまいそうになった私にダーシェイさんが君は?と言ったことで、ハッとなって改めて自己紹介をする。
「私は、ゲームをそれなりにプレイしていました。高校生になったばかりのときに、猫を助けようとして交通事故に会いました。あ、私も同じく生まれも育ちも日本です。」
そう言うとダーシェイさんはどこか驚いた顔をしてから、すぐに納得したようになる。
「じゃあ君は、このゲームを…」
「知っていましたし、プレイもしましたけど、全クリはしていません。」
すぐにきっぱりと言ってみせると、ダーシェイさんはふむ…と考えるような姿勢になり、ブツブツと何かを言ってから再度私に尋ねる。
「ちなみに、亡くなったときの年は…?」
「…20✕✕年です。」
歳では無いだろうと思いそう言うと、ダーシェイさんは手で顔を覆いあちゃあ…と何やら悔しがるような、落ち込んだ声を出す。…なにかまずかったのかな?
私が訳もわからずに頭にクエスチョンマークを浮かべていると、ダーシェイさんはいい?よく聞いてと凄く圧力のかかった声で言う。
曰く、彼が亡くなった年は私が亡くなった年の十数年後くらい先で、その間このゲームは続編やら『オリジン』という名目をつけてリメイクされたりと、数々の進化があったそうな。そしてそのリメイクにおいてもまだシャルロッテが悪役令嬢なあたり、制作者もなかなかいい神経してるじゃないの。嫌いじゃない、そういうの。
「…ただ、このリメイク版実は多くの人の回想ストーリーが楽しめてね。」
ダーシェイさんは、シャルロッテの話を特に念入りに作ったと話す。シャルロッテは悪役そのものだけれど、恋をするその姿、一途な姿に外見だけ見てファンになった男性ファンの他、女性ファンさえも作り上げ…シャルロッテに救いをという意見が多数制作者に送られちょうどいい機会だからとその意見を反映したリメイクストーリー、『オリジン』を作ったのだ。
その中でシャルロッテの幼少期…今の私くらいの頃の話にて、母が助かるかもしれないという特別分岐が作られたらしい。ちなみにゲームのシャルロッテは人形になったお母様を見て最初はすごく戸惑ったが、一緒に過ごしている内に段々とその存在を認めていったらしく、今の私の状態に遅れた頃になるらしい。そう思うと今の私転生者なだけあってかなり先取りしているな…。
ちなみにその話ではダーシェイさん(ゲーム内の)の生死は分からないが、断罪イベントでお父様の罪が出てこないあたりダーシェイさんも殺されはしてないのかもしれないのだという。まぁ実際のダーシェイさんは生きているのだから、なんちゃらの猫状態にはならない。ついでにヤンデレに目の敵にされることもない。ここらへんの脳内整理はできた。
ただ、問題はここからだった。
「実はこの話で、シャルロッテはとある能力を手に入れるんだ。僕の特殊魔法の『人形師』のようなものの事だね。」
これこそ、今私がクロエに話ができている原因らしい。
そもそも妖精と話せるのは、その妖精と話す人間の適正魔力が合わない限りは大前提として不可能なことになっている。そういう世界観にしたらしい。そしてクロエは察しの通り草属性の妖精であり…
私は悪役らしい、黒の闇属性の魔力を持っている。何が使えるかは本人の魔力の強さ次第と両親から聞いたことがあるが、どんな魔法が使えるのか現時点で分からないあたり、本当に恐ろしそうな魔力だ。…ってそんなことは今はいい、問題は私が属性不一致のクロエと何故話を出来ているのか。
それはオリジンにて、ただただシャルロッテに悪役らしさをプラスしてもらおうと母親生存ルートになった際にシャルロッテが無意識のうちに手にした、その魔法…『多言語者』またの名を『通訳者』。これは自身が話したいと思ったり、魔力が強いが属性が合わない妖精などと話す際に使える魔法らしい。と言っても話ができるだけでそれ以上のことはできないが、ゲーム内のシャルロッテはこの魔法で恋敵の根も葉もない悪い噂をバンバン言っては広めたという。やり口陰湿だなぁとはもう今更言わない、私がそれをしなきゃいいだけの話だ。
「…君がどうやらリメイクゲームをしていないとなると、いよいよ行き先が不安になっていくからね。」
教えられて良かった、と息をつくダーシェイさんを他所に、私はその言葉に呆気にとられそのままポツリと疑問をぶつける。
「…まさかダーシェイさん、私の死亡フラグ破壊に手伝ってくれるんですか?」
そう素っ頓狂な声で尋ねれば、何をいまさらとダーシェイさんに苦笑される。おおっとこんなところでも急展開だな。まさか思わぬうちにこんなにも心強い味方(制作者)を手にできるなんて。
「これから何かとお世話になります、ダーシェイさん!」
私が大きな声でニッコリと笑いそう言い、よくある取引先の人と交渉成立した際にする握手をしようとダーシェイさんの前に腕を出す。
それを見て、こちらこそと笑いながら握手をし返してきたダーシェイさんと、今、絆が生まれる。
おまけ
「あ、そうだ。これからは私主人公とかに関わらない且つ悪役令嬢にはならないように過ごそうと思っているんです。」
「良いんじゃないかな、それなら死亡フラグも建たないだろうし。」
「本当ですか?なら当分はこれを目標に生きていきます!」
『…ねぇ、私がいるのにそんなに大変な話してよかったの??』
「いや…クロエと話せる人なんてそうそういそうにないし…(属性的な意味で)。」
「この世界観ではクロエと話せる人の人数はかなり限ったように作られてあると思うし…(クロエの魔力が高いという意味で)。」
『…この二人の基準がいまいち分からないわ…。』
次回、多分何かやらかす話!