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悪役少女の歌声はお気に召しますか?  作者: 星花
1章 学園にはまだ程遠い?
3/13

3,急展開ですの?


「ええと…ここは何処かしら?」


 ごきげんよう皆様、シャロでございます。只今現在進行形で迷子になっています。


 我が家の敷地内にて。


 もとはといえばキッチンに行きたかったのだが、部屋を出てみると廊下には私の監視係なのか何となく記憶の何処かで見かけたようなメイドさん…侍女さんがいらっしゃっていた。キィ…と扉を開けて顔を覗かせると、すぐ近くの侍女さんが目に入り「お嬢様?」と声をかけられ…。


 ビックリしてバッと部屋から飛び出ていたのであーる。無計画なのであーる。いや対人スキルゼロだったんだよ私。声かけられるとびっくりするんだよ…。後ろからは「お嬢様!?」「どうなさいましたの!」「お嬢様がお逃げに!旦那様に怒られる前に…」「「捕まえましょう(仕留める)。」」






 …逃げなきゃ。本能が逃げなきゃ何となくヤバイとおっしゃっている。いや、侍女さん達悪い人達じゃ決してないんだけど、言葉の圧がすごい。すごい怖さを感じる。というかそんなにお父様のお怒りって恐ろしいのかしら…。


 …なんだろう、この感じ。侍女さん達は決して悪くない。きっとこんなに必死にさせるほど過保護なお父様のお怒りが悪いのよ、そうよ。なんだろう、お父様に対して無性に苛立ってきた。発散代わりに走るスピードをあげようかしら?



 こうして私は『普通に侍女さんにお腹空いたといえばいい』にも関わらず、天性のコミュ障を引きずってしまいよく分かんないテンションになって気が付いていたらお家の中をひたすらに駆けずり回っていた。


 頭おかしいと言ってしまうともう何も言えなくなるので言わないでくださいまし…。


 まぁそんなことがあり、気がつくと私はドレスの裾を思いっきりたくし上げて、お家の玄関から少し離れたお庭らしきところの木の上に登っていたのである。昔(前世の時)は小学校の校庭にうんていやらジャングルジムやら棒上りやらがあり、コミュ障であったもののアクティビティな子供であったのだ。棒上りは頂点までの10メートル程度をスルスルと登れたのだから、ここのお庭の木はお手の物に感じてくる。


 木に登り座りやすそうな枝を見つけてそこに座り込むと、下からは侍女さん達が慌ただしく草の上を駆けていく音が聞こえてくる。そしてそれはだんだんと遠ざかり、少し身を乗り出して枝や葉っぱの隙間から様子をうかがうと、頭上のことは見過ごして侍女さん達は家の方向に戻っていったらしい。まぁ普通伯爵令嬢ともあろう子が木登りするなんて思わないよね。


 私もテンションおかしくなかったら思わなかったもの。きっとそれだけ前世の記憶を思い出すっていうのはすごいことなのね。人一人ハイテンションにしてしまったんだもの。私の場合ハイテンションというか、ただ見つかったことに対してキョドった結果がこれなのだけれど。


 しばらく枝に座って、侍女さん達が戻ってくる気配がないのを確認していると、どこからか美味しそうな匂いがした。くんくんと匂いを嗅ぐと、どうやらこの庭の近く…けれど微かに臭うので、あまり近くではないところから来ているらしい。


 …どうしよう、そういえば逃げてて忘れてたけどお腹空いてるのよ私。侍女さん達は家の方向に行ってて罠とかの可能性はないだろうし…ちょっとだけ…ちょっと様子を見に行くだけ…。


 そう自分に言い訳をして、私は登るときと同じようにスルスルと木から降りる。大きな音を立てて追手が来ると困るので静かに降りておいた。


 下に降りてくんくんと匂いを嗅いで、その匂いを辿ると庭の奥へ庭の奥へ足が進んでいく。記憶では、シャルロッテは庭にはあまり来なかったらしい。でも部屋の四角い窓で切り取られた風景の片隅にある慎ましいながらもどこか華やかな庭は、シャルロッテの心を惹いていた。


 庭はとても広かった。足を進めながら周りを見てみるが、花が咲く木がいくつも植えられていたり色とりどりの花が装飾のきれいな花壇に植えれて、どれもこれも色鮮やかで生き生きとしていた。キョロキョロとして前も見ないでいると、急にドンッ!と何かにぶつかった。


 驚いて顔を上げてみると、視線は上に、セットをしていないボサボサの茶髪とキュッと猫のようにつり上がったの目が印象的なのに、さらに整った顔立ちをしている第一印象が濃い男性がいた。服はお世辞にも綺麗とは言えないような薄汚れた物を着ていて、さてさてこのお方はどちら様かしら…。


「うわっと…ごめんね、小さなお姫様?」

「へ?あ…いえ。こちらこそ、前も見ずに申し訳ないですわ。」


 私がじっと相手の男性を見ていたら、謝られた。いや、もとはといえば私がちゃんと前を見ていればよかったから、非は私にあるのだけど。


 というか、小さなお姫様というあたり気障な雰囲気を感じる…。小さく笑った顔も…そう、何処かで見かけたような、胡散臭そうな顔…?


「…どうかされました?シャルロッテ嬢?」

「ふぇ?…いえ、何でもありませんわ。」


 いけないいけない、あまりにも見つめすぎて不審がられてしまった。私はすぐにニッコリと微笑みながら返事をし…。あれ?と疑問に思ったことを話す。


「私がシャルロッテだって、何故…?」


 そう、この人はたしかに先程「シャルロッテ嬢」と言っていた。確実に。でも出会ったばかりだし、それに私のお友達の子、っていう選択肢もあったかもしれないのに…?


 そんなことを考えていると、男性はクスッと目を細めながら笑い私を見て…そして後ろの方、私からして男性よりも奥の方を見て、言う。


「それは俺じゃなく、あのお方に聞いてみるといいよ。きっとこんな俺よりも、ずっと話が聞きやすいだろうし。」

「…あのお方?」

「まぁ、そのことも含めて行ってみてご覧?」


 男性がさっと私の横に来て手を差し伸べた先を見てみると、先程までは気付かなかった、薔薇の花のアーチが並んで出来ている道があった。全然気が付かなったのと同時に、…先程まで、本当にこれはなかったのではないかというとてもじゃないがありえないことを考え、鳥肌が立つ。


 私が突然視界に広がった景色に見とれているうちに、気がつくと先程まではそばにいた男性の姿が見当たらなくなっていた。こんな手品みたいなことをして、自分が誰なのかも最後までは明かさずにそそくさと帰ってくなんて。推理小説とかだとミスター、あなた絶対真っ先に読者に犯人扱いされるわよ。


 …とまぁ場違いで話題からそれた話をしていたところでこの状況が変わるわけじゃないし、いい匂いは確実にこのアーチの道の先からしている。


 なんとなく不安になりながらも、まるで絵本で読んだことがあるアリスみたいとドキドキしながら薔薇のアーチをくぐっていく。アーチは二メートルほどで、まだ6歳の私には十分な高さだった。時々上を見てみると、蔦や葉、鮮やかな薔薇の花に映えるように広々とした青い空が見え、まるでメルヘンの世界みたいだと心の中で思う。


『きゃあ!本当に来たのね!!』









 …んん???


 なんとも摩訶不思議なことが起きました。空を見上げポエミーになっていると、突然前方より右斜め、可愛らしい声できゃっきゃはしゃぐような声がしたと思うと、そこにはみずみずしくふんわりとした淡い緑の長い髪をなびかせた…後ろに羽を生やした小さく縮小された女の子が、ふわふわと浮いていた。


 そう、まるで…絵本に出てくる妖精さん。ゴットマザーがつかない、フェアリーと言われているそれ、


 が、頬を桃色に愛らしく染めてぴょんぴょん飛び跳ねるような仕草をして一人ではしゃいでいた。


『きゃ〜!ゼノ達の言うとおり、とおっっっっても可愛い!お人形さんみたいな髪の毛、クリッとした目!コレクションにしてしまいたいわぁ…!!』


 流暢にもそんなことを言ってのけ、私を見て恍惚とした表情をする妖精さんは、どうやらフランス人形のように可愛いシャルロッテちゃんにご満悦の様子だった。私も最初シャルロッテ見たときは同じようにメッセージウィンド消して眺めて「何この子!超可愛すぎない??」ってなってメッセージウィンド復活させた次の瞬間その言葉の辛辣さに何で悪役令嬢なのこの子!と心の中で叫んでしまったことがあるんだけどね。一瞬この言葉バグじゃないかと公式サイト見たら『全ルート共通の悪役令嬢』という公式設定にフリーズもしましたしね。


 …って、思い出に浸ってる場合じゃない!妖精さん何かブツブツ言ってるし!


『ん〜、ホントはゼノに迎えに行ってらっしゃいって言われたけど…やっぱりあの事もあるし、私だってちゃんと話ししたいし、遊んだって良いわよね。』

「あの、妖精さん?何を言ってらっしゃるの?あの事??」

『だってゼノってば、『あの姿』になってからというもの全然遊んでくれないし!ゼノ自身今寂しくって、だからせっかくやってきたシャロに心を踊らせて…。…もう!昔は一緒に遊んでくれたのに!』

「…ちょっと、妖精さん?どうなさったの、本当に。」

『でも今はこうしてゼノよりも全然若くて遊びたがりな年頃の、昔のゼノそっくりな可愛い女の子がいる…!きっとこれはお父様からのご褒美よね!花を、木を生き生きと育てて頑張って仕事をしている、私への!』

「…。」


 これは話を聞いていないようだ。一人で何やら恨み言のようなことを言っては、急にぱあっと顔を輝かせる。その姿は人間じゃおおよそ不思議ちゃんと呼ばれても過言じゃない気がするが…妖精というあまりにも非現実的な存在の前ではそれも意味をなさない。まぁこちらがぽけーとなっておいてかれたようになるのは同じなのだが。


 そう呆けながら考えていると、急に妖精さんはこちらにぐっと距離を詰めてすごく近い距離で話してきた。まぁ話すというよりもそれは…答えが決まっていた、ただの確認だったが。


『今から私の秘密の場所に案内するわ!さぁ、目を瞑って!』

「へ?!」

『早く早く!ゼノが様子見に来ちゃうかもしれないから!』


 そう言われ、うるうるとした目に加えて両手でお願いのポーズを取られた私はうっ!となり…なるほどあの時のお父様の気持ちがよくわかったとなりながらも、言われるがままに私はギュッときつく目をつぶった。









 そして少しして、どこからかもういいわよ!という声が聞こえたのと同時にまぶたを開けると、見知らぬ世界がそこに広がっていた。


 先程までいた薔薇のアーチの道の中ではなく、もっと開けていてなおかつ家の庭と比べ物にならないくらいにあちこちに植物が咲き乱れ、不思議かな、キラキラと世界が輝いているように見える。けれどはっとなりあたりを見渡すが、フィルフィテッシャオ家らしき大きなお屋敷は見当たらず、もっと言えばここに連れてきたであろう妖精さんがどこにも見当たらなかった。


「ええと…ここは何処かしら?」


 ごきげんよう、シャルロッテでございます。只今現在進行形で迷子です…。


 そこにガサッという音とともにやってきた、小さくて、可愛くて、…私をここに連れてきた妖精さんが嬉しそうに微笑んではしゃぐ。


『…あ!ここにいたのね!心配しちゃった、でも来れたみたいね、嬉しわ、ふふっ!』


 一つだけ訂正させて頂きたいと思います。



 私、シャルロッテ。迷子じゃなく誘拐されたかもしれませんわ…。









その頃のお屋敷にて。


「旦那様、いよいよお嬢様が見つけられなくなってきました!」

「…へぇ、そう。で?」

「…え…。で、って…。」



「で??まさか俺の可愛い可愛いシャルロッテを一生探さずにみすみす見殺しにするっていうの?まさかそんなわけないよね?」



「あ、あの…そこまで申し上げてるわけでは…。」

「本当に?…そういえば、君は確か✕✕✕男爵家の子だったっけ?」

「は…はい。そうでございますが…。」











「…いざとなれば男爵家の一つくらい、一ひねりしてやれるんだよなぁ…。」



「__ッ」










「…申し訳ありません、旦那様…。例え、この身に変えてでも…お嬢様を、いち早く見つけ出します。」



「…はい、合格。流石あの✕✕✕男爵の娘さんだ。…彼に似て、非常に合理の計算ができて、賢い。」

「…お褒めに、お預かり…光栄で、ございます…。」

「さぁ、侍女達を出来るだけ総動員させて探してきなさい。何故シャルロッテが逃げたかは分からない…けど、心配だしね?」

「…はい、旦那様。御意のままに…必ずや。」

「うん。あの子は俺と俺の最愛のミモゼノールの子だからね。宝物のようなものなんだよ。だから…」













「もし誘拐だなんてことがあったら、容赦はするなよ。…逃がすな。俺のものを奪った罪を、思い知らせてやれ。」


「…御意のままに。」

「早く行っておいで。こうしている間にも可愛いシャルロッテが泣いていたら、誰が慰めてやると言うんだい?」

「…はい。失礼しました。」





 キィ…と扉が閉まってから数秒後。













「あ~あ、いじめられちゃって。可哀想に〜。」


「?!…、誰だ。」

「ん、俺?…ふふっ、俺はねぇ…。」





 部屋の隅に突如現れた男性は。



「ちょっとお邪魔してただけだぁって〜お屋敷の偉いお方からの、入って良いよ〜の許可もあるし?」



 ボサボサの茶髪と猫のようなつり目で、部屋の華やかさにはあまりにも劣る粗末な服を着た男性。

 その口調は飄々としていて、それが相手の神経を逆撫でるようで。




「…偉いお方、だと?」

「うん。…まさかここまで言っても分からないとか?」






ーここのご当主様は、あのお方のほうが良かったんじゃない?




 その言葉に、アデルは息を呑む。思考がそうだという『その』答えは、信じたくもない答えで。違うと言い聞かせても、あの芯の通った力強く美しく、それでいてどこか脆く儚い最愛の人の後ろ姿が脳裏を横切る。




 自分に言い聞かせる。違うと。そもそもなぜこいつが、そんなことを言う?だって、最愛のあの人は…ゼノは、確かにあの日そっと静かに目を閉じて、別れ際に「次に会ったら…美味しいお茶でも飲んで、笑い合いましょう」だなんて言って微かに笑って。それがさらに私を…俺をこの世に、世界に引き留めた。最愛の娘であるシャロとともに、まるで呪いのように言って。そうして彼女は家族が見守る中…病気によって、息をそっと引き取ったはずだ。



「何でお前が知ってるんだーみたいな顔してるね。ふふっ、面白い。そういう素直な反応を見せるところは、あのお方…ミセスにそっくりだ。ねぇ、君もそう思わない?」



 確かに、よく使用人からは素直に反応なさるところはゼノと同じだと言われていた、が…。何故?


 …まさか彼女は、不貞を働いていた?この男と…?




「おっと!そう怖い顔になるなよ、少なくとも旦那様が考えてることは的を得てないと思うぜ?」

「…どうだ、かっ!」




 そう言って、不意をついて剣を取り相手に向かって振り下ろす。事実の嘘本当なんて、今更どうだっていい。でも、無性にこの男を_殺したくなった。








 まるで何かに操られるように。















「…っとぉ!危ねえ危ねえ、間一髪だったなぁ、全く!」



 気がつくと、相手に振り下ろしていた剣は…相手が何処かに忍ばせていたらしいおよそサバイバルナイフのようなものによって、ギリギリと嫌な音を立てて…間一髪、すんでのところで食い止められていた。




「なっ…!!」


 自分が一番、そのことに対して驚いていた。腕は師に及び、優れたものと呼ばれて、今もその腕は昔と変わらず凄いまま。なのにそれを…おそらく平民と呼ばれるそいつに食い止められるなんて…。










ーまるで、最初から『そうされること』を知っていた、みたいに…。






 しばらく呆けていると、そいつはニッとつり目をさらに吊り上げ笑みを作り…そして小さく何かを言った。



「お嬢がこれからの誰かにとっての『悪役』なら、俺はきっとお前にとっての『悪役』であり…そして信じられないことに、『生みの親』でもあるんだろうね。」




 そいつが、何を言ったのかは聞こえなかった。決して。もしかしたら何も言ってなかったのではないかというほどに。



 そして少しして



「…どうだい、今は少し騙されたと思って…庭についてきてこないか?」



 男の提案に、俺は



「…今、シャロがいなくなっている。」


 そう言ったら


「そんなの知ってるよ。知ってるから行くんだ。」



 とまぁ余計に怪しい発言をする。

 俺が何も言わず、ただ男を睨んでいると、そいつは何かに観念したのかため息をついて…そしてこういった。



「わーったよ。俺が誰で、何であのお方…ミモゼノール伯爵夫人を知っているのか。全部、質問も答えられるものは全部話してやる。」






 そう言って、そいつはにわかにも信じ難いような話をしてきたのだった…。


よく分からない展開についていけない?奇遇ですね、私もです。

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