Data.90 丸太の防壁と魔蟲
◆現在地
架け橋の砦
「ふぅ……とりあえずこれで完成かな」
目の前にずらりと並んだ丸太。まさに丸太の壁だ。
ここら辺の木はかなり巨大だったから普通より深く地面に埋め込み、ストライダーの【粘々の糸】で接着してあるので、イスエドの村で作った丸太の壁よりかなり頑丈だと思う。
「立派なものが出来たじゃない。これなら本命の門が出来るまで十分持つと思うわ」
シュリンが丸太の壁に触れる。
車イスをこっちに持ってきたので彼女も今は一人で動けるようになっている。
「そうだといいんだけどねー。正直、モンスター相手には力不足よ。まぁ、結局壁に到達される前に倒すというのが正しいかな」
「ふふっ、そうね。でもこういう『区切り』があるっていうのは精神的にも良いのよ。平地にぽつんと立っているよりは」
「そりゃそうだ。高さ的にも向こう側は見えないし、なんとなく安心感はある。逆に急造の見張りヤグラからじゃないと索敵もままならないのが怖くもある」
私は壁の近くに建てられた物見ヤグラにいるアチルに手を振る。
アチルも手を振ってきた。今のところ問題はないみたい。
「夜は視界が完全になくなりそうね」
「そこは私も考えていたわ。まだ少しあるとはいえもうじき夜が来る。せめて石碑だけでも屋根のあるもので囲いたいわ」
「やっぱりモンスターって夜に活性化するのかしら?」
「虫系モンスターには夜行性のものもいるから油断はできないわね」
「丸太集めに行く前から気になってたんだけど、ここらへんに大量発生してるモンスターって虫なの? 私あんまり虫好きじゃないんだけどなぁ……」
シュリンが少しあっけにとられたような顔をしている。
「……あなた、知らなかったの?」
「いや、それぞれの地点で別系統のモンスターが発生してるってのは知ってたけど、よりにもよって虫かぁ……。そういえばチラシに書いてあったかな?」
「それぞれの地点ってどういうこと? まさか、他にもモンスターの大量発生が起こっているっていうの?」
「あれ? 話してなかったっけ?」
シュリンに今回のイベント……もとい異変について話す。
「ふーん、それはまた興味深い重要な話ねぇ。もっと早めに話してほしかったわ」
「でも、結局ここを守ることには変わりないじゃない? 他の地点はおそらくここより防衛の人数も多いと思うから、そうそう陥落したりしないと思うけど」
「それはそう。でも、情報は多い方がいいのよ」
「うっ、今度から何かわかったらすぐ話すわ」
「よろしい」
何とも口が達者な女の子だこと。
いや、女の子といってもエルフだから意外と歳いってたりして……。
「みなさん! 敵です! 正面に三体!」
アチルの合図に私は跳躍し、丸太の上に乗る。
まだかなり遠いとはいえ、明らかにこちらに向かってくる影が見えた。
「ついにか……。シュリンは下がってて」
「下がる、って隠れる場所も無いんだけどね」
車イスを操り、シュリンはとにかく壁から離れた。
確かにこれでは彼女が眠る場所も無いなぁ……。何とかしないと。
「あれは……何かしら?」
私には今すごいスピードでこちらに転がってくる黒い玉が見える。
坂道を駆けあがって来るので自然と転がっているわけではない。つまり、モンスターだ。
そしてここらへんに湧いてくるのは虫系が多いと……。
「でっかいダンゴムシ……か」
脚が気持ち悪いけど虫の中ではまだ愛嬌のある方のダンゴムシ。こんなにデカくなってしまってはそれも台無しね。
てか硬そうなんだけど。ぶつかられると丸太も持ちそうにない。
「接近される前に仕留めましょう、アチル」
「そのつもりです!」
アチルは接続形態に変身。右手に装着された巨大なクロスボウ『カースドライバー』を構える。
「剛鉄突破ノ矢!!」
大ムカデを貫いた矢を放つアチル。
その矢は一直線にダンゴムシの一匹に命中。受けた方はたまらずよろめき、壁に何度も激突し、土煙を舞い上げる。
「くっ、一撃とはいきませんでした。あのムカデほど硬くはないんですが、回転の力で矢の力をわずかに流されました」
「もう一匹お願いするわ。今の私じゃ一匹相手をするのが精いっぱい」
私は壁の向こう側に躍り出る。
ブーメランは遠近両用武器だけど、矢ほど射程があるわけじゃない。ある程度の接近も必要よ。
「猛牛ブーメラン!!」
真っ直ぐ進んでくる残り二体のうち、一体に狙いを定めスキルを発動する。
猛牛のエフェクトを纏い、魔石ブーメランが突進。激しく火花を放ちながら黒い玉と激突した。
ギギギ……っと金属が軋むような音をたてながら、玉の勢いが弱まっていく。
そして、切断とはいかなかったけどダンゴムシを弾き飛ばす事に成功した。
「雷の円陣!」
『超電磁ブーメランHC』のスキルを吹き飛ばされて腹を出した敵へぶち込む。
巨大ダンゴムシは白い破片となって消えた。
「さて残りは一匹……」
未だ直進を続ける黒い玉にアチルはしっかり狙いを定めている。
「聖X邪ノ矢!!」
放たれた白と黒のエネルギーが螺旋のように絡み合い一本の矢となる。
このスキルならダンゴムシも一撃のはず……が、そもそもその矢がヒットすることはなかった。
驚くことにダンゴムシは急ブレーキをかけ矢を避けると、上に高くジャンプしたのだ。
これには私もアチルも一瞬あっけにとられる。
「……あっ!」
アチルがビクッと我に返り、空中に狙いを定めるが冷静じゃないのかなかなか安定しない。
ダンゴムシは壁の上通過する。落下地点にシュリンがいると危ない!
その時、大きな爆発音が大空に響いたかと思うと、黒い塊が私の方へと飛んできた……ってこれさっきのダンゴムシだ!
腹からたくさんの脚が見えてキモイ!
「きゃぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
思わず魔石ブーメランやらスピナーやら盾も投げる。
最後のダンゴムシは空中で散った。
「はぁはぁ……驚くと女の子みたいな声が出るわ……」
いや、女の子なんだけどね。
それにしても、今の大砲のような一撃。
来るのが遅かったわね……っと、いうことにしておこうかしら。
すぐさま丸太の壁の内側に戻る。
「やっぱりね」
パーティの頼れる主砲にして最強の移動の足、マンネンだ!
ということはパートナーも当然一緒。
「遅かったじゃない。ベラ、ユーリ!」
「元気そうで何よりですわ、マココはん!」
「お腹でてますよ! それにこの奇妙な状況……どういう事なんですか?」
おっ、反応的にそんなに私のこと心配してなかったな?
それだけ信頼されてるってことね。
「どういう事って言われると、長くなるんだけど……」
「私から話をさせてもらうわ」
サイクロックスの陰からシュリンが出てくる。
「この子ったら、石碑じゃなくて私をかばうのよ。何を守るべきか本当にわかってるのかしら?」
こんこんとノックするようにロックを叩くシュリン。ちょっと笑っている。
「うわぁ……こちらの御方もまた……一言では言い表せへん恰好してはりますなぁ……」
ベラも奇妙なシュリンの存在に興味津々のようだ。
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「なるほどなぁ……。要するにシュリンはんのスキルを使って砦を造ってまえば、後は守るも攻めるも楽んなるし最高や! ……ってことやな」
「なかなかいい理解の仕方ね。そういうことよ」
ベラとユーリの理解は早かった。
「にしても、そんなすごいスキルどうやって手に入れたんでっか?」
流石踏み込むなぁ……ベラは。
「ふふっ、焦っちゃダぁメ。そのうち話す機会が来るわ」
案の定シュリンはその疑問に答えず流した。
ベラもそれ以上は強引に踏み込まなかった。いや、相当我慢して踏みとどまったという方が正しい顔をしていた。
「さぁて、問題は夜までに石碑の防御と私の寝床の準備よ。時間が有れば家を一度ばらして持ってくるんだけどね」
「寝床なら一晩くらいはマンネンの中でええんとちゃうか? かなり快適やし安全やで!」
「……それもそうね。大きなカメさんには興味もあるしそうするわ」
「じゃあ、後は石碑を何かで囲っておけばいいのね。といっても、また丸太しかないけど」
「それなんですけど……」
ユーリが小さく手を上げる。
「さっき倒したダンゴムシがドロップした『キャノンボールムシの外骨格』が使えないでしょうか? あれで半球状のドームみたいなものを作って石碑を覆うんです」
キャノンボールムシというのはさっきのデカイダンゴムシの正式名称。ちなみにレベルは38。結構高いわね。
「……名案。それで行きましょ」
即決即行動がシュリンだ。みんなで拾ってきた素材を導きの石碑の前に集め、すぐドーム型の防壁を作ってしまった。
「はぁ……今日は力を使い過ぎたわ。ねむ……」
シュリンは車イスにもたれうとうとし始める。
「もう寝る?」
「まぁ……やれることはやったわ。まだまだ不安要素はあるけど、今日はもう……寝る」
すぐさま寝息をたて始めたシュリンをおんぶしてマンネンの中に運び入れる。
うーむ、当たり前だけど寝顔もかわいいわね。なんというか、寝顔には無邪気さがあるわ。
「で、私たちはこれからどうしよっか」
マンネンから降り、外で私たちは作戦会議をする。
「一時ログアウトして休憩と情報収集もええかもな。夜は万全の状態で防衛したいし」
「そうねぇ……でもそうなると今この時の防衛戦力が弱くなるわ」
今も物見やぐらで見張りを続けるアチル。
さっきの戦闘でのわずかな動揺を気にしているから、あまり一人にしたくないのよねぇ。
「先にベラとユーリが休憩して、私はその後でいいわ。ほら、私の装置は高性能だからさ。多少の無理はきくから」
とはいえ基本VR装置の生命維持機能は緊急用なので使いすぎてはいけない。
「じゃあそうしますわ! くれぐれも無理はせんように!」
「ちゃんとリスポーン地点に『架け橋の砦』が設定できてますね。それではマココさん、また後ほど」
二人はログアウトした。
と思ったらベラは戻ってきた。
「おっ! ホンマにココにログインできたで! それだけ確認しにきたんですわ! ほなまた!」
それだけ言ってベラは再びログアウトした。
「さぁ、私も見張りするかな。それとも夜に備えて松明でも用意するか……」
でも虫って光によって来るのよね。明かりを消して真っ暗にした方がいいのかしら?
なんてことを考えていると、背後からぷにゅぷにゅという奇妙な音が聞こえてきた。
振り返ってみると、そこには大きな土色のトカゲ(サンショウウオっぽくも見える)に乗ったレモン色の髪の女性がいた。
「……わぁ!? あなたマココさんでしょ!? お久しぶり~!」
馴れ馴れしいこの女性は誰だ。
いや、わかっている。アチルの言っていた情報から考えてもこの人はエリカ・トリック。
私も以前会ったことがある……はずなんだけど、なんか雰囲気変わってない?
まあ、そんな深い関わりではなかったけど……。何があったのかしら……。




