Data.87 イーストポイント防衛作戦会議
シュリンの家は彼女の言うほど小さいものではない。
といっても、車イスで生活しやすいように通路などが広めに作られている感じなので部屋数は少ない。
「あ、ごめん。ここイスがないんだった」
リビングには机だけがポツンと置かれている。
車イスで生活する彼女に普通のイスは不要なのだろう。
「薪かなんかで作ろうか?」
「いえいえ、立ったままでいいわ」
少し落ち着かないけど長話をするつもりはない。
早く仲間と合流して無事を伝えること、それにこれからどうやってモンスターと戦っていくか……。
あのムカデほど強い奴はそういないでしょうけど、環境が悪いので効率よく戦えないことがわかった。
ここには冒険の拠点となる場所がない。
アイテムも買えない。装備の修復も出来ない。そして何よりログインログアウト出来るポイントがない。これは重大な問題よ。
国の兵士たちがなにか拠点の代わりになってくれると思ってたけど……。
「そういえば、二人はアクロス王国の兵士を見たことがある? ここらへんに来てたらしいけど……」
「はい知ってますよ! 私がモンスターを狩りにここらへんまできた時、たくさん人が倒れてたんですよ。きっと、それが兵士さんだと思います」
アチルが答える。
モンスター狩りねぇ。彼女は私と別れて以降も戦い続けていたようだ。
装備もかつての村人の服とはワケが違う。動きやすさはそのままに頑丈そうな生地を使っている。
それにレザーアーマーというのかしら。何かの革製の防具もつけている。
すっかり一人前の戦士ね。
変わらないところといえば両手のガントレット一体化クロスボウ。先ほどは明らかに接続形態を使用してムカデを倒していた。
まあ、そこのところは後で聞くとして……。
「その兵士たちは今どこに?」
「はい、エリカさんがサドンちゃんでイスエドの村に運んでいるところだと思います! 一応意識のあった人に人数を確認してから探しに探したんですけど、一人だけ見つけられませんでした……」
「あっ、その一人なら私たちが見つけたわ。予定通りならいまマンネンで村まで運んでるはずよ」
「そうだったんですか! いやぁ、良かったです! これで全員助けられました!」
「喜んでるところ悪いんだけど、エリカとサドンちゃんって誰?」
「ええーっ! サドンちゃんはともかくエリカさんは会ったことあるのにー!」
「そ、そうだっけ……?」
エリカ……確かに聞いたことがあるような……あっ。
「確か元騎士団の子よね。自分なりのスタイル探しのためにイスエドの村に残った。エリカ・トック……いやトリックね」
「そうです! そしてサドンちゃんとはエリカさんの仲間モンスターのオオサンドトカゲなのです! ちょっとお顔はおマヌケに見えますが、足が速くて電気に強いのでエリカさんのパートナーにぴったりなんです!」
「そ、そうなの。彼女もまた成長しているみたいね」
また会ったらいろいろ聞くとしよう。
とりあえず今は……。
「シュリンはどうすればモンスターの侵攻を食い止められると思う?」
「山間に私の力で防衛拠点……そうねぇ、砦でも作れば良いんじゃないかしら」
「そんな巨大な物も造れるの?」
「出来る。やったことはないしどれだけの材料や魔力が必要かはわからない。でも必要なものさえ揃えれば創り上げてくれるのが私のスキルよ」
「逆に言えばそれだけのものを集めないとスキルは使えないってことね」
「決して万能ではないのよ、残念ながら」
「それでも普通に建築するよりずっと楽だと思うからぜひ協力してほしいわ」
「ええ、喜んで。誰かから求められるというのは気分が良い」
さて、そうなるとどうやって必要なものを集めるかよね。
そして、集めてる間も敵は来る。
忙しくなる。ログイン地点がもっと近くにあれば動きやすいんだけどなぁ……。
「ふふっ、降り立つ地点がここら辺にないから悩んでいるといったところかしら?」
シュリンが妖しく微笑む。
「さっき大ムカデとの戦いで『死なない』って言ってたわよね。昔、孤独を紛らわすためにたくさん読んだ本の中に書かれてたのよ。神の使徒と呼ばれる存在のことが。天より送り込まれる使徒は特定の地点にしか降りたてない」
「そうなんですよ! マココさんは神の使徒で、たまに天に帰らないといけないんです! だからここを防衛するには近くに行き来できる場所が欲しいんです!」
私とともに冒険した経験があるアチルが全て答えてくれた。
「やっぱりそうなのね。頼もしいわ」
うんうんとシュリンが頷く。
「あなたをこの世界へ導く地点を作る方法……心当たりがあるわ」
「もしかして作れるの!?」
「まっさかぁ、神の領域に踏み込むほどの力はないわよ。ただ、一応これでも知の種族エルフの端くれ。知識はそれなりに蓄えているわ」
シュリンは本棚から一冊の本を取り出す。
「神々の石切り場……そう呼ばれる神聖な土地がここからそう遠くないところにある。もともとは誰かが管理していたらしいけど、今は無人の土地よ。そこには『導きの石』と呼ばれる特別な石があって、何でも神の力が宿るという伝説があるの。名前からしてそれっぽくないかしら?」
導きの石か……確かに何か導く力がありそうな名前だ。
「そもそも使徒が降り立つことの出来る場所にはなんらかのパワーアイテムがあるとされているわ。その種類は様々らしいけど」
「じゃあ、私の村にも何か特別なものが置いてあるんですねぇ。心当たりがありませんけど……」
私もあまり町を隅々まで探索とかしたことないから、今までログイン地点にしていた町や村に特別なものが置いてあったか覚えていない。
まあ、そういうものは簡単に触れられない場所に保管されているのかもね。
「マココ、あなたには今からその導きの石を手に入れるために動いもらうわ。アチルは私の護衛、砦の建設予定地の下見に行くからね」
「わかったわ」
「了解です!」
「あっそうそう。マココは今一番の武器が使えない状態だったわね」
「うん。でも、大丈夫よ。他にも武器はあるし、砦の計画を進めないと危険な状態が続いてクロッカスが安心して休めないから」
「うぅ……クロッカスさん心配です。クララもショックで喋らなくなってしまいました……」
アチルが黒いクロスボウを優しく撫でる。
「カースド・クロスボウに宿る【小悪魔の悪戯心】はクララっていう名前なのね」
「はい……ある日、戦いの最中に目覚めて私を助けてくれました。やんちゃなようでとても繊細な子で、兄のような存在であるクロッカスさんに興味がないようなフリして、実は会えることを楽しみにしていたんです」
「それは……申し訳ないことをしたわね……。私が不甲斐ないばっかりに……」
「そんなっ、マココさんのせいじゃないですよ!」
「あーはいはい、そこまで。傷の舐め合いは見てられないわ」
シュリンがパンパンと手を鳴らし話を遮る。
「その傷は舐めなくったってこれからの行動で治せる傷よ。砦作戦は完成が早いほど効果も大きい。立ち止まってる暇はないわ」
「それも……そうね。私行ってくるわ」
「ちょっとちょっと、まだ場所も伝えてないんだけど」
そ、そうだった……。
シュリンは紙にさらさらと簡単な地図を書いて私に手渡してくれた。
「森は同じ景色が続いているように見えて全然違うの。注意深く歩けば迷うことなんてないわ。地図には目印として最適な物を書いてあるからよーく見るように。それと誰か魔石でも持ってない?」
「あっ、私持ってるよ」
アイテムボックスからいくつか魔石を取り出す。
「まあ、珍しいスキルを持っているじゃない。すばらしい」
「マココさんいつのまにそんなものを!」
「えーっと、まあいろいろありまして……」
その話は長くなってしまうのでまた今度。
「うーん、そうねぇ……。よし、はっ!」
発動される【創造魔法円】。
魔石を材料に作り出されたのは超シンプルな『く』の字型ブーメランだった。
「こんなもんかしら。とりあえず頑丈に出来てると思うから雑に扱ってくれて結構よ。材料ももともとあなたのものだし」
「ありがとう……っと」
このブーメラン、少し重いわね。まさに石をそのままこの形にしたようだ。
ブーメラン術のスキルが低いと飛ばない気がするレベルだけど、私には問題ない。
「じゃ、今度こそ行ってきます。ああ、もし私の仲間が来たらこの計画を伝えてあげて。きっと手伝ってくれるから。アチルは覚えてると思うけど、大きなカメに乗って来ると思うから攻撃しないでね」
「あら大きなカメですって、それは楽しみね」
「確かベラさんとマンネンさんでしたね。会ったら伝えておきます! 行ってらっしゃい!」
アチルの見送りを背に私は森の中を進む。
たくましく成長した彼女がいればとりあえずシュリンは安全だ。自分の目的に集中しよう。
それにしてもまさか砦を建てることになるとはね。でも、今ならそれだけの対策も当然のように思える。
戦いには拠点が必要だ。ボス一体倒すだけならまだしも、これから大群を相手にするんだから。
そういえば、まだその『大群』を見てないなぁ……。
まぁ、見えちゃってたら遅いんだけどね。……急ごう。
◆武器詳細
―――基本―――
名前:魔石ブーメラン
種類:ブーメラン
レア:☆30
所有:マココ・ストレンジ
攻撃:60
耐久:60
―――技能―――
なし
※残りスキルスロット:1
―――解説―――
魔石製のシンプルなブーメラン。
頑丈で攻撃力も高いが、重く扱うには熟練の技術がいる。
※本編に入らなかったステータスなどの一部はこれから後書きに書いていこうと思います。




