Data.76 暗黒と光輝
視界は真っ黒だ。
えーっと、ノリでアランとシロムクの真似事をしてみたけど、こっからどうすればいいんだっけ?
なんか叫んでたわよね。
なんだっけ……あっ、そうだ!
「ハートリンク!」
「ハートリンク!」
黒い炎が形となる。
傷が埋め合わされ、全身に力がみなぎってくる!
「「接続形態・邪悪なる悪魔!!」」
かつては意識が無くてよくわからなかった姿も今はよくわかる。
装備は侵食ではなく完全に一つのものに変質しているため、統一感がある。
ところどころに曲線の多く丸みのある装甲が生成され力強さが増すとともに、スカートや袖に裾にフリルがつき可愛さもなぜかアップしている。
色はもちろん黒がメインで引き締まった印象を与えつつも、ところどころ赤の主張も激しい。抑えきれない力を表しているのだろう。
クツはまたまたどうしてかハイヒール。かかとが武器みたいな鋭さで歩きにくそうだけど不思議と安定感がある。
……って、前に暴走した時ってこんな姿だっけ?
あれは暴走だから不完全だっただけなのかしら?
まあ、それは置いといてこのコーデを一言で表すならゴシック&ロリータ&アーマー……『ゴスロリアーマー』ね。
リアルでもゴスロリなんて着たことないけど……。
「その姿はプレイヤーのなりたい姿が反映されるらしいですよ」
「えっ、ホント?」
私、心の奥底ではこういう格好をしたかったのか……。
「いや、僕は割と理想の姿になったんで『そうじゃないかな?』って思っただけなんですけど」
「……」
敵のことを安易に信用し過ぎるのはダメね……。
「にしても、本当に接続形態を一度見せただけで成し遂げてしまうとは。すでに資質があったとはいえすごいことですよ」
「だから私には見せたくなかったと」
「そういう事です」
アランから焦りは感じられない。
無論、ここまで予想のうちということね。
「同じプレイヤーとして素直に祝福……するワケにもいかないので、まあその姿に慣れる前に倒させてもらいます。マココさんは舐めてかかれませんから、面白味が無くてすいませんね」
再びアランが一瞬で距離を詰めてくる。
このスキルは超スピードの移動技。弱点は止まってからじゃないと攻撃のスキルを使えないこと。
本当に使えないのかはわからないけど、早すぎるスピードの中では狙いも定まらないだろう。
だから、対応する時間はわずかに存在する!
「連鎖縛糸炎!」
黒くなり形状も変化したハンドスピナーブーメランを六つすべて投げる。あえて正面からは少し外して左右に三つずつ。
「なっ、アツっ! これは……炎の糸か!」
前と変わらず正面から突っ込んできていたアランが黒い炎の糸に引っかかる。
【連鎖縛糸炎】はブーメランとブーメランの間に炎の糸を発生させるスキル。
先ほど左右に投げたスピナーブーメランの間にはこのスキルによって生み出された糸が計三本張ってあったのだ。
そして、ブーメランが手元に戻ってくるときに糸は一周し、対象は完全に捕縛される。
「守護星を抱く天球!」
アランを中心にいくつもの光の輪が現れ、その輪を軌道に輝く球体が公転し始める。
光に触れた黒い炎はかき消され、アランは捕縛を脱する。
そして、なおも光の輪と球は消えない。
「いきなり大技を出さざるを得ない状況になりましたか。やはり、あなたは危険すぎますね!」
二振りの剣が光を帯びる。
さぁ、どうかき消して本体にダメージを与えようか……。
とりあえず、私もメインウェポンを使わなければ。
「クロッカス」
「別に背中のそれが俺ってワケじゃないぜ。全部一体化してるからな」
私もアランと同じように背中に翼が生えている。
しかし、これは飾りではない。ブーメランだ。
デザインは『邪悪なる大翼』に似てるけど、大きな違いは四枚翼になっていること!
『く』から『X』になったことで純粋に破壊力は増している。
私は速さではアランに劣る。
だから、今みたいに正面から向かってきてくれているうちは正面から叩き潰す動きでいい。
パワーでは勝っているはずよ!
「そぉーれぇーッ!」
背中のブーメランを取り外し、ただ思いっきり投げる。
翼の数が倍になってるわけだから重さも以前よりあるはずなのに気にならない。
この形態はシンプルに身体能力も上がっているんだ。
投擲されたブーメランは回転しながらアランに迫る。
その最中、四枚翼の先端部分からブースターのごとく黒い炎が噴きだし、ブーメランが『卍』のような形になる。
そう、この『四枚の死翼』は投げた後にも加速し威力を増す!
ギィィィィィィイイイイイイッ!!!
「むっ!! ぐぐぐッ……重い……ッ!」
ブーメランは回転が速くなりすぎてもはや電動丸ノコギリのような音をたて二振りの剣を裁断しにかかる。
何とかその勢いを殺そう接近してきた光の輪や球体はすでに切断された。
「むぐぐぐ……ッ! 二刀流では受け止めるのがやっとか! ならば!」
『白の太陽』と『青の月光』が光となり、一瞬で混ざり合った。
「こんなろォーーーーーーーーーーッッ!!!」
新たに出現した剣で『四枚の死翼』を弾き返すアラン。
「呆れたわ。あんたの本気は相当スロースターターなのね」
「冗談はよしてください……。この剣は確かにあの二振りより強大ですが重くてね……。自分の長所であるスピードを殺してしまう文字通り『もろ刃の剣』なんですよ」
確かに新たな剣は刃が長いものの幅が狭かった以前のものと違い、長く幅も広い『大剣』と言った感じだ。
「正義の大剣……そろそろ決着をつけましょうか……マココ・ストレンジさん」
「そうね。アラン・ジャスティマ団長」
一瞬の沈黙。
「獄炎灰塵旋風!」
ブーメランの周囲に黒い炎と風が発生する。
それは渦を巻き、中心のブーメランに負けないほど回転することで風による斬撃が可能となる。
切り裂き燃やす……後に残る物は灰と塵のみ!
「それは希望の光!!」
剣を一振り。
その軌道から黄金の光がほとばしり、風と炎をかき消す。
「ぬうんッ!」
丸裸になったブーメランはもう一振りで私の元へはじき返された。
「これじゃ決着はつきませんよ。あれだけ言ったのだから本気……見せてくださいよ」
「あら、根に持ってるの?」
黒に染まった龍の技……。やはりそれで決着をつけるしかないか。
(どうなると思うクロッカス?)
テレパシーで一応聞いておく。
(わからないな。あいつらは強い。でも、俺らも強いじゃん?)
(そうよね)
やはり聞くまでもなかったわ。
もうわかっているのだから。
「暗黒物質堕龍回帰刃!!!」
『四枚の死翼』が私の手を離れた瞬間、黒い炎……いや、破壊に満ちた黒い物質に包まれる。
やがてそれは邪悪な黒い龍の姿になり、光を放つアランを喰らおうと迫った。
「気高き正義は立ち止まらない!!!」
無論ただで食われるアランではない。
全身を覆って有り余り天に吹き出す光を両手に収束させ、かなり高いフロアの天井を突き破らんとするほどの超巨大な光の剣を創り上げた。
それを大きく斜めに振り払い、暗黒の龍を口から引き裂きにかかる。
暗黒と光輝……二つの圧倒的な力がぶつかり空間を黒と白に点滅させる。
視界がモノクロになり、やがて私の視界は黒に染まった。




